日向の部屋へ(2)
「……王女殿下、リリスティン様の御支度が調いました」
侍従に手を引かれ、お針子たちによって修繕されたドレスを身に纏ったリリスが姿を現す。
薄紫のレースは白と朱色に置き換えられ、胸元はやや強調されて仕立て直された。水晶細工のピアスが頬に触れ、少々癖のある薄茶色の髪は丹念に巻かれていた。
「なんだ、お似合いじゃないか。やはり、姉上の衣装は背の高いリリスに向いていると思っていたんだ。
あれ程拒んでいた装飾用の耳穴まで空けられて、もう逃れようもないね……」
「私としては姉姫様のお下がりを身につけられて有り難いですが、エリヴァルは……本当にいいの?」
「主人が帰らない部屋と着ることも無いドレスを残したままでは、侍女たちも毎日の掃除が大変だからね……。前々から陛下に処分を命じられていたし、それなら誰かに着て貰えた方が、ずっといいよ」
自然と、エリヴァルの目の端から涙が溢れる。
いつかは姉上が戻って来てくれるのではないか、嫁ぎ先がイヤだとここに逃げ帰ってくるのではないかと淡い夢を抱いていた自分。姉と自分と、それからたまに叔父との談笑を繰り返していただけの場所は、陛下や元老院の言いつけで人の住まう部屋になる。
それならば、壊される前に同じように姉を想うリリスに委ねてしまえばと……。
「エリヴァル。突然こんな話に巻き込まれて、思い悩んだりもしたけれど、私はずっと貴方の側に居られる可能性が出てきたのは嬉しいのよ。ただの侍女長では、やがては嫁いで王宮を去らなくてはいけないし、王族に仕える者は不正を避けるために数年で移動になってしまうんですもの」
優しく抱き抱えられると、ほんの僅かな姉上の残り香が優しく誘う。思っていたより気が弱くて、少し情けなくなってきた。
「そうだね、こんな機会でも無ければリリスとも引き離されたよ。もしもそうなっていたら、ボクはきっと気でも狂って塔の中で一生を終えたかもしれないね」
「エリヴァルがそんな事されてたら、ルブライト家の財力を屈指して元老院を潰してやったわよ」
「ーーー暗殺に毒殺、だったっけ」
「そうね、やっていたかもしれないわね……」
歓迎の挨拶を口にしながら、エリヴァルはリリスに唇を這わせた。涙の雫が溢れ落ちるのを拭いつつ、姉妹のように抱き合って互いの温かみを感じ取る。
「貴方がどんなに泣いても、姉姫様の部屋はもうリリスティンの部屋ですからね。長老連中に想い出を壊されるもんですか、いつかは姉姫の御子がお住まいになった際には、このお衣装を縫い直して引き渡してやるんですから」
「そうだね、もしも姪が産まれたらボクたちのオモチャ確定だ。甥だったら陛下やご老人の傀儡になりかねないし、姫君がお産まれになる事を今のうちに祈っておくよ」
息ももどかしいくらいに口が塞がれ、慣れないコルセットで拘束されたリリスが呻いた。そっと金具に手を伸ばし、背中の紐を緩めていく。
「次からは腰位置を調整する時に、息を吸っておいて大きめに固定して貰うのがコツだよ。ボクはこっそり指を挟ませて誤魔化しているけどね……」
「挨拶にしては、少し戯れが……過ぎます……。ちょっと、エリヴァル! それは!」
固結びにされていた紐が解けられ、リリスの豊満な胸元が露わになる。ウエスト調整のための紐跡が赤く腫れ、細かな擦り傷が出来ていた。
「男たちの歓迎会は緊張の連続で終わってしまったからね、リリスの引っ越し祝いは素肌の付き合いと行こうか」
「憎らしいくらいに、エリヴァルのコルセットは肌に馴染んでるわね。この細いウエストといい、あれだけお菓子を隠し持っているのに、どこで発散しているのかしら?」
肩布を外し、留め具と固定の紐を解いていくとエリヴァルのやや小ぶりな胸が姿を見せる。真っ白な傷一つない肌に、滑らかな感触が眩しい。
「ニオブや侍従も呼んで、歓迎会の再開と行こうか。もう炊事場は閉まっているけど、簡単な茶菓子ならまだ有ると思うよ。この間のラベルも余っているし、少し飲み直したい気分なんだ」
「この格好のままで……? そうね、巻き込んだ責任者にも脱いで貰いましょう。男たちの引っ越しはまだ済んでいないし、騒いだ所で宰相補佐殿を止めに来る兵士も訪れないわ」
ニッコリとお互いに笑いながら、二人で呼び出しのベルを鳴らす。
現れた途端に胸をはだけた姫君達に拘束された宰相補佐殿は、何も言えずに衣服を剥ぎ取られてワインを口にする事となった。




