表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

【第9話:信じる者の声】

森を抜け、ベルゼは村へ戻ってきた。

朝靄がまだ残る時間。

背には戦いの痕がいくつも刻まれている。


村の入り口には、すでに兵士たちと領主代理マルクスの姿があった。

彼らは険しい表情で、森の方角を見つめている。

その中に、リナの姿もあった。


「ベルゼさん!」

リナが駆け寄る。

ベルゼは微かに微笑み、頷いた。


「魔獣の群れはもういない。……たぶん、もう襲ってこないだろう」


「ほんとに……? ありがとう、ベルゼさん……!」


安堵に頬を濡らすリナ。

だが、その背後でマルクスが冷たい声を落とした。


「確認した。確かに魔獣の死骸はない。だが――不自然な点がある」

「不自然?」


マルクスは腕を組み、低く続けた。

「倒れた地面には“魔法の焼痕”が残っていた。人間の魔法ではない、異質な痕跡だ。……まるで、“お前自身”の力で放ったような」


その言葉に、村人たちの視線が一斉にベルゼに向けられる。

「まさか……魔獣を操っていたのも、あの化け物……?」

「助けたふりをして、裏で……!」


不安が波紋のように広がっていく。

ベルゼは何も言い返さず、ただ静かに俯いた。

その沈黙が、さらに誤解を深めていく。


「ちがう!」

リナの叫びが空気を裂いた。


「ベルゼさんはそんな人じゃない! 魔獣を倒して、旅人も助けて……!」


「だが目撃者はいない」

マルクスの視線は冷酷だった。

「善行も、証拠も、どれも曖昧だ。――村を守る立場として、私は危険を放置できん」


兵士たちが槍を構え、ベルゼを囲む。

リナは必死に前へ出て、ベルゼの前に立ちはだかった。


「撃つなら私を先に撃って!」


その声は、震えながらも確固たる意志を持っていた。

ベルゼの心が一瞬、ざわめく。


「リナ……」


「だって……誰も信じてくれなくても、私は知ってる!

 あのとき助けてくれた優しい人が、こんなことするはずない!」


村人たちは息を呑み、静寂が落ちた。

マルクスは一瞬、表情を曇らせたが、やがて短く言った。


「……よかろう。だが、当分は村の外で暮らしてもらう」


ベルゼは頷いた。

「構わない。俺も少し、確かめたいことがある」


「確かめたいこと?」

「魔獣の暴走を引き起こしている“何か”がいる。……そいつを放っておけば、この村も危険だ」


マルクスが黙り込み、リナは唇を噛んだ。

ベルゼはその頭を優しく撫でる。


「リナ、ありがとう。お前の言葉、ちゃんと届いた」

「……ベルゼさん……」


夕暮れの中、ベルゼは一人、森の奥へと歩き出した。

背中は大きく、そして少し寂しげだった。


リナはその背を見送りながら、小さく祈るように呟いた。

「……きっと、あなたのことを信じてくれる人は、もっと現れるから……」


その夜、ベルゼの進む先で――

再び、黒い影がゆらりと動いた。


「……やはり、“あの魔獣”は異質だな。面白くなってきた」

闇に沈む笑みが、森の奥に消えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