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2学期の始まり

 9月に入ったとはいえ、夏が急にいなくなるわけじゃない。


 なんならセミだってまだ余裕で鳴いてるし、朝だというのに照り付ける日差しはめちゃくちゃ暑い。


 そんな中、俺は重たい身体と気分を引きずって、学校に向かっていた。


 理由は言わずもがな、夏休みという学生にとっての憩いの期間が終わってしまったから。


 周囲を見渡せば、俺と同じように憂鬱そうな顔をして学校に向かっている誰かしらがたくさんいて。


(そりゃあれだけ休んでおいて、1日で意識を切り替えろなんて無理な話だよ)


 俺だって、まだ身体と意識は夏休みに囚われてるわけだし。


 特に、今年の夏休みは本当に色々とあったから。

 たった1日程度では抜け出せない程に、本当に色々と。


 気怠さと哀愁と眠気を引き連れて、久しぶりに学校に足を踏み入れると、周囲が学生だらけになって、一気に騒がしさに包まれた。


 その騒がしさにちょっと頭痛を覚えながら歩いて、自分の教室に入ると、


「あ、おーい! おはよー! 優陽ー!」


 すぐに俺を見つけてきた石浜君の大きな声が鼓膜を揺らしてきた。

 

 凄い。廊下も含めるとかなり騒がしかったのに、一切声が遮られることなく真っ直ぐにこっちまで届いた感じだ。お腹から声が出過ぎている。寝不足の頭には響く。


「……うん、おはよー」

「おわ!? なんか目の下の隈ヤバくね!? 宿題終わらなかったのか!?」


 俺の顔を見た石浜君がギョッと目を剥く。

 まあ、自分でも死んだ目をしてると自覚してる。


「いや……ちょっと、色々とあってあまり眠れなくてさ……」

「どうしたー? なんか悩みかー? 話聞くぞー?」

「——それよりも声のボリューム落としてやれよ。寝不足にお前の大声は拷問と大差ねえんだから」


 その声と共に石浜君の頭にてしんっと軽めの手刀が落とされた。

 藤城君だ。


「おはよー……藤城君」

「おう。んで、どうした?」

「そ、それは……」


 言い淀んでしまう。


(いくらなんでも、このことだけは言えないよ……)


 相談したいけれど、するわけにはいかない。

 

 きゅっと唇を引き結び、視線を下に逸らすと、頭上から藤城君のどこか柔らかい声が降ってきた。


「なるほど。言えないことか」

「……うん。ごめんね」

「いやいや、言いたくないことって誰でもあるっしょ。その代わり相談したくなったら真っ先に俺らにしろよー?」

「ありがとう、2人とも」


 持つべきものは友達だ。

 

 今までは1人で抱え込むだけだったから、こう言ってくれる人がいるだけでも気が楽になる。

 

 言葉だけじゃなくて心の中でも感謝していると、教室の中に空と和泉さんが入ってくるのが見えた。


 ほぼ無意識にそっちに視線がいって、空たちもこっちを見てきて、目が合う。


「よ、野郎ども。2学期もよろしくー」

「おー。よろしくなー」


 和泉さんと藤城君が気安いやり取りを交わし合い、それぞれが挨拶を済ませる。


 そんな中、空がジッと俺の顔を見つめてきた。


「……なんか、優陽くん顔色悪くない?」

「あーえっと……実はちょっと寝不足でさ」

「え? 大丈夫なの?」

「まあ、今日は始業式だけだから。多分なんとか……」


 その式の最中に意識が持つかは怪しいところだけど。


「どしたん? 昼夜逆転癖でも付いた感じ?」

「いやー、相談出来ない系の悩みだってー」

「実はそんな感じでして……あはは」

「そっか。そういう時もあるよね」

「うん。……でも、本当にヤバくなる前に頼ってくれなきゃ嫌だからね?」


 あまりに心配されてしまうような理由ではあるけれど、和泉さんも空も心配そうな顔はしてくれるものの、理由を問いただすようなことはしてこない。


 とことん、いい友人に恵まれたと思う。


「うん。本当に限界になる前には頼らせて」


 もちろん。なるべく自分が頑張らないといけないことではあるけど。


 そんなことを考えていると、空が「そういえば」と切り出してきた。

 

