【四月六日 月曜日】
昨日の出来事から一夜明け。葉司、北斗、太耀、恵理花の四人は、集団登校の班で一緒に学校に来ると、教室には向かわず、誰も居ない会議室で隠れて会話をしている。
「それにしても、良く思い付いたなソレ」
太耀は北斗のランドセルに付いている、キーホルダーを触りながらそう言った。
そのキーホルダーは、臣器の元となる装飾品に、狼王丸の力でキーホルダーの金具を取り付けた物。
「確かキーホルダーとか言う物よねソレ。学校に持ち込んで良い物なの?」
姿を現わしたスセリが不思議そうにそう聞くと、葉司が答える。
「人と物に由るんじゃねぇの?」
すると太耀が、葉司をからかう様に言う。
「僕と北斗は大丈夫だけど、葉司は怒られそうだな」
「ぅんな訳有るか!」
そう文句を返した葉司を尻目に、スセリは少し申し訳なさそうに恵理花に聞く。
「もしかして、首飾りは見付かったら不味いのかしら?」
「うぅん……、今なら身を護るアイテムだと言えば大丈夫な気がする」
恵理花がそう言い終わると、葉司がスセリに言う。
「そう言えばスセリ、臣器って飯食うんだな。今朝勝手に朝飯食おうとして、母ちゃんに隠すの大変だったんだぜ」
その言葉を聞いた北斗と太耀は驚き、その様子を見たスセリは三人に説明をする。
「食事が必要なのは、生命を司る龍蛇丸だけです。出来るなら少しずつで良いので、食べ物を与えてあげて下さい。そうしないと上手く力を発揮出来ません」
「OK。じゃあ昼は、給食とか訳てやれば良いか」
葉司がそう返事を返すと、北斗が疑問を言い返す。
「でも、どうやって食べさせるのさ。臣器達は皆に身えるんだよ?」
「そんじゃ、昼飯は抜きか」
そう言った葉司に太耀が言う。
「葉司。今は良いけど、昼から夕方に掛けて、アラハバキが襲って来たらどうするつもりだ?」
「そんじゃ、どうするんだよ!」
太耀の言葉に葉司がそう言い返すと、太耀が葉司に提案をする。
「配膳室か給食室で、バレない様に、残り物をこっそり貰うしかないだろう」
「バレない様にって…… 他の奴や給食のおばさんにバレたらどうすんだよ!」
そう言って、少し怒こった葉司に恵理花が言う。
「大丈夫よ葉司。昼休みの途中ぐらいまでは、おばさん達休憩室でテレビ見てるから」
「そう言う問題じゃねぇだろう!」
葉司が恵理花にそう文句を言うと、北斗が提案をする。
「食器はバレるから家庭科室からこっそり借りよう。葉司君てイタズラはするけど、こう言う事には真面目だよね?」
「北斗、お前なぁ!」
北斗に対してそう返した葉司に、恵理花が諭す様に言う。
「あきらめなさい葉司。私達も代わり番こでやってあげるから」
子供達の一連の会話を聞いて、スセリはクスクス笑うと北斗にお願いをする。
「北斗、そろそろ葉司と太耀の物もキーホルダーに変えてくれるかしら。臣器達に頼みたい事も有るし」
「分かった」
返事をした北斗は、ランドセルに付いているキーホルダーを強引に掴み、狼王丸を呼ぶ。
「狼王丸、出て来て!」
すると子供達の目の前に、小型……だいたい全長150センチぐらいの狼王丸が姿を現した。
「二人共、金色の奴を出して」
葉司と太耀は、北斗にそう促されランドセルから自分達の臣器の装飾品を取り出し、狼王丸の目の前に置く。
「お願い狼王丸。二人の臣器の金色の奴も、ボクのみたいにしてくれる?」
その言葉が終わると同時に、臣器の装飾品はキーホルダーに姿を変える。
葉司と太耀が、ランドセルにキーホルダーを取り付けている間、スセリは恵理花に頼む。
「恵理花、お願いが有るのだけれど。窓を開けてくれない、見付からない様に」
恵理花はスセリに頼まれ、外に誰も居無い事を確認した後、窓を開けた。
「これで良い、スセリ?」
「ありがとう恵理花」
スセリは恵理花にお礼を言った後、葉司、太耀に言う。
「葉司、太耀。龍蛇丸と鳳皇丸を呼んで頂戴」
「何する気だよスセリ、だいたい学校の中で龍蛇丸呼べんのかよ?」
葉司が聞き返すとスセリは答える。
「だから窓を開けたのよ。今の此処は空の延長線上。念の為、一帯の偵察してもらおうと思って」
そう言うスセリに太耀が質問をする。
「そう言えばスセリ? 何でこの金属、臣器を大型で召喚した時は消えて無くなったんだ?」
その質問に、葉司と太耀もスセリを注目する。
確かに昨日までは、装飾品自体が臣器に成っていた。
その為、今朝確認の為に臣器達を呼び出した子供達は、少し疑問に思っていたのだ。
