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孤独な姫君たちの蜜の駆け引き  作者: 和泉葉也


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王の義弟(1)

第一章 退屈なクイーンと呼ばれた姫君


 豪華な宮殿に囲まれ、贅を尽くした部屋に身を委ねる日々の繰り返し。

 下界に降りる事も叶わず、見るばかりは雲の動きと鳥のさえずり。お付きの侍女たちがご機嫌伺いの雑音を口にしては、薄蜜色の長い髪に櫛を入れていく。

 赤い塗料と砂銀で彩られた指先を弾いて下がらせると、広すぎる室内はすぐに静まり返った。ベッドに横たわり、すっかり冷たくなってしまったその場所に、かつての姉の匂いを感じ取る。


 人々から退屈なクイーンと呼ばれるエリヴァルイウスは、母である女王退任後、即位する事が定められていた、神々の小さな国の姫君。父親違いの姉には継承権はなく、有力貴族の繋ぎとして嫁いでいった。

 もう、何年になるだろう。愛しの姉からは便りもなく、王宮に帰還する事も許されない。戻るとすれば子を成し、完全に人の妻となってからの事だろうか……。


「---ボクに対する陛下からの特別な配慮、かな」


"姉は己の使命を成し遂げた。妹のお前も即位後は婚姻を結び、王族の繁栄のために貢献なさい"


 王がエリヴァルと満足に会話したのは、いつの事だっただろう。継承権を持つ唯一の子供が次代を産まなければ、王室は遠縁から薄い血筋を引っ張って来るか、それとも姉が中継ぎの王として即位するか。

 姉さまが即位する方が向いている。エリヴァルは冷めた紅茶を口にしながら、遊ぶように綿菓子を口に放り投げる。

 

「お前に贈るのは、砂糖菓子の方が良かったか? それとも、水蜜桃の方だったか」


 侍女たちが去るのを見てやって来たのか、それとも覗き見でもしていたのか、王の義弟。エリヴァルにとっては叔父にあたるオーカス・ウォムは、束ねた自分の黒髪に触れながら、手で先日の髪飾りの形を描いた。


「---金の髪飾りで趣味も良くて、さすがオーカス叔父様だと思ったよ。でもボクには、こんな華美な物は要らなかったけどね」

「相変わらず、気品のない語り口調だな。愛しの姉上にでも毒されたのか……?」


「さあね、話し方はどうだっていいだろ。ボクはクイーンになるつもりもないし、そんな上流階級の作法を身に付けているはずもないよ。

 叔父上だって、直系ではないけど継承権が全くないわけでもないし……いつまでも、ボクみたいな羽根っ返りを相手にするより、上品なレディとの恋にでも落ちればいいんじゃないかな?」


 少し冷めたままのティーポットから来客用のカップにお茶を注ぎ、嫌々と言いつつも慣れた手つきでテーブルを彩っていく。オーカスは、温くなった紅茶を気にせずに飲み干し、そのままエリヴァルの横に腰かけた。


「別に、お前の語り方が気に入らないわけではない。それに、式典の際などはきちんとしたお言葉で民に接しているだろ。エリヴァルイウス」


 指先を絡めとられ、肩を抱かれていく。

 別にそれは不快ではないが、何となく頼りない身体の自分を自覚してしまうようで、少しだけ寂しさのようなものを感じる。この叔父の意図する事は、エリヴァルとの婚姻と王族としての地位を確固たるものとする事。それだけではなく、姪に対する情や女としての愛情のようなものも入っているのは知っているが、それでも政治の道具にされている自分を思い起こさずにはいられない。


 思惑のままに身を任せるのは、とても楽な生き方だ。男たちの考え通りに動いて従うだけで、何も考えなくていいし何も怖がることはない。


「叔父上が嫌いなわけではないよ。……むしろ、好きな方になるのかな。でも、ボクはクイーンにふさわしい姫君とは言い難い。もし、オーカス叔父様との間に子を成したとしても、その子供が成人するまではクイーンとして、王としてこの国に即位し続ける必要がある。

 そんな大した度胸は、ボクにはないからね。もちろん、お飾りの陛下になったとしてもさ」


「お前の頭上に金色の王冠が飾られる所が……私は、見たいだけさ」


 髪を掻き分け、オーカス叔父の手が頬に触れる。

 手探りでテーブルの鈴を手繰り寄せ、侍女長のリリスに開いたままだった扉を閉めさせると、エリヴァルは考える事を止めてベッドに身を落とした。


「ボクに、金の王冠なんて似合わないよ……」

「それでは、銀の王冠でも新たに用意させよう。古いモノは姉上が退位した際は、広間の入り口にでも飾ればいい」


 熱い視線が注がれ、冷たい唇が塞いできた。指先が胸元に触れられ、身体の芯が熱くなっていく。何度も繰り返してきた温かみだが、どうにも素直にはなれない。

 しばらくお互いに触れ合っていると、オーカスの方が満足したようで額に口づけて去っていく。


 誘惑にしては長い愛撫に息を整え、エリヴァルは王女としては随分粗野な伸びをして寝台に大の字に寝そべり、恋しい姉の名前を何度も心の中で唱え続けた。

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