「乃愛ちはまだ来てないんだね」

「というか、優陽と一緒に来てないなんて珍しいよな」

「……っ」


 出てきた名前に、身体が大げさなくらい動揺してしまい、顔に熱が集まってきて熱い。


 その分かりやすい動揺を、やっぱり皆は見逃してくれなかった。


「ん? 優陽どした? なんか顔赤くね?」

「あ、本当だ。さっきまで顔色青白かったのに真っ赤じゃん」

「もしかして本格的に体調崩したか?」

「優陽くん大丈夫?」


 皆が声を掛けてくる。

 ひとまず、体調不良の悪化という誤解を解こうと口を開こうとしたところで。


「あ……」


 ちょうど教室に入ってくる乃愛を見つけてしまい、目が合ってしまった。


 瞬間、脳裏には昨日の記憶が蘇ってくる。


『——優陽くんが好き。大好き』


 俺を見上げる潤んだ青い瞳。

 鮮やかな朱に染まる頬。


 そして、頬に当てられた柔らかな唇の感触。


 そう。あれは決して夢や幻や勘違いなんかじゃなくて……俺は、昨日、乃愛に告白をされてしまったのだ。


 それこそが、俺が寝不足になった原因でもある。

 

 全てが一気に蘇ってきて、顔だけじゃなくて全身が沸騰したように熱くなってきて、鼓動の音が耳からしてるんじゃないかってくらいうるさくなった。


 乃愛の方も俺と目が合って驚いたのか、少しだけ目を見開いて、ほんのりと頬を赤くしていたけど、やがて、照れ臭そうに小さく口角を上げてはにかんだ。


 その表情に目が奪われた俺は、惚けたようになってしまい、余計になにも言えずに固まってしまう。


 そんな俺の様子と視線に気付き、皆が乃愛の方を見た。


「おはよー乃愛」

「……ん。おはよう」

「ちょうど乃愛ちゃんの話してたところだったんだよ。優陽と一緒に来てないの珍しいってさ」

「ん。今日は湊さんが部屋に泊まってたから。起こしに来なくていいっていう話だった」


 そう。俺は今日乃愛の部屋に起こしにすら行っていない。

 

 確かに湊さんが乃愛の部屋に泊まったというのは事実だけど、告白のあとだったし、お互いにちょっと時間を置いた方がいいという、お互いの意見が合致したことによるものだ。


「湊さんって?」

「ああ、そっか。将吾は顔合わせたことないんだっけか」

「湊さんは乃愛のお手伝いさんで——」


 藤城君と和泉さんが湊さんのことを説明し始める中。

 

 乃愛がこっそりと俺の方に近付いてきて、ぽそりと呟く。


「……おはよう」

「……う、うん。……お、おはよう……」


 ただ、挨拶をされただけなのに、どうしようもなく恥ずかしくなってしまって、視線を逸らす。


 その先で、俺たちの方を見ていた空と目が合ってしまった。


 空は、俺と乃愛の様子をただただジッと見つめてくるだけで、なにも言わない。

 

 訝しんでいるのとは違う、まるでなにがあったか知っていそうな反応に違和感を覚えたものの、聞き返すことはしなかった。


 そうこうしている内に予鈴が鳴って、この場が解散になって。


 すぐに担任が入ってきて、俺たちは始業式をする為に講堂へ移動し始める。


 そして始まる校長の退屈な長話から逃れるように、俺は改めて現状の整理をする為に、昨日の出来事を鮮明に思い浮かべた。

5章、開幕となります。

まだ話の内容は自分の中でまとまっていないものの、読者の皆様にご報告がありますので、取り急ぎ1話だけ投稿する形になりました。


では、早速報告です。


この度、この作品『無自覚ハイスペック陰キャぼっちが実はオタクだった学校のアイドル的存在美少女とオタ友になってしまった件。』ですが……。


皆様からの応援のお陰で書籍化が決定致しました!


本当にありがとうございます!


レーベルや諸々の情報の詳細はまたおって公開していきますので、本編と同様に楽しみに待っていてください!


改めて、この作品——書籍化します!


以上、報告の為のあとがきでした!

これからも引き続きよろしくお願いします!

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