陰キャと白髪美少女の料理模様
「じゃあ、始めよっか」
色々と食材が置かれたキッチン内で、俺が予備で持ってきていたエプロンを身に付けた乃愛に声を掛ける。
「ん。よろしくお願いします。……? なんでちょっとニヤニヤしてるの?」
「いや、なんか俺のエプロンだしサイズ大きめなのと、着慣れてないのに妙にやる気満々でそのちぐはぐさが微笑ましくてさ」
特に乃愛は小柄だし、メンズ用の大きさだと脛くらいまで隠れてしまってて、見ようによっては背伸びしている子供のように見えてしまう。
ふくくっと忍び笑いを漏らしていると、乃愛がむっとした。
「もういい。包丁貸して」
「俺を殺る気!?」
ちょっと笑っただけなのに!
「違う。普通に料理始めようって意味」
「あ、ああ……そういうことか……」
急に話の流れ関係なく包丁を要求してくるもんだから、てっきりそういう意味なのかと思っちゃったよ……。
「いくらなんでもそこまではしない。……笑われた分はあとでゲームでぼこぼこにする」
「あ、やっぱり恨みは買ってるんだね」
気を付けよう。こうなった乃愛は恨みを晴らせるまでゲームを続けようとするから。
俺と乃愛の実力差は互角だし、下手したら永遠に終わらない。
「やる気になってるところ悪いけど、まずはお米の炊き方からだよ」
「……そう」
乃愛のテンションが露骨に下がった。
まあ、料理って言ったら包丁で食材切ること想像するだろうし、なんとなく気持ちは分かるけど。
それでも、乃愛はちゃんと言うことを聞いて、教えた通りに物事を進めてくれて、お米を炊き終えることが出来た。
作業している最中は楽しそうだったし、なんだかんだ、やっている内に楽しくなってきたらしい。
「じゃあ、お待ちかね。食材を切っていこっか」
「ん。……ところで優陽くん。なにを作るの?」
「あ、言ってなかったね。親子丼だよ」
悩んだけど、複雑な工程がなかったり、さほど時間がかからずにちゃんと食材を切ったりと料理してる感じを出せるから、練習にはちょうどいい料理だと思ったので、親子丼を作ることにしたのだった。
「とりあえず切り方を見せながら教えるから。やってみたいだろうけど、まずは見てて」
「ん。レースゲーで言うところのゴーストから学ぶ感じってこと?」
「そんな感じです」
「ん。了解。わたし、上手い人のプレー見て、練習するの好き」
「乃愛って配信外だと実戦するよりもトレーニングモードに篭ってること多いもんね」
コツコツやるのが好きで、地味な練習が苦にならずに出来ちゃう上に、どちらかと言えば出来ないことがあるのが嫌で、出来るようになるまでひたすらやっちゃうような、完全に俺と同じタイプだ。
(しかも乃愛の場合、地頭がいいからなぁ)
多分、教えたら割とすぐに覚えちゃいそうな気がする。
……料理に独創性を求めて余計なことをしちゃうタイプじゃなければ、だけど。
「多分聞いたことあるだろうけど、包丁を持ってない手は基本的には猫の手ね」
「ん。聞いたことある。にゃん」
乃愛が抑揚のない鳴き声と共に、両手を丸めて猫のポーズを取る。
悔しいかな、男心とオタク心に美少女のそういう動作はグッとくるものがあり過ぎるわけで。
思わず見惚れてしまいそうになりながら、俺は慌てて気を持ち直す。
「さ、最初は動作を早くとか意識しなくていいから、ゆっくり切ることを意識してね」
「ん。分かった。……でも、優陽くんのいつも通りの包丁さばきが見てみたい」
「俺なんて全然普通だけど……じゃあ、リクエスト通りに」
乃愛に見せる為に丁寧にやっていたモードから、いつも通りの速度に戻して切っていく。
「……おー」
乃愛が俺の手元に視線を落とし、感心したような声を漏らす。
少し気分がよくなった俺は、調子に乗ってそのまま玉ねぎをみじん切りした。
「凄い。さすが優陽くん。プロになれる」
「あはは、ありがとう」
「……でも、親子丼ってみじん切りした玉ねぎって使うの?」
「……これはあとでスタッフが美味しくいただいておきます」
調子に乗るの、よくない。
ともあれ、そのあと乃愛はケガなく具材を切り終えることが出来た。
「ん。出来た」
「うん。よく出来ました」
むふーっとちょっと満足そうプラス得意げにする乃愛に俺は讃辞の声と共に微笑を零す。
なんだろう。小さな子供向けの料理教室の講師の気分ってこんな感じなのかも。
言ったら怒りそうだから言わないけど。
そんなこんなありつつ、切った具材を鍋に放り込んで、味を整え終えて、炊けたご飯に載せれば、あっという間に親子丼は完成した。
並行して作っていた味噌汁を隣に並べれば、文句なしの昼食の完成だ。
「……ん。美味しい」
主に自分の手で作った親子丼を食べて、乃愛が安堵感が混じった声を漏らす。
「うん。初めてでこれなら上出来だよ」
「ん。先生がよかった」
「いやいや、乃愛が頑張ったからだよ」
実際、乃愛は分からないところはちゃんと確認してきて、変なことをしようとしなかったわけだし、優秀な生徒だったと思う。
「この分なら、俺が教えなくても動画とかで作り方を見ていろんなものをちゃんと作れるようになりそうだね」
「ん。そう言ってもらえるのは嬉しいけど、優陽くんに教えてもらって一緒にやるから意味がある」
だから、と乃愛が食べる手を止めて、俺の方をうかがうような上目遣いを向けてくる。
「……これからも、もっと色々と隣で教えてほしい」
「うん。もちろんだよ」
「……ん」
言いたいことを言ったからか、乃愛はふいっとテーブルの上の料理に視線を落として、黙々と咀嚼を始めた。
そんな乃愛の耳の先はちょっと赤くなってるような気がした。




