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白髪美少女からの呼び出し

「……こんな時間に話があるから部屋に来てほしいって、どうしたんだろう。乃愛」


 芹沢さんが帰ったあと。

 俺は自分の部屋……ではなく、乃愛のマンションの前に立っていた。

 

 いつものように乃愛と夜のゲーム会をしていたら、乃愛が話があるから部屋に来てほしいと言い出したのだ。

 どうにも通話じゃなくて直接話したいことらしい。


(まあ、明日は休みだし部屋に行くこと自体は全然いいんだけど)


 考えつつ、合鍵を使ってエントランスへと入り、エレベーターに乗る。

 合鍵を貰ってからほぼ毎日起こしに来たり、たまに乃愛の部屋に遊びに行ったりもしているので、今更緊張もしない。


「……数ヶ月前の俺が聞いたらきっとUFOにでも連れ去られて人格を入れ替えられたに違いないとか言いそうだなぁ」


 そんなSF的な出来事が起こったと決めつけるほどに、数ヶ月前には異性どころか人と関わりがなかったのだから、そう思っても仕方ない。


 乃愛の部屋がある階層に辿り着く直前に、乃愛に着いたというメッセージを送り、エレベーターを降りる。


 時間が時間なのであくびをしながら部屋に向かっていると、乃愛の部屋の扉がゆっくりと開き、扉の陰から乃愛が顔をひょこっと覗かせた。

 その際、肩の辺りで1つ結びにされたおさげがぷらりと胸の前に垂れる。


「あれ、どうしたの?」

「ん。お出迎え」

「それは見れば分かるけど、どうして今日はまたお出迎え付き?」

「部屋に急に呼び出しておいて出迎えもせずに待ってるなんて許されない。……来てくれてありがとう」


 乃愛がぺこりと頭を下げてくる。

 相変わらず、マイペースなように見えてしっかりとしている子だ。


「全然いいよ。それほど大切な話ってことでしょ?」

「ん。とりあえず、上がって」


 部屋の中に入っていく乃愛の後ろを「お邪魔します」と言いながら続き、リビングに足を踏み入れる。

 すると、乃愛がソファに腰を下ろし、隣をぽんぽんと叩く。どうやら座ってということらしい。


 拒む理由もないので、大人しく指示に従い、乃愛から少し離れた所に腰を落ち着けた。


「えっと……それで、話って?」

「ん。実は、事務所からのスカウトを受けて、正式に契約することになった」

「へえ、そうなんだ。………………って、ええ!?」

 

 あまりにも淡々と言われたせいで普通に相槌を打ってしまった。


「それってほろぐらむの5期生としてデビューするってことが決まったってことだよね!? いつの間に!?」

「実は話自体はお見舞いに行った日から進めてた」

「そうだったんだ……それなら言ってくれればよかったのに」

「驚かせようと思って。ただ、未成年で会社に所属扱いになるから、書類に保護者のサインが必要で、お母さんたち海外にいるし、FAXもなくて、そのやり取りに時間がかかったけど、やっと言えた」


 ドッキリが成功してご満悦らしい乃愛が「ぶい」と作ったピースをちょきちょきと動かす。

 楽しそうでなによりだ。


「……あれ? じゃあ白峰のえるってどうなるの? そのまま白峰のえるって形で所属することになるの?」

「……いや。白峰のえるとしての活動は休止することになると思う。新しい名前と姿を与えられて、ほろぐらむ所属の5期生として再スタート。俗に言う転生」


 どこか寂しそうに、乃愛が言う。

 憧れていた大手企業にスカウトされてデビューが決まるなんて、個人Vtuberなら誰しもが1度は思い浮かべる夢を叶えたにしては浮かない表情だ。


 一瞬、怪訝に思ったものの、俺はすぐに表情の理由に思い当たった。


(……そっか。ずっと白峰のえるとしてやってきたんだもんね)


 正直、分かるのは理由までで、その感情の深さまでは俺には分からない。

 でも、思い出も思い入れもかなりあるものが、どんな形であれ終わりを告げるというのは寂しいに決まっている。


 俺にだってそういう経験があるから、それは分かる。


 ゲームをプレイしたり、ラノベを読んだりして、その世界にのめり込んで、その世界を大好きになって、それが終わってしまうのは、その物語がハッピーエンドにせよ、バッドエンドにせよ、どんな結末を迎えるにしても、終わってしまうのは寂しいものだったから。


(……いや、まあ、そういうのと一緒にするのは違うかもしれないけど)

