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カリオスの器  作者: titi
感染者ゼロ号
3/7

“それ”の声。

――目が、霞む。


如月ヒロトの怒声が遠ざかり、クラスメイトたちのざわめきも、担任の制止の声も、どこか水の底から聞こえてくるように鈍くなっていた。


カナメの視界は、じわじわと黒く縁取られ始めていた。


けれど、これはただの貧血やストレスではない――そんな直感だけは、確かにあった。


椅子に座ったままの体がふらりと揺れ、気づけば、床がどんどん遠のいていく。


意識が、抜け落ちる。


頭の奥で、“誰か”がノックするような音が鳴っていた。


――コン、コン、コン……


次の瞬間、カナメは、何もない空間に立っていた。


灰色の霧が広がり、上下の区別すらつかない。

重力も、時間も感じない。


ただ、そこに“存在している”という感覚だけが、妙にリアルだった。


「……ここは?」


声に出したつもりが、自分の耳には何も届かなかった。


足元を見ると、何もないはずの虚空に、自分の影が映っていた――否、影ではなかった。


それは、“もう一人の自分”だった。


白い服に身を包み、目を伏せた少年。

顔は見えない。けれど、確かに自分と同じ輪郭を持っている。


その存在が、ゆっくりと顔を上げた。


そして、口を開いた。


「――ようやく、目を覚ましたか。うつわ


ぞわり、と背筋が凍る。


カナメは一歩、後ずさった。


「……誰だ、お前」


「お前に似た形をしているのは、お前の理解に合わせているだけだ。

安心しろ、まだ完全には始まらない」


「……“始まらない”? 何が……」


少年のような“それ”は、笑った。

唇の動きすら、どこか機械的で、感情をなぞるだけのような笑み。


「――世界の再演。そして、選別だ。

だが今はまだ、その入口に過ぎない。第一段階が始まっただけだ」


「……選別って、何の話だ。俺に関係あるのか?」


問うたはずの声は、自分自身の耳にも届かない。

だが、“それ”には確かに通じていたようだった。


「あるとも。君は“そういう存在”として選ばれた。

目覚めの鼓動はすでに鳴っている。君の内に、歯車は回り始めたんだよ」


その言葉と同時に、空間全体に響く音――


――カチリ、カチリ……カチッ。


まるで機械の歯車が噛み合うような、金属音が脳内で反響した。


カナメは、胸元を押さえる。


痛みではない。

だが、内側から“何かが動いている”のが分かる。


異物感とも違う。

けれど、自分の一部ではないと断言できない何かが――そこにいた。


「……これは……何なんだ……」


気づけば、周囲の霧が音を立てて崩れていく。


そして、意識は、現実へと引き戻されていった。

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