想い、溢れ出して。
「……うん。こんなもんかな」
ストーカーの件から時間は流れ、翌日。
今日で夏休みも終わりを迎える中、俺は乃愛と一緒に住んでいたマンションを引き払う為に、部屋を掃除して回っていた。
理由としてはストーカーの件が片付いてしまえば、俺たちが一緒に住む理由はないから。
ちなみに、そのストーカーだけど、正体はやっぱり俺たちと一緒の高校に通う生徒だったらしく、しかも後輩だったらしい。
こっちから訴えるとかそういうことはせずに、これからどうするかはもう全て向こうに丸投げしてあるけど、恐らくお咎めなしとはいかないだろう。
「優陽くん」
そんなことを考えていると、乃愛がひょこっと自分の部屋から顔を出してきた。
「どうしたの?」
「……片付けが進まないから助けてほしい」
「……あー」
乃愛がわずかに申し訳なさそうな表情をするのを見て、俺は苦笑を漏らす。
この数日で一応家事を一緒にしたりはしたし、色々と家事に対しての意識は変わったと思うけど、片付けが特に苦手なのはすぐには改善されないらしい。
「最近は部屋の片付けも自分で頑張ってたのにねぇ」
「ん。まだまだ要修行」
乃愛の部屋を覗き込むと、そこにはキャリーケースの周りにぐちゃっと広げられた衣服とゲームなどの小物類とかの配線が。
多分だけど詰め込もうとして、なぜか入らずに入れ直そうとしている内にもっとぐちゃぐちゃになって、今に至るって感じだろう。
行く時は綺麗に入ったのに、帰りには中々綺麗に入らずにパンパンになる。旅行あるあるだ。
特に、女の子はちょっとした旅行でも荷物が多くなっちゃうだろうし、今回はどのくらい期間がかかるか分からなかったから、念の為に衣服をいっぱい持ってきてたっていうのも大きいと思う。
「とりあえず、俺に見られたくないものの類はあらかじめ隠しておくように」
「ん。かしこまり」
乃愛が部屋の中へ引っ込んでいく。
俺はその間に、まだ掃除が行き届いていない部分がないかを見て回る。
そんなこんなで、どうにか片付けを終えることが出来たので、俺たちは湊さんが迎えに来るまでの間、リビングでくつろぐことにした。
「改めて、無事に終わってよかったよね」
「ん。本当にそう。誰もなにもなくてよかった」
「引退配信も無事に出来そうだしね」
ストーカーの件が解決したという旨は昨日の内にSNSで発信され、引退配信は当初の予定通り行うことになっている。
「ん。これも全部優陽くんが身体を張ってくれたお陰。本当に感謝してる。ありがとう」
「あはは……身体を張ったってことが全部美談に出来たらよかったんだけどね」
実は、あのストーカーとの対峙のあと、現場に到着した警察の人と、湊さんからしっかりとキツめに怒られてしまったのだ。
結果的に無傷でなにも起こらずに終わったからよかったものの、刃物を持った相手に立ち向かうなんて子供が無茶をしたことがやっぱり大人としては見過ごせないラインだったらしい。
まあ、湊さんは最終的に笑ってよく乃愛を守ってくれたって言ってくれたし、乃愛のご両親からも電話で多大な感謝をされたから、身体を張った甲斐はあったと思う。
(というか、何度やり直しても全部同じ選択肢を選ぶと思うし)
要するに、反省はしているけど後悔はしていないってやつだ。
「引退配信って定刻通りでいいんだよね?」
「ん。そう」
「ちゃんと見るから」
「ありがとう。頑張る」
「あ、そうだ。終わったらお疲れ様パーティしたいって空が言ってたよ」
「……空?」
「あ」
全てが終わった安堵感から、俺は苗字と名前の切り替えを怠ってしまった。
ジッと無表情で見つめてくる乃愛に、俺は迷った末、リカバリーは無理だと悟った。
「実は、空の誕生日パーティが終わったあとから名前で呼んでほしいって言われてて、だから2人きりの時だけは名前を呼んでたんだ」
「そう、だったの」
あとで秘密がバレてしまったことを空に謝っておかないと。
例え、やらかした代償に可愛いと10万回言えと極刑を言い渡されたとしても、やらかしたのは俺だし……なるべく甘んじて受け入れようと思う。
「……湊さん来たって」
「……? そっか。じゃあ、行こうか」
スマホを確認した乃愛が、心なしかいつもより少し静かなトーンで、呟く。
でも、乃愛っていつも静かだし、これに関しては俺の気のせいでしかないかもしれない。
俺は怪訝に思いつつも、傍に置いてあったキャリーケースを持って玄関に向かう。
その道中で、
「待って」
腕を掴まれて、立ち止まった。
振り返ると、乃愛は俺を見上げて少し視線を泳がせてから、切り出してくる。
「……引退配信のあと、話があるって言ったこと……覚えてる?」
「え? うん。もちろん覚えてるよ」
その直後にすぐにストーカーのことが起きたから、霞がちになってしまったけど、ちゃんと覚えている。
「……終わったあとって言ってたけど」
そこで区切った乃愛が不意に1歩踏み込んでくる。
「今から、それ伝えるね」
俺が返事を返す前に、乃愛が更に1歩こっちに踏み込んできて——。
——背伸びをして、目を瞑った乃愛が、俺の頬にキスをしてきた。
「……ぇ」
なにをされたのか、理解が追いつかない俺に、乃愛はほんのりとその頬を赤く色付けて、潤んだ瞳で告げてきたのだった。
「——優陽くんが好き。大好き」
これにて第4章は終了となります!
ここに至るまでに171話という長丁場になってしまっているにも関わらず、当初からこの作品を追ってくれている方々や、新しく読み始めて最新話まで追いついてくれる方々には感謝をしてもしきれません!
読んでいただけたら分かる通り、この作品の設定はダブルヒロインなのですが、そのヒロインの片方である乃愛が告白したことによって、作品は次章から大きく動いていくことになります!
と、言っても次章の投稿はまた間が空いてしまうことにはなるとは思いますが……。
しかし、この先も書籍化を目標に変わらずに頑張っていこうと思うので、
この作品が面白い、続きが気になる、応援してるよと思っていただけたら、
作品のブックマークや評価⭐︎を1からでもいいので、ぜひよろしくお願いします!
長くなってしまいましたが、これからも応援よろしくお願いします!




