【第2話:勇気から絶望】
森の静寂の中、突然、遠くから悲鳴が響いた。
「助けて……!」
反射的に耳を澄まし、声のする方向へ駆け出す。野獣の体は軽やかに地面を蹴り、森の中を素早く進む。胸が高鳴り、恐怖と興奮が入り混じる。
すると、開けた林の中で、一人の女性が数匹の狼に囲まれているのが見えた。牙をむき、低く唸る狼たち。女性は必死に逃れようとするが、すぐに追い詰められていた。
「……怖い……でも……!」
素直な心が体を突き動かす。考える前に、野獣は女性の元へ走った。
狼たちは彼を見て一瞬立ち止まる。その瞳に映ったのは、恐ろしくも異様な醜い野獣の姿。低く唸り、全身から圧倒的な存在感を放つ野獣に、狼たちは驚き、逃げ去った。
女性は大きく息をつき、涙をこぼしながらも逃げようとする。
「大丈夫ですか?」と声をかける野獣に、女性は再び悲鳴をあげ、森の奥へ逃げていった。
――絶望。
怖がられてしまうのは想定内だったが、素直な心で助けたいと思ったのに、これほど拒絶されるとは。野獣は少し肩を落とす。
お腹が空いたことに気づき、木の実でも取ろうと、近くの木に手をかけた。軽く揺らすつもりが――木が根元から倒れた。
「……え?」
驚きのあまり後ずさる。手の力、腕の力、体全体の力……どれも現世の自分の桁違いだった。森の木を一撃で倒せる力が、自分に備わっている。
「ま、まさか……こんなに強いのか……俺……」
体を見つめ、改めて野獣としての力を実感する。恐怖の存在として見られる一方で、自由に動け、並外れた力を使える自分――そのギャップに、胸の奥がわくわくと熱くなる。
これから、この力をどう使うのか――想像するだけで、心が弾む。
森の奥で逃げた女性のことはまだ不安だが、まずは生き延びるため、そして力を試すために、野獣は森の中を歩き出す。
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