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皆で遊ぶ日、当日

 日曜日、皆で遊ぶ日当日。

 住んでいる場所が近い俺と乃愛は、一緒に行こうという話になったので、連れ添って待ち合わせ場所に向かっている最中だ。


「筋肉痛はもう大丈夫?」

「ん。まだ痛いけど、貰った湿布のお陰で昨日よりはマシ。昨日はそれでも外に出ないといけないから地獄だった」

「あはは、まあ、筋肉痛って2日目が1番辛いんだよね。個人的にだけど」


 乃愛は昨日、配信系の機材やゲームなどを見て回ると決めていたらしく、歩く度に軋む足を駆使して目的を遂行したらしい。


 通販サイトで済ませればいいのにと言ったら、どうやら機材類は自分の手で触って決めたいらしく、ゲームはゲームショップに行くのが楽しいらしい。


 それでも別の空いている日に回せばいいのに、痛みを我慢してでも決めたことをやる行動力は本当に尊敬する。


「ん。けど痛みを我慢したかいがあって、いいものを見つけられた」

「機材って選ぶの大変そうだよね」

「そうでもない。私はそういうの見るの好きだから」


 俺たちはそんな他愛もない話をしながら、電車に揺られ、待ち合わせ場所であるスポーツが出来たりゲームセンター、カラオケなどの娯楽が楽しめる大型アミューズメント施設に向かう。


 歓迎会というよりも、親睦を深める為に色々して遊ぼうという感じらしい。


 そうこうしている内に、目的地が近付いてきた。


(見たことはあるけど、縁がなかったし、入るの初めてだなー)


 感慨に耽りながら、建物を見上げて歩いていると、


「……あれ?」


 建物の前に、見覚えのある姿を見つけた。

 芹沢さんたちだ。

 それに気付いた瞬間、俺はさっと顔を青ざめた。


 乃愛がいる手前、駆け出しはしないかったけれど、気持ち早足になって、芹沢さんたちに近付く。


「ご、ごめんっ! もしかして時間間違えてた!?」

「違えから落ち着け。オレたちは一応もてなす側だから、お前らには遅めの集合時間伝えておいたんだよ」

「まあ、けどやっぱり伝えた時間より早く来たね。空の言う通りだった」

「ふふん、でしょー? 可愛さと優陽くんの生態なら任せといてよ」


 生態て。そんな人を珍獣みたいに言わないでほしい。

 でも、そっか……遅れてなかったのか。


「よかったー。もし遅れてたら切腹するところだったよ」

「いや武士かよ。あと笑顔でいきなりさらっとそう言うこと言い出すの怖えよ」

「え? だって友達を待たせるなんて重罪だよ? 命以外になにで償えと?」

「普通に飯とか奢るでいいんじゃね!? その理屈だとオレ何回命捨ててるか分かんねえよ!」


 なるほど。そういうものなのか。

 というか、藤城君でも遅刻とかするんだ。気遣い出来る上に結構真面目な人なのに。


 俺たちが会話を始める横で、芹沢さんと和泉さんも乃愛と話し始める。


「おはよー乃愛ち。筋肉痛はもう大丈夫?」

「ん、おはよう。昨日よりはマシ以下略」

「えーなにそれ」

「さっき優陽くんとも同じ会話したから」

「いやそれじゃ私たちに伝わらないから! 同じ話するのが面倒なのは分かるけど会話の練習と思って頑張ってよ!」

「……なるほど。会話って奥が深い」

「……乃愛ちには悪いけど、これ初歩の初歩だよ? まだ階段見つけた段階で1段も降りてないんだよ?」

「あはは! 白崎さんって面白いね!」


 よかった。学校にいる時でも、和泉さんは乃愛のことを気にかけてくれてるし、印象はかなりいいみたいだ。

 周りの人にもこういう風に受け入れてくれる人が増えるともっといいんだけど。


 ……まあ、学校の皆も乃愛に対する反応は悪くないし、乃愛だって苦手を克服するべく、今は意識して頑張っているし、よほどのボロを出さなければ孤立することはないはずだ。


「とりあえずこれで全員揃ったし、入ろうぜ」


 藤城君のかけ声で、雑談もそこそこに建物の中に入っていく。

 俺も藤城君と和泉さんに続いて中に入ったところで


「優陽くん」


 芹沢さんに声をかけられた。


「どうしたの?」

「その服、優陽くんが自分で選んで買ったの? 多分だけど、そんなお洒落な服、店長の所で買ったやつ以外持ってなかったよね?」

「……あー……これはー……」


 確かにこの服は昨日買ったばかりだ。

 ただし、俺が選んで買ったものじゃなくて……


「実は、昨日また涼太が勝手に部屋に来てさ……ちょうど服買いに行くところだったから、勝手に付いて来たあいつが選んだやつなんだよね……」


 アーガイル柄の明る過ぎないクリーム色ののニットカーディガンに黒い長袖シャツを合わせ、下は暗めのグレーのパンツに黒い靴。

 全体的に派手過ぎずに落ち着いていて、俺好みの服装だった。


「あ、そうだったんだ。なるほどねー。通りでお洒落初心者の優陽くんにしてはセンスいい感じにまとまり過ぎてると思ったんだよね」

「……ありが、とう……」

「え、なんでそんな複雑そうなの?」

「……あいつのセンスを認めるようで癪なんだよ」


 実際、主観的に見てもこの服装は俺でも似合ってると思うほど、悔しいけどいい感じなんだよ……。

 なにが腹立つって俺自身も自分の服装の好みとか分かってないのに「これお前に似合うと思うぜ?」と俺の好みドンピシャの服をさらっと渡してくることだ。


 なんなのあいつキモくない? (キモい)。

 思わず語彙力がJKになってしまっていると、肩に軽く重みが加わった。


 反射的に重みが加わった方を見ると、芹沢さんが俺の肩に手を置いて、軽くつま先立ちになって、顔を近付けてきていた。


 驚き、声も出せない俺をよそに、芹沢さんは俺の耳元に口を近付けて、もう片方の手を口元に添え、


「——でも、ほんとに似合ってて凄くカッコいいと思うよ」

「っ!?」


 背中をなにかゾクリとしたものが走り抜け、俺は囁かれた方の耳を抑えながら、バッと芹沢さんから距離を取る。


 芹沢さんはそんな俺を見て、いたずらっぽく微笑み、見上げてきていた。


(……なんだろう。芹沢さん、こういう風にからかってくるようなことが増えた気がする)


 からかってくることは前もそうだったんだけど、なにかこう、言葉には出来ないけど……今までとは方向性がまったく違う気がしてならないし、よく分からない明確な意図を感じるんだよなぁ。


「鳴宮ー? どうしたー?」


 こっちを振り返ってきた藤城君が、怪訝そうな顔をしながら店内の音に負けないように声を張って呼びかけてくる。


 俺は早鐘を打つ鼓動を抑えながら、「な、なんでもない」と返事をしたのだった。

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