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カリオスの器  作者: titi
感染者ゼロ号
8/10

器の選別。

夜、神原カナメは一人、自室の机に向かっていた。


窓の外では風が木々を揺らし、街灯の光がカーテンの隙間からこぼれている。


机の上には、あのノート。

手元の明かりに照らされて、ページの端がわずかに揺れていた。


(器たちよ、いずれ裁きの刻が訪れん……)


あの文を読んでから、ずっと胸がざわついている。


その不安は熱や疲労ではない。

もっと根源的で、説明のできない“異物感”だ。


思い出す。


昨日のあの瞬間、ヒロトの変貌、スローモーションの世界、青白い光。

自分が、自分でない何かに“導かれていた”ような感覚。


そして――


〈ようやく、自覚したか〉


――声。


それは、頭の中に直接流れ込むように響いてきた。


恐怖と、納得と、既視感が同時に胸を打つ。


「……また、君か」


口に出しても、返事が返ってくるわけではない。

だが、確かに“存在”はそこにいた。


〈カリオスの器――お前はそのひとつに過ぎない〉


「“器”……どういう意味だ。何のために?」


〈説明は後でいい。だが一つだけ教えてやる。

昨日の少年――如月は“耐えられなかった”。

お前はどうだ、カナメ。お前は、持つか?〉


「持つ……?」


〈この“力”を、お前は本当に受け止められるか〉


カナメはしばらく沈黙したまま、手のひらを見つめた。


昨日、ここに浮かび上がった青白い紋様。

それは今、見えなくなっている――だが、“消えた”わけではない。


感じている。

あの光は、自分の内側に、確かに残っている。


「もし……これが、他にもいるなら」


〈ああ。いるとも。

お前たちは選ばれた。世界が――あるいはそれを越えた存在が、そう仕組んだ〉


「選ばれた? なにを基準に?」


〈“可能性”だ。

この歪んだ世界に対して、何を選ぶか。何を拒むか。何を壊し、何を残すか。

お前の選択が、この世界の“形”を決めていく〉


重い言葉だった。

だが、なぜかその意味が、直感で理解できた。


「……だったら、逃げるわけにはいかないな」


カナメはゆっくりと目を閉じた。

心の中で、歯車が静かに回る音がする。


――カチリ。


何かが、確かに噛み合った。


〈ならば、“器”として認めよう。

神原カナメ――君の内に、“なにか”は芽吹いた〉


その名前が告げられた瞬間、カナメの身体の奥――骨の髄にまで、何かが根を下ろすような感覚が走った。


鼓動が高まる。

世界が、音を立てて動き出す気がした。

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