日向の部屋へ(1)
ノースに案内され、陽当たりの良い部屋の隣にある小部屋の扉を開くと、見知った自分の荷物と一緒に何処かで見かけた豪奢なドレス達が衣装ケースに吊されていた。
淡い紫陽花色のレースと光沢のある乳白石が縫い付けられ、添えられたブローチが見事に輝く。
数年もそのままのわりに塵一つ無く、室内は当時のままに整えられていた。
「……このお部屋は、まさかとは思いますが」
「もちろん、我が国第一王女殿下のかつてのお住まいです。大部屋を好まれないお方でしたので、少々姫君としては簡素な造りになっておりますが」
「そうではなくて、何故私が姉姫様のお部屋をお借りする事になるのです!」
「何故と申されましても……」
モーニングティーの準備をしていたノースは、首を傾げつつ着席を促した。
薄紫を基調にワンポイントに赤石をコーディネートされた室内には、何度となくその姿を映した銀色の大鏡が日差しを受けて輝いている。
「もうお戻りになられないとの事ですし、エリヴァル様も是非使って欲しいとのお話でしたから……。そうそう、ご衣装はお針子がリリス様に合わせて縫い直しておりますので、後で装飾品や飾りも揃えますね」
「私が、姉姫様の残された服を……?」
皇位継承はないとは言え、あれだけの美貌と暖かみを持っていた城内で働く者全てが憧れる存在。その忘れ形見を身につける元侍女長に対して、締め付けや非難の嵐が襲うのも無理もない話だ。ルブライト家が暗殺やら毒薬の取り引きと悪い噂を流されても、それはもう噂の出どころを抑えるのは諦めるしかない。ティーカップを差し出しながら、ノースは侍女や給仕の者に刺されないようにお気をつけてと囁く。
「私では、似合いませんのに」
「姉姫さまのために作られたお衣装ですからね。リリス様が合わせるには多少、色を合わせ直す必要が出てくるでしょう」
「……ふう、わかりました。ここまでお膳立てされては、着飾らないわけにもいきません。その代わり、私をリリス様と呼ぶのは止めて頂けるかしらノース? もちろん、他の侍女や侍従にも」
「では、まずは採寸直しを行いましょうか」
呼び鈴が鳴らされ、背丈の小さな針子の少女達がお辞儀をして部屋に入ってくる。
慣れた手つきで巻き尺を動かし、長く伸びた髪を巻き上げていく。二の腕が太い、胸が大き過ぎる等のノースの小言も囁かれるが気分は悪くなく、城内で最大とも言える栄誉に酔いしれた。
「エリヴァル様と第一王女の姿を対の美姫と呼ぶ者は多いですが、リリスと並んだ姿に憧れる侍女も大勢いましてよ。まだ戸惑っておいででしょうが、それまでの仕事ぶりや後輩への指導の賜物ですわね」
「そう思ってもらえると嬉しいのだけどね。ただ、私は地位や王位を求めているわけではないけど、姉姫様のお召し物を着られるのは、本当に嬉しいし……震えているくらいよ」
「まあ、本音を申しますと私も給仕もお針子も、憎らしい限りの怒りに燃えておりますが。エリヴァル様や陛下がどうしてもとおっしゃられるので、妥協して差し上げます」
チクチクとまち針が刺されかねない採寸ではあるが、仮当てされる布地はリリスに合わせて直されていき、まるで結婚の前日か社交界入りを果たしたかのような充足感を覚えた。
そういえば一番背の低いお針子は、まだ不慣れだったはずなのに短期間で随分と成長していた。今まで一緒に仕事をしてきた相手に礼を尽くされるのは恥ずかしいものがあるが、見知った顔を見ると少しだけ緊張の糸がほぐれる。
「変更箇所は少ないようですね……。お召し物を着せなおしますので、手を上に掲げてください」
再び丁寧なお辞儀をして針子や給仕が退出し、今度は脱いだ衣服やコルセットの付けなおしだ。
侍女時代の物とは違い、誰かの手を借りなければ留め金や固定する紐を外す事も出来ない。エリヴァルはよく、こんな仰々しい物を身に着けてお菓子を食べていられるものだと不思議で仕方なかった。




