【第14話:王立学士院、仮面の賢者の試練】
朝の王都。
城壁をくぐる人々のざわめきが、街全体を活気で満たしていた。
ベルゼはフードを深く被り、リナと共に石畳を歩く。
昨夜の暗殺者の件から、彼の心は静かに緊張していた。
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「ベルゼさん、今日はどうするの?」
リナが小声で尋ねる。
「今日は、学士院に招かれている。貴族や学者たちと話すんだ」
リナの目が大きく見開かれた。
「学士院? あそこって、王都でも一番賢い人たちが集まるところだよね?!」
「そうだ。ここで情報を集め、構造を理解する。
魔獣制御装置や、貴族の陰謀についても手掛かりが得られるかもしれない」
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王立学士院。
大理石の柱が天井を支え、壁には古文書と地図がずらりと並ぶ。
学者たちは書物や資料に没頭し、来訪者には淡い興味の視線を向ける程度だった。
ベルゼはフードを深くし、静かに歩を進めた。
一部の学者が彼の存在に気づく。
「おや……見慣れぬ顔だな」
「商会の……仮面の賢者か?」
噂はすでに広まっていた。
ベルゼは淡々と頭を下げ、学者の質問に答える。
「昨日の市場操作について、少し意見を述べたい」
その理路整然とした説明と、現象を数値と理論で裏付ける手腕に、学士たちは目を丸くした。
「なるほど……こんな分析力は見たことがない」
「確かに、若者ながら相当な洞察力だ」
ベルゼは淡々と資料を指し示し、貴族の市場操作や、遠隔地の魔力干渉の理論を解説する。
その正確さに、周囲は次第に息をのむ。
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だが、その背後で、一人の黒衣の人物が静かに観察していた。
仮面の下の瞳は冷たく光る。
「なるほど……王都に現れた“仮面の賢者”か」
その声は風にも溶け、誰にも届かない。
ベルゼは気づかぬまま、情報を吸収し、次の行動を決める。
「……この学士院なら、貴族の陰謀を解き明かす鍵があるかもしれない」
リナが心配そうに顔を上げる。
「でも、危険じゃない? 敵はまだあのグレイモンド卿……」
「だからこそ、ここで知恵を使う。力は最後の手段だ」
二人の足音が廊下に響き、石造りの建物の奥へと消えていく。
その背後で、黒衣の人物が小さく笑う。
「……面白くなってきた。次はどんな試練を与えようか」
学士院――その中で、ベルゼの存在は静かに、しかし確実に広がり始めた。
知恵の力を手に入れた“異形の青年”が、王都で動き出す。
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