陰キャと白髪美少女は話し合う
「さて、それじゃ……これからどうしようか」
ご飯も食べ終えて、皿洗いも終わった。
俺たちは改めて、テーブル越しに対面で座って向かい合っていた。
話題はもちろん、ストーカーへの対策。
そのことばかり話して気が重たくなるのは嫌だし、基本的にはあまり気を遣わずに普段通りの生活を心掛けたいと思っている。
でも、目を逸らしてばかりはいられないから、どうしてもこうやって話して向き合わないといけないことだってあるんだ。
「ん。とりあえずは、わたしたちの家の周辺へは重要な用事がない限り、あまり近付かない方がいい」
「そうだね。もし、そこからまた跡をつけられて、このマンションのことまで知られたら住む場所を移した意味がなくなっちゃうし」
もしかしたら、車でどこかに移動している場面は目撃されたかもしれないけど、さすがにこのマンションのことはまだ知られてはいないと思いたい。
「それから、移動は基本的には車にして、人と会うって時は個室にした方がいいと思うんだ」
「ん」
車での移動となると、湊さんとか金銭面的に負担がかかるけどそうも言ってられないわけだし。
(まあ、金銭面は乃愛のご両親が全面的に負担してくれるって話だけど)
仕方ないとはいえ、それでも払ってもらうことには抵抗感と罪悪感がある。
でも、幸い、俺の方には外に出ないといけないような用事がないし、金銭面のことは最小限に抑えられるだろう。
「あとはなにかあるかな?」
「……ない、と思う」
「やっぱり俺たちが自分で出来る対策はこのくらいのもんだよね……」
これが物語の世界なら、自分たちで特定して捕まえてやるくらいの気概は見せられたかもしれない。
でも、現実の俺たちはなんの力もないただの学生でしかなくて。
あまりに巨大な事態に対しては受け身になって、周りの大人が解決してくれるのを待つことしか出来ない子供でしかない。
(まあ、こうして乃愛と一緒にいればいずれ犯人が接触してきて……なんて考えなかったわけじゃないんだけど)
白状すると、その考え方はあった。
現状、自分たちを囮にすることは受け身でいることしか出来ない俺たちが唯一取れる解決への近道でもあると思う。
けど、乃愛にまで危害が及ぶ可能性に目を瞑ってまで、その選択を取れるわけがない。
だから、ただ一緒に雲隠れをして、ただ傍にいるだけに止めているのだ。
(まあ、一緒にいること自体が犯人への挑発になってることは否定出来ないんだけどさ)
そこに関しては、自分の考えを譲るつもりはない。
というか、犯人の身勝手で俺たちの日常が脅かされているのに、俺が自分の芯を……友達の為になにかをしたい、助けになりたいという気持ちを曲げてまで犯人に気を遣う必要なんてない。
「優陽くん……? どうしたの……?」
「え? どうしたって、なにが?」
「……今、凄く怖い顔をしてた」
言われて、俺はようやく眉間に皺が寄ってしまっていることに気が付いた。
心配そうに見つめる乃愛に、誤魔化す為の言葉を並べ立てようとして……やめた。
乃愛を安心させるように力を抜いて笑みを形作る。
「ごめん。改めて、犯人に対して腹が立ったんだ」
「……普段怒らない優陽くんが怒ると迫力が凄いからびっくりした」
「え? そんなに凄いかな?」
「ん。別人レベル。わたしがいきなり表情豊かになるくらいギャップあり」
「それは確かにヤバいね」
確かに俺は特定の人物以外には怒ることはなく接してるし、怒った経験というのがあまりない。
けど、まさか乃愛の表情が豊かになるクラスのギャップがあるとは。言われないと分からないものだね。
と、話が逸れてきてる。
今はそんなことよりも、まだ確認しないといけないことがある。
「ところで、ほろぐらむの事務所はこの件に関してなんて言ってるの?」
「ん。会社の総力を上げて事態の沈静化に努めてくれるって」
「そっか。いい会社だね」
「ん。元々そういうことが起こる可能性が多い業界だから、迅速に動けるようにはしてあるって言ってた」
あまり言いたくはないけど、確かにVtuberや配信者への誹謗中傷や脅迫があったみたいな話はそれなりに耳に入ってくることが多い。
だからこそ、会社が盾になって守ってくれるという姿勢を見せてくれるのは、この状況においてなによりも心強かった。
でも、安堵している俺とは違って、乃愛は少し悲しそうな顔をして、呟く。
「……でも。状況によってはデビューを遅らせるか……最悪、デビュー自体を取り消ししないといけなくなるかもしれない」
「ぇ……」
取り消し。
その言葉が、頭に重くのしかかる。
(……そっか、普通に考えれば当たり前のことなんだ)
実際になにかあってからでは遅いから。もし、事態が収束する兆しが見えなければ、会社としてはデビューをさせる前に身の安全の為にデビュー自体をさせないという判断も取らないといけなくなることなんて。
事態を軽く見ていたわけじゃないけど、俺はまだ軽く見てしまっていたんだ。
深刻な状況に、今度は眉間に皺が寄ってしまっていることを自覚する。
そんな俺を見て、乃愛が珍しく感情を露わにして、慌て始めた。
「ほ、本当に最悪そうなるってだけだから……! 会社は守るって言ってくれてるんだし……!」
それに、と乃愛が真っ直ぐ俺を見てくる。
「どれだけ時間がかかってもいいから、わたしは辞める気はないって伝えてあるから」
静かだけど、確かな覚悟を感じる声音。
その瞳に、声に、意志を感じ取った俺は、少しだけ深呼吸をして、
「……そっか」
言葉を返した。
乃愛がこういう風に覚悟を決めてるのに、俺がそれを阻むわけにはいかないし、狼狽えているわけにはいかない。
けど、やっぱり直接解決の為になにかが出来るわけじゃないことが、とにかく歯痒かった。




