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陰キャと白髪美少女は全てを打ち明ける

「——Vtuber……そうだったんだ」


 ホテルに泊まった翌日。

 警察からの事情聴取を終えた俺たちが事態を説明し終えると、和泉さんが静かに驚嘆したような呟きを漏らす。


 ストーカーのことだけじゃなくて、Vtuberのことまで明かすかどうかは話し合って、乃愛自身が決めたことだった。


「ってかVtuberだってこともヤバいけど、ストーカーってヤバ過ぎだろ!? 大丈夫なのか!? いや、大丈夫ではないんだろうけども……!」

「落ち着けよ。心配のニュアンスで聞いたってことは伝わってるって」


 1人で慌ただしくする石浜君を藤城君が落ち着かせ、改めて俺たちを見てくる。


「白崎」

「……ん。なに?」

「本来ならVtuberのことは秘密にしたかっただろうに、話してくれてありがとな」


 その言葉に、乃愛が少し目を見開いた。


「お前が、優陽以外の男には接しづらそうにしてたのは気付いてた」

「……そんなことは……」


 多分、そんなことはないって言おうとして、乃愛は結局口を噤んだ。

 自分でも、思い当たる節が多かったからだろう。


 そんな乃愛を見て、藤城君は口の端を上げる。


「だから、こうして話にくいことをちゃんと話してくれたことが、オレにも話してくれたってことが、なによりも嬉しいんだよ」

「あ、俺も俺も! 事態が事態だし、喜ぶようなところじゃないんだけどさ、少なくとも、これでちゃんと乃愛ちゃんと友達になれたような気がするし!」


 藤城君の言葉に、石浜君が屈託のない笑みを浮かべる。


(やっぱり、この2人は俺の自慢の友達だ)

 

 どこまでも優しい2人に、乃愛が唇を少し噛んでから、そっと微笑みを零した。


「ありがとう。藤城君、石浜君。……巻き込んで申し訳ないけど、助けてほしい」

「おう、任せとけ」

「当然っしょ! っつっても、俺たちで出来ることなんてあるのか分からんけど」


 意気込んだものの、悩ましい顔をする石浜君。

 そこに「とりあえず」と空の声が響く。


「今出来そうなのは、なるべく乃愛ちを1人にしないってことじゃない?」

「優陽もね。話を聞くにストーカーの害意が向いてるのはどっちかって言うと、優陽の方だろうし」


 確かにあの写真の感じからして、犯人の悪意は俺に対しての方が強いように思える。

 

「なら、優陽と白崎はあまり一緒にいない方がいいんじゃねえの? 彼氏と別れろって書いてあったなら、一緒にいたら神経逆撫ですることになるだろうし」

「……そのことなんだけど」


 俺は全員の顔を見て、しっかりと背筋を伸ばす。


「俺は、事態が治るまで乃愛と一緒に暮らそうと思う」


 昨夜決めたことを伝えると、乃愛以外の全員が目を見開いた。

 乃愛は、俺を巻き込んでしまったと改めて考えたのか、少し俯きがちになってしまう。


「一緒に暮らすって……それは逆効果だろ!」

「そうだよ! 犯人刺激するようなことしてどうすんの!」


 普段から声の大きい石浜君のみならず、いつもは落ち着いている和泉さんまでも、声を大きくして、怒るように諭してくる。


(2人は、俺たちのことを心配してくれてるから、こう言ってくれてるんだ)


 それは分かるけど、俺にだって譲れない部分はある。

 だから、ここに関しては相手が友達だろうと引くわけにはいかない。


 拳を握り締めて、絶対に引かないという意志を込めて、石浜君と和泉さんを見据えて、口を開こうとしたところで、


「まあ、待てよ。お前ら」


 藤城君が場を落ち着かせるように、声を発した。

 それから、藤城君が真剣な表情で俺を見てくる。


「優陽。お前は確かにこういう時に自己犠牲にするような奴ではある」

「……うん」

「けど、お前はその選択を選ぶリスクを分からない程、考えなしのバカじゃない」

「……うん、分かってるよ」

「その上で、お前は白崎を1人にしない為に、自分だけ安全なところに逃げない為に選んだんだろ? だって、お前はそういう奴だ。なぁ、空?」


 藤城君が空に視線と言葉を投げる。

 空は、まったく迷いがなくて、慈愛に満ちていて、俺のことを信じていると言わんばかりの輝きを瞳に宿して、微笑んだ。


「うん。優陽くんはそういう人だから」

「……っ」


 俺は、少しだけ泣きそうになってしまう。

 だって、俺のことを理解してくれて、信じてくれている人がいるなんて、今までの俺からはまるで想像がつかないことだったから。


(やっぱり、話さなかったら凄い怒られてたんだろうな)


