謎の存在。
深夜。
夢と現実の境があいまいになる、静かな時間。
神原カナメは、ふいに“落ちる”感覚で目を覚ました。
いや、目は閉じたままだったが――確かに、“どこか”へ引き込まれていた。
そこは、漆黒の世界だった。
空も地面もない。
色も音もない。
だが、真っ黒な闇の中心に――“誰か”がいた。
それは、カナメ自身だった。
白い服を着た、もう一人の神原カナメ。
ただし、目元には深い影が落ち、表情はまるで人形のように無機質だった。
その“もう一人”が、ゆっくりと口を開く。
「お前が選ばれた。だが、それは始まりに過ぎない」
「……お前は、俺か?」
「否。だが、かつて“そうだった”かもしれない」
問いへの答えが、禅問答のように返ってくる。
カナメは無意識に拳を握る。
冷たいはずの空間で、自分の心臓の音だけがやけにうるさく響いていた。
「なんの目的で、俺にこんな力を……。俺は何に巻き込まれたんだ」
「力とは、“受け継がれるもの”だ。
君の中で目覚めた“それ”は、長い眠りからようやく覚めた。
そして今、ほかにも――“器”は目を開けつつある」
「他にも……?」
「この街に、そしてこの国に。
いや、この星のあちこちに、同じように“選ばれた者たち”が存在する」
カナメの脳裏に、いくつかの顔が浮かぶ。
昨日の教室で異様な目を向けてきた白河ナオ。
そして、時折こちらを見てはすぐに視線をそらす、日向リコ。
誰よりも素早く、異常を感じ取る綾野ユイ――
「……これから、どうなる?」
「まだ語るには早い。だが、君はまもなく知る。
“器”たちが出会い、選別が始まる。
そして――それを導く者が現れる」
「導く者?」
「この星の“真実”を知る者。
そして、選ばれた“最初の器”――君の前に現れるだろう」
黒い世界に、青い残光が走った。
光の帯が空間を切り裂き、回転する歯車のような音が鳴る。
夢の中なのに、皮膚の奥が焼けるように熱を帯びてくる。
「――目を覚ませ、カナメ。
君の戦いは、すでに始まっている」
その声を最後に、世界が崩れる。
――目覚ましのベルが鳴った。
朝。
いつもの景色。光の差し込む天井。
けれど、カナメの目は決して“昨日のまま”ではなかった。
彼の眼には、確かに回転する歯車の残像が宿っていた。
次の瞬間、スマホが震えた。
未登録の差出人からのメッセージ。
そこには、たった一言だけ。
《器、集結セヨ。第一候補地:旧中央廃病棟》
カナメはそれを見つめ、唇をかすかに引き結ぶ。
誰が送ってきたのかもわからない。
だが、自分が“行くべき場所”であることだけは、何故か理解できた。
歯車は、回り続けている。




