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カリオスの器  作者: titi
感染者ゼロ号
6/8

混乱と沈黙。

サイレンのような電子音が、校舎の奥から響いた。


「……何の音?」


ユイが顔をしかめながらつぶやく。


教室の窓からは、校庭を覆う“黒い車両”がいくつも見えた。

無地でナンバーもなく、一般車とは明らかに異なる装甲仕様。

そして、黒服の集団が無言で校舎に突入していくのが見える。


その光景に、生徒たちのざわめきが広がる。


「え、警察……じゃないよな」

「何これ、テロ? ドッキリ? 本物……?」


教室の空気は一気に張り詰めた。


そして――


ガチャリ、と重い金属音を立てて、教室の扉が内側から開かれた。


現れたのは、全身黒のスーツにヘルメット、呼吸音を発するマスク――

目元に赤いバイザーを装着した無言の集団だった。


「生徒たちはその場で静止! 手を挙げて!」


無機質な電子ボイスが告げると同時に、複数の隊員が一斉に室内へ展開する。


銃ではなく、奇妙な形状の装置を構え、教室の中央――ヒロトが倒れている方向へと向かっていく。


カナメは動けなかった。


ヒロトの体は、未だ微かに痙攣していたが、

その背から伸びていた異形の突起はすでに収縮を始め、まるで“もとの人間”に戻ろうとしているかのようだった。


「対象を確保。フェイズII進行中」


どこかで聞こえた声が、無機質な連携を意味していた。


一人の隊員が何かの注射器のようなものを取り出し、ヒロトの首筋に刺す。


直後、ヒロトの身体は微かに震え、それきり動かなくなった。


「……待って。何をしてるんですか。あの人は……如月くんは、生徒ですよ!」


ユイが思わず声を上げた。


だが、隊員たちは無視するように作業を続けていた。

その視線は、あまりにも無感情で、まるで“それ”が人間であることを理解していないかのようだった。


――カナメの中で、何かがざらつく。


(彼らは……これを、知っていた?)


驚いていない。混乱もない。


まるで“こうなることが前提だった”かのように、

機械のような手際で、ヒロトを担架に乗せ、教室の外へと搬送していく。


「なにこれ……俺たち、何を見せられてるんだ……」


誰かが呟いた。


その一言が、妙にリアルだった。


気づけば、カナメの手の甲の紋様はすでに消え、瞳の歯車も元に戻っていた。


まるで、さっきまでの異常が夢だったかのように。


けれど――


「この件について、外部には一切口外しないこと。

本日あった出来事は“集団錯乱”および“心理的フラッシュバック反応”と認定されます。

我々は教育庁・危機対応局の調査班です。全員、同意書に署名を」


最後に教室に現れた一人の男は、黒服ではあったが、明らかに“軍”の人間ではなかった。


スーツの胸元にあしらわれたシンボル。


それは、どこか禍々しくも美しい、三重の円をなぞるような幾何学模様。


カナメはその紋様を見た瞬間、胸の奥で――何かが反応するのを感じた。


――カチリ。


あの、歯車の音が、また。

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