 そのことは、簡単に想像がついた。

 油断したら涙が溢れそうだったから、俺は慌てて話を軌道修正しにかかる。


「昨日、犯人についての心当たりみたいなものは湊さんとは話したから、そのことを皆にも共有しておくね。……乃愛。聞きたくないなら、耳を塞いでていいからね?」

「……大丈夫、聞く」


 乃愛が、俺の服の裾をきゅっと握り締めて、見上げてくる。

 俺も頷き返して、俺は改めて皆に、犯人が俺たちの通う学校の生徒の可能性があるということを伝えた。



「わざわざ呼び出してごめん、空ちゃん」

「んーん、いいよ。それで、話ってなぁに?」


 皆に話し終えたあと。

 入居するマンションへの荷物運びをする為に、解散になってから、わたしは空ちゃんを改めて喫茶店へと呼び出していた。


 対面に座る空ちゃんに、わたしは静かに頭を下げる。


「ごめん。空ちゃんの気持ちを知ってるのに、抜け駆けみたいに優陽くんと一緒に住むことになって」


 優陽くんにその選択をさせてしまったのは、間違いなくわたしのせいだ。

 優陽くんに縋って、そう思わせてしまったのはわたし。


 状況が状況だったと開き直るつもりなんて、微塵もない。

 わたしは、空ちゃんを傷付けるようなことをしてしまっているのだから。


(例え、なじられたって、罵倒されたって……)


 絶交されても仕方がないと思ってる。

 そのくらいのことをわたしはしているのだから。


 頭を下げたまま、空ちゃんの審判に身を委ねようと、待っていると、


「乃愛ち。とりあえず顔を上げて」

「……? ……っ!?」


 顔を上げた瞬間、頭に強めな衝撃があって、わたしは思わず額を抑えて空ちゃんを見た。

 空ちゃんは、チョップをした体勢のまま。どこか呆れたような、怒ったような顔をしていた。


「仕方ないじゃん、状況が状況だよ!? そんな大変な時に自分の感情を優先してずるいって思ったりとか、拗ねたりとかなんだとか、しないから!」


 じんじんと痛む頭を抑えたまま、わたしはそのまま呆然と空ちゃんを見つめる。

 すると、空ちゃんはふっと頬を緩めた。


「なんて、綺麗事だけ言えたらよかったんだけどね。そりゃ、少しは嫉妬したりとか、少しは思うところだってあるよ」


 空ちゃんは弱々しい笑みを浮かべたまま、続ける。


「こういう時に綺麗な感情だけ器用に心に浮かべられる程、私は自分が出来た人間じゃないって思ってるし」

「ご、ごめ……」

「だから謝らないでってば! 乃愛ちはなにも悪くないんだしさ!」


 謝罪を遮った空ちゃんは、「それに」とどこか誇らしそうな顔に切り替えた。


「優陽くんは、そういう人だからね。例え、今回の件でストーカーをされていたのが私でも、同じようなことを言ってたと思わない?」

「……ん。それは、そう」

「でしょ? それに前にも言ったよね? この人を好きになって間違いじゃなかったって思えたって。乃愛ちもそう思わなかった?」

「……っ」


 空ちゃんからの問いかけに、わたしは息を呑んでから、


「ん。思ってる」

「だよね」


 真っ直ぐに目を見つめ合って、頷き合った。

 

(本当に、空ちゃんは素敵な女の子)


 こんな人が同じ人を好きになったライバルだなんて、手強過ぎると思う。

 だからこそ、負けたくないと強く思う。


「空ちゃん」


 わたしは、空ちゃんの顔を見つめたまま姿勢を正して、告げた。


「もし、このストーカーの件が収まって、引退配信が終わったら……わたしは優陽くんに告白しようと思う」


 この人相手に、隠したまま自分だけ告白しようなんて出来るわけがない。

 空ちゃんはわたしの宣言に、小さく息を呑んで、目を大きく見開く。


 それから、少しだけ、まるで言葉の意味をきちんと咀嚼するような間を取って、


「……そっか。じゃあ、尚更早く解決してくれないと困るね」


 まるで感情の読めない、作り笑いめいた笑みを浮かべたのだった。

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