旅立ちは光と共に?
ホテルをチェックアウトし、駅に向かう。
今日まで頑張っていた『Poesia Floreale』の前祖母がやっていた店は、元々大きなテーブルをいくつも置けるほどの広さもあって、花屋なのか街の集会所なのかわからないくらいいつも誰かがいた。
祖母が賑やかな人だったせいもあるけれど、もしかしたらいつの日か私が…と考えてくれていたのかもしれない。だからなのか、カフェを開くにも、あまり困ったことはなかった。
元々は占い師をめざしていたので、私はその一角に小さな個室を作って、求められればタロットを広げたり、星詠みをしたりすることにした。
今はそれがとても良かったと思っている。
肩に力を入れることなく、訪れるお客さんと会話して、一緒に泣いたり笑ったり、時には背中を押すための花束を作ったりした。占い同様に幼いころから花も大好きで、庭で色々な種類を育ててもいたし、考えてみたらこれ以上の条件は無かった。
高校生だった私は祖母の勧めに乗ってしまった感じでいたけれど、両親同様、祖母も私をよく見てとてもかわいがってくれているので、私にとって一番良い道をさりげなく勧めてくれたのだと今はわかる。
最初は意気込んで『占い花カフェ』と看板に書いたけれど、そもそも占い専門店では無かった上に、初めての経験だったので最初はなかなか大変だった。
「株買うんだけどさーこれ上がると思うー?」
と突然相談もされたりして、ただカードを読めばいいのではなく、社会常識だったり一般知識も必要なのだと気づいた。
ありがたかったのは、占いのワークショップで、占うべきではないこと、というのを教わっていたことだった。
それでもなんだか申し訳ないことをしている気持ちで、最初はしどろもどろで説明したり、謝ったりとか、どうして良いか本当に悩んだけれど、だんだんやんわりとお答えできないと言えるようにもなった。
生死、病気の治療、犯人探しは3大タブーって言われているけど、他にも、ギャンブルや投資の勝敗、試験の合否、不倫・浮気、他人の不幸を願う内容も占えないとお伝えすることにした。いずれにしても私にとって普通の会話であってもとても苦手な分野だったので、こういうアドバイスが頂けたのはワークショップに参加してみてとても良かったことの一つだ。幸い、若い私にそういう相談をしてくる人は殆どいなかったけれど、まるで洗礼のように開店直後にそういうお客さんが数人いらっしゃった。口にされなくてもタロットが状況やこの先に起こりそうなことを暗示している時ももちろんあったけれど、それは私の心のうちにだけ持って、事実としてカードの内容だけお伝えしていた。
同じ質問の再相談は避けるべきとも聞いたけれど、続けてではなく、何らかのアクションが間にあれば私は断らなかった。もちろん内容によるけれど。
しばらくして私は占いカフェという看板を外した。その代わり、カフェのテーブルに小さなアレンジメントを飾って、そこに、「ふんわりタロット占い承ります。」と注意書きを描いたプレートを挿しておくことにした。
お花の仕事だけでも十分忙しく、楽しくもあったので、訪れてくれたお客様が「縁あって占いをできるお店だと気づいた時」占い料ではなく、追加のお茶を一杯と、その日のカードが示すお花を一輪ご購入いただいてタロットを引いた。お茶も私がお一人お一人に合わせていた。
それとは別に幸運を呼ぶお花だったり、ハーブクッキーだったりを添えることもあった。花にはそれぞれ意味がある。同じ花でも色によって意味が変わってくることもある。
花を見て笑顔になる人もいれば、心の闇を思い出して眉間にシワを寄せる人もいる。
それもまた、花の持つ力。私が伝えきれなかったところを補足してくれる。
「変わったことをしているわね」
と、お客様に言われたりもした。
「ちゃんとお金を取れば良いのに」
とも言われたけれど、対価はそれで満足だった。
「だって、修行中だもんねえ」
と、呟く。
仮眠をしたとは言うものの、ほんの数時間。
前日もほとんど寝ていないのに、生レモンのサワーが美味しくてちょっと飲み過ぎていた。
しっかりしなきゃと思いつつ、ちょっとふわふわ。
でも、とうとう出発の時なのだ。
しばらく行くと、大好きな私のお店の前に近づいてきた。
最後にお店の前を通って旅に出ようと思ってタクシーを呼ばなかったことをちょっと後悔していたけれど、こうして近づいてくるとほっとする。
最初に訪れる国までは長旅で、機内ではひたすら寝ることになるだろう良いかな、と思う。しばらくは離れる地元商店街の裏通り、街灯の向こうにお店が見えてきた。
そんな私の前を、小さな光の玉がふわりと横切った。
蛍よりも明るく、でもまぶしくない。
「……え?」
心臓が高鳴る。
(もしかして、これって霊視?幽霊?それとも超常現象?)
スクールの先生が言っていた。
“視えたと思った瞬間を逃さず、怖がらずに進みなさい”
こんなことを指していたわけではないと思うけれど、その声が頭に響いてきた。
出発時刻にはまだ早い。
「ちょっとだけ…」
足は自然に光を追いかけはじめていた。
光は路地を抜け、住宅街を越え、人気のない神社の前で止まった。
(こんなところ、あったかしら)
見たことがないと思うのに、なぜか懐かしい。
結構なスピードなのに、光はゆらぎはするものの薄くも遠くもならず、まるで誘っているかのようだった。
荷物の重さを感じていないことも、カートの音が響かないことも気付かず早足に、最後は小走りになって追いかけた。
(飲み過ぎて、夢でも見ているのかしら…)
と思ったけれど、息はちょっとあがっている。それが現実感を与えていた。
やがて今まで見たこともない古びた鳥居が視界に入り、光がそれをくぐった。
「待って!」
慌てて後を追って――
鳥居を抜けた瞬間、世界の音が消えた。
※※※
初めてのウェブ小説です。二次制作は経験があるのですが、完全オリジナルは初めてです。
しばらくの間は、すでに投稿した章も修正を繰り返す可能性があります。
落ち着くまでごめんなさい!読みにくいかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。




