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孤独な姫君たちの蜜の駆け引き  作者: 和泉葉也


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王の義弟(2)

「うちの姫様は、お戯れがお好きなようね……」


 侍女長のリリスは、すっかり冷え切ったポットを交換し、ベッドシーツを新しい物へと替えていく。

 薄茶色の髪を高く結わえ、凛とした背中を見ていると、とてもエリヴァルの一つ上で、まだ幼い女性には見えない。没落貴族の妾の子。そんな人生を経て、彼女は次期女王のお付きとして寝食を共にする。


「いっそ、リリスが王になった方が、この国にとっても役立つと思うな。全く血を継いでいないわけでもないんだし、今からでも陛下の養女申請に走ってくれたら、ボクは全力で推薦するよ……」


「ーーー世迷いごとを。低俗な物語の読み過ぎですわ。エリヴァルイウスの方が王たる資格を充分に持っている事は、この国に知らないものは居ませんから……」

「大層なお言葉だね。ボクは食後のショコラフレーバーが気になっているだけの、平凡なお子様だよ」


 新しいカップにホットチョコレートが注がれ、ガナッシュオイルが振りかけられる。あまり姫様らしくないと、リリスにしか出して貰えないエリヴァルのお気に入りだ。


「私としては、王弟オーカス様より、アキニムと結ばれて王位に就く方が楽しいですけどね」

「ボクとリリスが姉妹になるとか、ちょっと想像付かないな。アキニム様は爵位をお持ちではないし、良い方だけど恋は多難になるんじゃないかな」


 リリスから見ると、アキニムは義理の兄に当たる。正式な血縁関係は従兄妹になるが、王室の侍女に上がるには後継人が必要だったため、アキニムの父の養女になったらしい。

 次期女王の専属は、王宮でも一番のエリートコース。そのままエリヴァルが王位に就けば、行く行くは摂政補佐や女官となり、未来の国王の乳母にだってなれる。妾の子と蔑んだ元の親たちは、その後の養子縁組みを大層悔しがったらしい。


「姉姫さまと三姉妹になれるなら、義兄の恋を応援したいですね。少しでもその気が有るなら、お情けにでもかけてやって下さいませ」

「ボクにその気があったら、すぐにでもお母様は……いえ、陛下は国を挙げて婚礼の儀を催すだろうね」


「それでは、王弟オーカス様の方はいかがです? 仲が宜しいのは存じてますが、お互いの軋轢が邪魔をして先に進めないまま過ごされるのも、そろそろ限界でしょう」

「叔父上ね……。権力争いや野心さえなかったら、ボクは純粋な意味で、恋に堕ちていたかもしれない」


 オーカスは、正式な継承権を持ってはいない。そういう意味では、末席でも王族に連なる血筋を持つリリスの方が将来は有望だ。だが、次期女王が確定しているエリヴァルと婚姻を結べばその地位は遥かに盤石のものとなり、生まれてくる御子は次期王の位が約束されている。別に嫌いな相手ではないし、それなりの好意も抱いている。気に障るのは、彼が自分と姉との仲を引き裂いて、半ば強制的に縁談へと持ち込んだ件だ。


 薄紫の長い髪を揺らした、半分だけ血の繋がった愛しい姉姫は、見るもおぞましい魔獣のエサになった。貴族の名を付けてはいるものの、あんな釣り合わない相手に美しい姉を取られるとは---。


「いっその事、叔父上が姉さまを獲った方がまだ許せたのに……。皇位継承権問題とかは知らないけど、民意的にも、その方が納得出来たんじゃなかったかな……」

「それはそれで、怒り心頭に達するのは間違いないでしょうけどね」


 愛しの姉が王宮から姿を消した際の調度品被害を思い出し、リリスは名簿に記した金額を数えながらため息を漏らした。


「ねえ、侍女たちの間で何人が、ボクと誰がくっつくかを賭けているんだろうね?」

「全員でしょうね。私は、身内びいきでアキニム兄に賭けました。賭け金は相場の五倍という所です」


「そう、五倍の賭け金……。悪いけど、ボクは意地でもアキニム様とだけは結婚しないよ。そのままお給金を、給仕場に全額吸い取られればいいんだ」


 大きく伸びをして、すっかり空になったカップをソーサーに戻す。この分では、炊事場の下女まで恋路の賭け事に熱中しているだろう。今後はオーカス叔父様がご持参のお菓子には、媚薬の類でも仕込まれているかもしれない。


「そうだ。リリスとボクが結婚すればいいんじゃないか? 血筋は濃くなるし、後継者不足も解消されて我が国の将来は安泰だよ」


「……姉姫様とのライバルの私が、ですか。何という非生産的な思いつきでしょうね、エリヴァルは口から玉子でも産み落とすおつもりですか?」

「産み落とすのは、リリスの作業だね。姉上を有望なる貴族に盗られた責任を果たしてもらうよ。

 女王もお喜びになるし、私は玉子を温める役割を全う出来る」


「残念ですが、私の心は姉姫様のものですから。経産婦になられてからの乳母の地位を、こっそりと狙っておりますので。あ、別にエリヴァルの次代様の乳母役でも構いません。お二人が子供を作れば、掛け合わせて婚姻を結ぶのは確定ですし」


「――ボクと姉上がそれぞれ子を成したら、それこそボクに逃げ場がなくなるよ」

「忠実なる侍女のリリスティンは、イウス女王の即位を、心よりお待ち申し上げております……」


「姉上が皇子を産んで、その御子とリリスが結ばれれば、更に地位は万全じゃないか。産まれるのは悔しいけど、もしそうなったら、ボクがその子と結婚するけどね」

「そうすると、お嫌いなお貴族様が、エリヴァルの義理の父君になりますね」


 苛立たしそうに、角砂糖を指で砕く。その未来は謹んでご遠慮したいので、その場合彼には最前線で殉死して頂こう。


「まあ、卵を温める日々に追われるのは、エリヴァルの方ですけどね。来週末からは、婚約者レースに巻き込まれた不幸な義兄をよろしくお願い致しますわ」

「だから、アキニムとは……来週、何だって?」


「ご存知なかったのね。姫様の両隣のお部屋と、上の階の部屋は、全て婚約者レースの出走馬の宿舎となりました。出入り自由の私の小部屋には、シード権を獲得されたオーカス様がお住まいになられます」


「……それって、もしかして」


 元老院の命令。女王の采配。そんな単語が浮かんでは風船のように弾けて行った。

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