名付けの儀
──3年A組・伝説、始まりの記録より抜粋──
「──はい、じゃあ学活入りまーす」
担任の伊丹先生(真名:クロノス=リベレイター)が何気なく口にした瞬間、
教室の空気が変わった。
ざわつき、騒がしさ、机に突っ伏す者、天井を見つめる者、謎の儀式を始める者。
ここは3年A組、通称“暗黒学級”。まともな学活が進行するわけがない。
「で、明後日、転校生が来るって連絡ありましたー」
この一言で、時が止まった。
──そして、動き出したのは“異界の者たち”である。
「ま、待て……“転校生”? それはすなわち……」
「第17の席が、ついに埋まるのか……!」
「まさか、“封印の指定席”が……!?」
「我らの結界が……崩れる?」
「新たなる魂を迎えるのか……ッ!」
「どうする? 真名は?」
「いや、真名を与えるには、まず“儀”が要る……!」
「“選定の会議”を開くしかないな……!」
【学級会議ノートより】
議題:「転校生の真名をいかに定めるか」
1番:ルシフェル田中(冥府の番犬)
「闇から来た者には、闇の名が必要だ。候補:漆黒堕天の使徒しっこくだてんのしと」
2番:クロノ=レイヴン(闇裂ノ刃)
「いや、もっと時空に干渉する感じで……時間を喰う者、とかどうよ。“クロノイーター”!」
3番:星喰の予言者・山田
「彼が何者か、私は見えた……“名を持たぬ者”……」
4番:やみらいと木下
「いやいや、もっと中二感あるやつだろ。“XIII”とか。厨二番っぽいじゃん」
5番:第六使徒・零式
「いっそ“最終兵器ノーフェイス”とかにしね?」
6番:焔王・松本
「“灼き尽くされし無貌”……略して“のふ”!」
女子代表:銀世界の巫女・佐藤優香
「……“のーふぇいす”って響き、なんか儚くていい……」
夢喰らいの魔眼・長谷川真奈
「記録に残らない存在……そう、彼は“見えない存在”……“透明の監視者”とか……」
黒翼の堕天使・新井美鈴
「『ノーフェイス』、いいじゃん。顔がないって、めちゃくちゃ厨二だよ」
虚実の操糸師・江藤舞
「じゃあ、ローマ字で“NO-FACE”。でも“NO”は“知るな”の意味にも取れる……こわ……素敵……」
【担任・伊丹のメモ帳】
・今日も平和に狂ってる、可愛いやつらだ
・“ノーフェイス”、もう止めても無駄
・どうせ本人が現れたら勝手に変わるかと思ってたけどクラス全員、既に「ノーフェイス様」と呼び始めてる
決議結果:全会一致(※脅迫含む)
3年A組転校生の真名
「ノーフェイス」
──彼に顔がないのではない。
我らが“顔”を見てはならないのだ。
おまけ:議事録のはじっこ
“神託ノ書記官”が「彼はこの世界の収束点になる」とメモを残す