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陽キャ美少女は気が気じゃない

「えっと、それで……どういうこと?」


 色々と怒涛の展開に、言葉にならずに聞くことがなかった私に代わって、周りに聞かれないように人気のない所に移動してから、梨央が話を切り出した。


(いや、ほんとにどういうことなの!? 合鍵!? 同じマンションから出てきて一緒に登校!? しかも幼馴染になってるし!)


 優陽くんが昔から転校を繰り返していて、友達がいなかったのは知っているので、幼馴染なんてものがいるはずがない。


 そこはまあ、大体予想がつくんだけど、問題はそれ以外のことだ。


「えっと……説明するとさ——」


 そうして、優陽くんは一連の話の真相を話し終えた。

 話を聞き終えた梨央、拓人がそれぞれ得心のいったという反応をする。


 まあ、なんだろう……この2人の事情をそこそこ知っている私からしたら、大体予想がつく内容だった。

 でも、ことの真偽が分かったところで、私にとってはなにも解決じゃない。


 だって、好きな男子が! 別の女の子の部屋の合鍵を受け取って! 一緒に登校してるんだよ!? こんなのどう落ち着けって言うのさ! 

 

 しかも、その子は将来恋敵になる可能性が高い相手なんだよ!? これから毎日一緒に登校することになるかもしれないんだよ!? 


 私はそれをどういう気持ちで見続ければいいの!?

 しかも、公認幼馴染になってるし!


 なんでこの間お泊まりっていう大きなイベントを起こした私よりも、まだ恋愛感情に辿り着いてない乃愛ちがリードした感じになってるの!?

 なんで外堀埋まっていってるの!? もう全部分からないんだけど!


 混乱を外に出さないように取り繕うだけで精一杯になっていると、拓人が「ま、なんにせよ」と優陽くんの肩にポンと手を置いた。


「質問攻めお疲れさん。どうよ、人気者になった気分は」

「……凄く疲れたよ」

「あはは、でもこれで少しは自信が付いたんじゃない?」

「え?」

「だって、皆鳴宮の隠されたスペックの高さに気付き始めてるみたいだし」


 そう。それも、問題の1つ。

 私たちと一緒に行動することが増えて、注目を集める機会が増えたから、ここにきて優陽くんの実は整った顔を筆頭に、能力面についても気付き始める人が出始めたのだ。


(いや、それ自体はいいことなんだけどね……!?)


 それもやっぱり私にとってはよくないことなわけで。

 

 いや、優陽くんのことだし、それで言い寄られたとしてもいい気分がしないか、謙遜して自虐をし始めるかのどっちかだと思うんだけど、それでもやっぱり心配なものは心配だった。


「ええっと……そう言われても……」


 優陽くんが困ったように眉を顰める。

 それを見て、拓人が苦笑とも微笑とも取れる笑みを浮かべた。

 

「ま、お前はそういう奴だよな。でも、もう少し周りの話にあやかって、自信にするくらいは許されると思うぜ? 白崎もそう思うだろ?」


 と、話に混ぜる為の気遣いで、拓人がここまで黙っていた乃愛ちに話を振った。

 急に話を振られたにも関わらず、乃愛ちは驚きもせずに、マイペースに「ん」と口を開く。


「優陽くんは、もう少し自分を信じてあげて」

「う、うん……頑張るよ」


 優陽くんは、自信なさそうに頷いた。

 その様子を見て、私はこの場においてようやく声を発した。


「もーっ、そういうのもちゃんと自信を持って言いなよ! 自信って、こういう小さいことの積み重ねだよ?」

「空の言う通りだ。……ってか、気になってたんだけど、鳴宮は学校に見た目整えて来ないよな。ほら、オレたちがたまたま会った日の感じ」

「そう言えばそうだね。なんで? してくればいいのに。もったいないよ」

「え……いや、でも、このタイミングでやってもなんか陰キャがトップカースト混ざって調子乗ってるってなるんじゃない?」

「あー……その可能性は否定出来ないかも」


 私は優陽くんの言葉に納得した。


 優陽くんは今はただでさえも良くも悪くも色々と目立ってしまっている状態。

 実際、この間それでそんな優陽くんのことを面白く思っていない人たちからのやっかみもあったわけで。


 そんな状態で、容姿まで整えて来て、目立ってしまうのは優陽君の立場的にも、目立つのが苦手な優陽くんの性格上よくないかもしれない。

 

「それに、今は俺のことより乃愛のことだから。自分のことなんて、乃愛のことが終わって落ち着いてから考えるよ」


 優陽くんがよくやる、いつものどこか困ったような笑顔を浮かべたまま告げてきた言葉を聞いて、私たちは少しだけ目を丸くした。


 だって、優陽くんは、自分を取り巻く環境が大きく変わっているこの状況で、自分だって大変なこの状況で、他人を優先するいつも通りの姿勢を見せたのだ。


 それも、数秒前まであんなに自信なさそうにしていたのに、まったく揺るがない声と、目をしていたのに、だ。


(……ほんと、こういうところが好きなんだよね)


 まあ、これが私の為じゃないってことにはかなり嫉妬しちゃうけども。

 今の私の胸の内は、嫉妬とトキメキでちょっと形容し難いことになってしまっていた。  


(乃愛ちは今のを聞いてどう思ったんだろ?)


 感情を抑えて、限界化しないようにしている私が、ちらりと乃愛ちをうかがえば、内心騒がしい私とは裏腹に、乃愛ちは感情の読めない瞳でぼーっと優陽くんを見上げている。

 

 私にはそれが、その視線には、やっぱり私と同じ気持ちがあるような気がしてならなかった。

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