「それに付いては多分、貴方達が臣器を個…… 判り易く言うと、友達や仲間と思っているからだと思うわ。言っていませんでしたが、この子達の本質は、水の鏡に閉じ込めた自然と、アラハバキの力。人の思いに作用して形を変える力。貴方達が無意識に小型の姿の時は、自分達が制御するモノではないと言う、思いの表れじゃないかしら」
「待ったスセリ、コイツ等の正体って……」
臣器の正体を知って、葉司が驚いてスセリにそう聞き返した。
北斗も太耀も驚いた顔をしており、そう言う反応が返って来ると理解していたスセリは、申し訳なさそうに三人に説明をする。
「隠していてごめんなさい。昨日の時点で話してしまうと、貴方達が臣器を疑い、上手く戦えないと思っていたのよ…… 安心して、この子達はアラハバキとはもう別の存在だから」
スセリにそう説明された葉司、北斗、太耀は暫く悩む。
そして北斗はいったん狼王丸に目を向けてから、スセリに言う。
「ボクは狼王丸の事を信じるよ」
「俺も」
葉司がそう続けて言うと、太耀も続ける。
「僕も」
「臣器を信じてくれてありがとう三人共。さぁ、窓が開いてる事に気付かれたら誰かが来てしまう、早く臣器を」
笑顔でスセリがそう言うと、葉司と太耀は臣器を呼び出すキーホルダーを握り締め、臣器を呼び出す。
「来い、龍蛇丸!」
「お前もだ、鳳皇丸!」
葉司と太耀がそう言うと、会議室に小型……全長2メートル程の龍蛇丸と、全長50センチ程の鳳皇丸が姿を現し、スセリは葉司、北斗、翔に言う。
「三人共、臣器に偵察の……――」
「待ってスセリ、この子達が町の人達に見付かったらどうするの?」
しかし恵理花が、スセリの言葉を遮りそう聞いて来たので、スセリは首を横に振り恵理花に答える。
「今の時間は多分、お爺ちゃんお婆ちゃん以外外に出ている人なんてそんなにいないから平気よ。それに臣器達も、バレない様に偵察を頑張ってくれるわ」
そう言ったスセリに答える様に、龍蛇丸、狼王丸、鳳皇丸は小さく頷いた。
「ヘマすんなよ龍蛇丸」
「頑張ってね狼王丸」
「任せたぞ鳳皇丸」
三人の言葉と同時に、臣器は自らの主達を一瞥し、開け放たれた窓から外に出て行く……
出て行こうとするが、鳳皇丸だけがとても外に出るのが辛そうで、龍蛇丸の協力でどうにか出る事が出来た。
「明日からは、集団登校前に呼び出しておいた方が、良さそうだな」
太耀がそう言うと皆がクスクス笑い、スセリが葉司、北斗、太耀に言う。
「臣器達は、その飾りを身に着けた状態で呼べば、貴方達の……――」
「おい、会議室に誰か居るのか?」
会議室の外から男性の声が聞こえ、スセリは話すのを止め姿を消す。
磨りガラス越しの為、姿は判からないが、声でそこに居るのが誰か子供達は理解した。
ガラガラガラ
扉を開けて入って来たのは、担任の渡辺先生。
「やべ!」
葉司の言葉を返す形で、渡辺先生は葉司達に少し怒った口調で言う。
「お前達、会議室で何をやってる。先生に知られて不味い事でも、企んでたんじゃないだろうな!」
渡辺先生にそう言われ、これは不味いと思った太陽は、物凄い真面目な顔を作り渡辺先生に言い返す。
「違うんです渡辺先生、聞いて下さい!」
「何だ?」
「先生も、昨日の天狗達の件は如っているでしょう?」
「それが如何した?」
そう言い返した渡辺先生に、今度は恵理花が少し不安そうな顔を作って言う。
「実はあそこの河川敷、家で使うはずだったので警察に取り調べられて……」
更に、北斗が不安そうな顔で言葉を続ける。
「ボク達も一緒に居たんですけど、皆がどれぐらいの事を知ってて、変な噂が起こってないか心配で、相談をしてたんです」
三人にそう言われた渡辺先生は真面目な顔に成り、何も言ってこない葉司の方を向くと、葉司に聞く。
「本当か、葉司?」
「悪い先生。こんな話し、皆に聞かれたくねぇからな…… 内緒にしといてくれよ」
ぶっきらぼうに葉司がそう答え、渡辺先生は少し考えてから葉司達に言う。
「お前達、怪我は無かったか?」
「大丈夫でした」
恵理花がそう言うと、渡辺先生は微笑んで言う。
「それは良かった。それで話しはまとまったのか?」
そんな渡辺先生に、困った顔で太耀は答える。
「いいえ」
「それなら、その事を先生がそれとなく聞いてやろう」
「えっ!」
思いも由らない渡辺先生の言葉に恵理花が本音を漏らすと、渡辺先生は苦い顔をして言う。
「何だ信用の無い……のは当たり前か…… 良いから任せておけ。それより何で窓が開いてるんだ?」
「何か辛気臭くてさぁ、気分転換に」
葉司がそう答え、渡辺先生は自信満々に言う。
「とにかく、キチンと戸締りをしたら教室に行くぞ」