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孤独な姫君たちの蜜の駆け引き  作者: 和泉葉也


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17/22

苦い記憶との別れ

 長時間湯に浸かり、すっかり身体を火照らせたエリヴァルはシーツに転がって、オーカスの背中を幾度も叩く。


「全部食べ終えるまで、ボクの口に果物を押し込まなくてもいいじゃないか……。これでは、頂いたお菓子を食べられそうにもない」


「もっと。と、せがんで来たのは、エリヴァルの方だったな」

「それは、そう……かも知れないけどさ」


 夜着姿のまま叔父の肩に手を回し、エリヴァルは恥ずかしそうに頬を寄せた。

 髪を撫でて額に口付けられ、暖かな毛布が身体を覆う。


「……お願いとやらは、何にするか決まったのか?」

「叔父上へのお願いは、そうだね……。そろそろ春めいて来たし、髪を短く切って貰いたいんだ。出来れば、切った髪は姉上に送ってくれると嬉しい」


「お前が、髪を切るのか? 腰まで伸ばして、毎日丁寧に手入れをして来たのに」


 思えば、整える程度にしか切り揃えた事が無かった。どんなに苦しい時も、長く伸びた髪が自分を守ってくれるような気がして、どうしても短くした姿を想像出来ない。


 カスティア王女からのつらい教育の時でさえ、髪を弄られるのを拒否して来たから、記憶にも無い幼子の時くらいしか切った事が無かっただろう。


「思春期が、終わったようなものだからね。式典や公務の際は帽子か付け毛でもして、伸びるまではここから出なければ済むよ」

「それならば引き受けるが、その髪。ひと房は……私が貰い受けても構わないか?」

「もちろん、貰ってよ。その代わり、姉上に贈る際は豪華な箱に詰めて、花飾りも付けて欲しい……」


 布で束ねられた髪が解かれ、蜜色の髪はシーツに広がっていった。呼応するかのようにオーカスも髪をほどき、エリヴァルの長く伸びた髪を手繰り寄せて口付ける。


「最高の職人に仕立てさせよう。髪が短いお前を見るのは、姉上が城外の屋敷で暮らしていた時以来だから、楽しみだな」

「案外、長かった頃より似合うかもね……。髪が短い王女が一人くらい居ても、この国は安泰だよ。ねえ……このまま、叔父上に」


 小脇に置かれた剣に目を向け、オーカスに帯刀を促す。目尻から溢れてきた涙を拭いながら、それを手に取りオーカスは鞘から引き出した。


「調髪師が切った方が、いいのでは無いのか……」

「叔父上に、切って欲しいんだ。髪は後で整えて貰えればいいし、別れを告げるなら叔父上にして貰いたい」


 名残惜しそうに長く伸びた蜜色の髪を触りながら、一瞬だけ躊躇って剣を振るった。

 見事に切り揃えられた髪は寝台の小箱に収められ、ついでとオーカスの髪も短く切られる。


「何も、叔父上まで切らなくったって……」

「単なる一族の風習で伸ばしていただけだったからな、特に好きで長くしていたわけでもない。お前の髪をひと房貰う代わりの返礼のようなものだ」


 やや小ぶりの漆黒の髪をエリヴァルは宝石箱に収め、何だか似合わない二人の姿を鏡で見直して笑った。


「剣術の達人でも、調髪師には叶わない。と言う事だね、二人して明日は爽美師や侍従に小言を言われるのかな……?」

「元老院への詫びを込めて、罰として切らされた。とでも話しておけば、長老方の溜飲も下がるだろう」


 すっかり短くなった髪のせいで、首筋と肩がひんやりしてきた。叔父の上に跨がってキスを浴びせても髪が乱れず、何だか新しい気分になる。


 春の訪れと共に、残り二人の婚約候補者がオーファルゴートにやって来る。

 苦い想い出が詰まった日向の大部屋は他人の住まいとなり、迎えるのは髪を短くした姫君。


 叔父の腕を枕に抱いたまま、思春期の終わりを告げたエリヴァルイウスは眠りについた。

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