器の選別。
夜、神原カナメは一人、自室の机に向かっていた。
窓の外では風が木々を揺らし、街灯の光がカーテンの隙間からこぼれている。
机の上には、あのノート。
手元の明かりに照らされて、ページの端がわずかに揺れていた。
(器たちよ、いずれ裁きの刻が訪れん……)
あの文を読んでから、ずっと胸がざわついている。
その不安は熱や疲労ではない。
もっと根源的で、説明のできない“異物感”だ。
思い出す。
昨日のあの瞬間、ヒロトの変貌、スローモーションの世界、青白い光。
自分が、自分でない何かに“導かれていた”ような感覚。
そして――
〈ようやく、自覚したか〉
――声。
それは、頭の中に直接流れ込むように響いてきた。
恐怖と、納得と、既視感が同時に胸を打つ。
「……また、君か」
口に出しても、返事が返ってくるわけではない。
だが、確かに“存在”はそこにいた。
〈カリオスの器――お前はそのひとつに過ぎない〉
「“器”……どういう意味だ。何のために?」
〈説明は後でいい。だが一つだけ教えてやる。
昨日の少年――如月は“耐えられなかった”。
お前はどうだ、カナメ。お前は、持つか?〉
「持つ……?」
〈この“力”を、お前は本当に受け止められるか〉
カナメはしばらく沈黙したまま、手のひらを見つめた。
昨日、ここに浮かび上がった青白い紋様。
それは今、見えなくなっている――だが、“消えた”わけではない。
感じている。
あの光は、自分の内側に、確かに残っている。
「もし……これが、他にもいるなら」
〈ああ。いるとも。
お前たちは選ばれた。世界が――あるいはそれを越えた存在が、そう仕組んだ〉
「選ばれた? なにを基準に?」
〈“可能性”だ。
この歪んだ世界に対して、何を選ぶか。何を拒むか。何を壊し、何を残すか。
お前の選択が、この世界の“形”を決めていく〉
重い言葉だった。
だが、なぜかその意味が、直感で理解できた。
「……だったら、逃げるわけにはいかないな」
カナメはゆっくりと目を閉じた。
心の中で、歯車が静かに回る音がする。
――カチリ。
何かが、確かに噛み合った。
〈ならば、“器”として認めよう。
神原カナメ――君の内に、“なにか”は芽吹いた〉
その名前が告げられた瞬間、カナメの身体の奥――骨の髄にまで、何かが根を下ろすような感覚が走った。
鼓動が高まる。
世界が、音を立てて動き出す気がした。