 

 重みこそ違えど、思い出と思い入れがあるものが終わる寂しさが分かるっていうのは本当のことだ。


 だからこそ、俺がやらないといけないのは一緒になって寂しさを共有することではなく、寂しさが紛れるくらいに祝福してあげることだろう。


「とにかくおめでとう! 本当、凄いことだよ!」

「ん。ありがとう。優陽くんが背中を押してくれたお陰」

「いやいや、乃愛が頑張ったからだよ。あ、お祝いしないとね! なにかしてほしいこととかある?」

「してほしいこと……」


 尋ねると、乃愛は口を閉じて考える仕草を取る。

 まあ、どのみちささやかながらのぷちパーティはするつもりだからしてほしいことがなくても問題ないんだけど。


「……あった。してほしいこと」

「お、なに?」

「一緒に、遊びに行きたい」

「……え? それだけでいいの?」

「ん。それがいい。ダメ?」

「いや。乃愛がそれでいいなら、いいよ」


 俺も友達と一緒に出かけるってことに慣れないといけないし、ちょうどいいや。

 それにしても、インドア趣味で引きこもり気質の乃愛が外に出たがるなんて珍しいなぁ。


「じゃあ、日付とか場所とか決めないとね」

「待ち切れないからすぐにでも行きたいけど、明日は勉強会。来週は?」

「あー……ごめん。来週は芹沢さんと動物園に行く約束があってさ」

「え……」

 

 乃愛がわずかに目を見開いて静止した。

 それから、ぽそりと呟く。


「……先手を打たれた。さすが空ちゃん。侮れない」

「先手?」

「べ、別になんでもない。……空ちゃんの行動力がさすがって話」

「あーなるほど。確かに芹沢さんの行動力は凄いもんね。まあ、この件に関しては俺から誘ったんだけどさ」

「……!?」


 乃愛が大きく目を見開き、絵に描いたような驚愕の表情になった。

 急にこんなに表情筋動かしたら顔中筋肉痛になりそう。それくらい普段表情動いてないし。


「……やっぱりファッション陰キャだった」

「うわー、久しぶりに言われたな、それ」

「自分から異性に遊びに行く提案をしたりするのは陰キャじゃない」

「いやいや、陰キャだって機会がなさ過ぎるだけで、機会があれば誘ったりするよ、多分! 機会がなさ過ぎるだけで!」

「それに、学校での様子見てても、もはや優陽くんは陰キャとは呼べない。陰キャを名乗るならもっと陰キャとしての誇りを持った行動をするべき」

「……俺別に陰キャに誇りを持ってたことないんだけど。ちなみに、誇りを持った行動って例えばどんなの?」

「休み時間にイヤホンして寝たふりしてやり過ごしたり、いもしない別のクラスの友達に会いに行くふりをして意味もなく教室から出てみたり、トイレから戻ってきたら自分の席の周辺で人が話してて、声かけられなくてもう1回無駄にトイレに行って時間を潰したり」

「そんな誉れ今すぐドブに捨ててしまえ」


 むしろ誇りに埃を塗りたくっているまであるよ。


「とにかく、優陽くんが陰キャを名乗るのは陰キャを代表して許さない」

「いつから代表になったのさ……というか、乃愛って陰キャじゃないと思うんだけど」

「……私、陽キャ?」

「いやそれはないけど」

「じゃあ、私ってなに?」

「急に哲学みたいになったね……急に言われてもなぁ」


 陰キャって言うほど根暗じゃないし、かと言って陽キャかと言われれば違う。

 なにかと言われれば……どこか神聖さがあって儚げな見た目から連想される……そう、例えば——。


「——天使みたいな感じとか……」

「……っ!? き、急にな、なに言ってるの……!」

「へ? なにって……え、あれ!? 今の声に出てた!?」


 ヤバい、同級生を天使呼びは普通に気持ち悪過ぎる! 

 現に乃愛だってあまりの気持ち悪さに顔赤くして怒ってるし!


「ご、ごめん! 乃愛がどういうキャラなのか考えてたら自然とその考えが浮かんできたと言うか! じ、じゃなくて本当にごめん!」

「べ、別にいい。驚いただけ。嫌だったわけじゃない」

「ほ、本当?」

「……ん。でも、これだけは言わせて」

「な、なんでしょう……」

「………………ばか」


 あまりのいたたまれない空気に、遊びの予定は後日決めることになり、その日はこれで解散となったのだった。

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