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【第13話:王都の夜、牙を潜める影】

マルタ商会の成功は瞬く間に王都中へと広まった。

「仮面の賢者」という異名は、人々の口から口へと伝わり、

わずか数日のうちに、貴族たちの間でも噂の的となった。


だが、その栄光の裏に――静かに牙を研ぐ者たちがいた。



夕刻、商会に一通の封書が届く。

王都第七区に屋敷を構える貴族「グレイモンド卿」からの招待状だった。


《先日の市場操作、実に見事。

貴殿の知恵に深い興味を抱いた。

ぜひ、直接お話を伺いたい。》


「……貴族から?」

マルタは驚きと不安の入り混じった声を上げた。

「ベルゼ、気をつけて。王都の貴族なんて、腹の中じゃ何を考えてるかわからないんだから」


「承知しています。けれど――」

ベルゼは静かに封書を置く。

「知りたいんです。彼らがどうやってこの国を動かしているのかを」


その言葉に、リナは不安げに眉を寄せた。

「……なら、せめて私も一緒に」

「大丈夫。行って、帰る。それだけです」



夜、屋敷街。

月明かりの下に浮かぶグレイモンド邸は、荘厳でありながら、どこか冷たい気配を放っていた。


「ようこそ、仮面の賢者殿」

現れた男は、深紅のマントをまとった壮年の貴族。

目は笑っているのに、奥に鋭い光を宿している。


「お招きにあずかり、光栄です」

ベルゼは一礼し、仮面越しに視線を合わせた。


晩餐の席。

絢爛な料理と上等な酒が並ぶ中、会話は滑らかに続いた。

グレイモンドは商会の経営や市場の動きについて巧みに質問を重ねてくる。


「ほう、なるほど……取引を“時”で制すか。

 面白い発想だ。

 しかし――本当に、それだけで動いていると思うかね?」


「どういう意味でしょう?」


「この国の経済は、王家と三大貴族で作られている。

 つまり、“見えない手”が存在するということだ」


グレイモンドの唇が、不気味に歪んだ。

「君のような存在は、時に……その均衡を壊す」


ベルゼの背筋に、冷たいものが走る。

それはただの言葉ではない――警告だった。



その夜、屋敷を辞して帰る途中。

静まり返った石畳の路地に、かすかな殺気が走った。


「……来るか」


黒い影が、屋根の上から飛び降りる。

三人、いや四人。

全員が黒装束、刃物を持っている。


「仮面の賢者殿にご挨拶を」

その声とともに、刃が月光を反射する。


ベルゼは息を吐いた。

「なるほど、これが“貴族のやり方”か」


次の瞬間、影が襲いかかる。

だが――

ベルゼの動きは、彼らより速かった。


“森で培った戦い方”を思い出す。

動きを読む。

呼吸の間を計る。


一歩踏み出しただけで、

敵の視界から“消える”。


「な、何っ――!」

背後から、鈍い音。

倒れた一人の腕を掴み、力を込める。


骨が砕ける音が、夜気を裂いた。


「……次は、首だ」

ベルゼの声は低く、冷たく、獣のそれだった。


怯んだ暗殺者たちは、一斉に逃げ出す。

だが、一人だけ逃げ遅れた男の胸ぐらを掴み、

ベルゼは壁に叩きつけた。


「誰の差し金だ」

「し、知らねえ! 俺たちは依頼を受けただけで――!」


「どこからだ」

「……“鷹の印章”の貴族だ!」


その言葉に、ベルゼの脳裏をよぎる。

――グレイモンドの指に、確かに“鷹”の刻印があった。


ベルゼは男を放し、静かに立ち去った。

夜風が吹き抜ける。


「なるほど……これがこの国の“現実”か」

仮面の下で、ベルゼの目が細く光る。

「ならば、知恵で壊してやる。力ではなく、理で」


彼の中で、何かが明確に形を取り始めていた。

それは復讐ではなく――

支配構造への挑戦。



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