【約10分後 黒沢家】
黒沢家に戻ったスセリに、オモイカネは話しかける。
「考えは纏まったか、スセリ?」
スセリは1人で考えたいと言う理由で姿を隠し、黒沢家を離れてアラハバキ達を呼び出していた。
オモイカネの言葉に、スセリは納得いかない顔をして言い返す。
「分からない…… そう言えば葉司達は?」
見渡す中庭に臣器3器の姿は在るが、葉司、北斗、太耀、薫の姿が見当たらない。
その事を不思議に思っているスセリに、恵理花が答える。
「葉司君達は、お昼を食べに帰ったわよ」
「私達は、私が前もって菓子パン買ってきましたから……」
更に緋衣がそう続け、緋衣はそこまで言うと恵理花に向かって、少し意地悪そうに文句を言う。
「それにしても恵理花さん。薫君経由とは言え、よく私に菓子パン買って来てなんて頼めましたね。ほぼ他人ですよ?」
「それは…… ごめんなさい」
恵理花が申し訳なさそうにそう謝ると、スセリはクスクス笑い緋衣に聞く。
「文句を言う割りに、キチンと買って来てはくれたのね。薫に断る様に言えた筈なのに?」
「ソレはですね……」
緋衣はそう言ってスセリにする反論を考えるが、思い付かず口を噤み、スセリは恵理花に向かって言う。
「どうせ恵理花も、話す切っ掛けが欲しかったんでしょう?」
恥ずかしがる二人を見ながら、スセリは思う。
(本当に誰に似たのかしらね……)
クスクス笑うスセリに、オモイカネが念話で聞く。
(「スセリ、こんなに危機感が無くて良いのか?」)
(「何時もの事でしょう。それに正体は如何あれ、虚蝶《あの子》にこちらへの敵意は感じないから……」)
★★★★
【1時半過ぎ 黒沢家】
「ごめんくぅださぁい!」
黒沢家の玄関先から、虚蝶の声が響いた。
ガラガラガラ
「いらっしゃい、虚蝶ちゃん」
暫くして恵理花が扉を開けて出迎えると、虚蝶は軽くお辞儀をし家の中に入って行く。
ガラガラガラ
「お邪魔します」
そう言って引き戸を閉め、ぽっくり下駄を脱ぎながら虚蝶は思う。
(改めて見ると、やっぱり凄いなぁ恵理花ちゃんの家)
すると背後から、聞き覚えの有る男の子の声が聞こえる。
「おい虚蝶、一方敵に約束して帰るのは失礼だぞ」
虚蝶が振り返ると、そこには太耀が腕を組んで立って居た。
「ちょっと、太耀君……」
北斗が太耀の後ろから、太耀に向かってそう言うが、太耀はそれを無視して虚蝶に言葉を続ける。
「いくら小さくても、こう言う事はキチンとしてないと碌な大人にならない」
「……ごめんなさい」
虚蝶が少し間を置き、俯いて謝ると、葉司が虚蝶に近付いて来て言う。
「悪い。コイツお節介でさ、悪気は無いんだ」
すると虚蝶は首を左右に振った後、言葉を返す。
「うんん、家に居てくれてありがとう」
「ねぇ、私に何の用?」
恵理花が虚蝶にそう聞くと、虚蝶は少し押し黙った後に言う。
「えぇぇっと、臣器の練習に付き合って欲しいんだ……」
申し訳無さそうにそう言った虚蝶の言葉に、隠れて見守っていたスセリは驚き考える。
(如何言う事? いや、これは好機か……)
「ボク達と臣器の練習って、何する気?」
北斗が虚蝶にそう聞くと、突如五人の前にスセリが現われ、子供達に言う。
「丁度良いわ。私に良い考えが有るんだけど?」
スセリの突然の提案に、同じく姿を消し隠れて様子を窺っていたオモイカネは、驚いてスセリに念話で聞く。
(「スセリ、何を考えている?」)
(「聞いていたでしょう、考えが有るのよ」)
オモイカネに念話でそう返したスセリは、オモイカネとの念話を切って相手を変え、風丸達に念話で告げる。
(「聞いて三人共! これから謎の臣器が現われるけど、無視して頂戴」)
★★★★
【1時45分頃 大竜神の事件が有った河川敷】
(「仕事の話しの途中で御免なさい、紫織」)
紫織は鎮守の結界の外から様子を眺めながら、そうスセリから念話を受け取った。
(「スセリ、コレは如何言う事だい?」)
そう念話で尋ねる紫織に、スセリは念話で言い返す。
(「話しは後でするわ。ともかく今は、私達の事は気にしないでくれるかしら?」)
紫織の隣りでは、大和土木建築工業の役所と、境群市警察所の刑事が驚きながら、結界の中の様子を眺めている。
役所がこの場に居たのは、恵理花の呪文で大竜神は5機の重機に戻ったのだが、重機には車名が塗装して有った為、警察から受け取りに来る様に会社に連絡が有ったのだ。
一方の紫織は大和土木建築工業に用事が有った事も有るが、自分が重機盗難の原因の一端でも有る為、役所が来る事を知って合いに来ていた。
そんな二人が警官を交えて話しをしていると、いきなり葉司達の操る臣器達が現われた上、結界が張られ今に至る。
「紫織会長。ウチの会社、御払いした方が良いんでしょうか?」
不安そうに紫織にそう聞く役所に、紫織は何との言えない顔で言い返す。
「逆に考えるんだよ。アレだけの事が有って会社運営には問題無いんだ、運が付いてるんだよ」
「そうでしょうか……」
一方結界の内では、スセリが埜依丸の中に居る虚蝶に質問をしていた。
「虚蝶、貴女は埜依丸を如何やって動かしているの?」
「声と動き」
虚蝶がそう答えると、葉司が呟く。
「じゃ、俺の龍蛇丸と似た様なもんか?」
葉司の呟きが終わると、スセリは続けて虚蝶に尋ねる。
「ねぇ。今貴女の居る、核の在る場所はどんな所」
「えっと……」
スセリの質問に答え様とした虚蝶に、結界で姿を隠し様子を窺っていた刻代が、念話で止める。
(「それに答えてはダメよ、澪」)
(「刻代ちゃん?」)
(「その答えは、私の事がバレる可能性が有るの」)
(「分かった……」)
刻代との念話の後、虚蝶はスセリに言う。
「ヒミツ……」
そう言われスセリは思う。
(流石に、簡単には尻尾を出さないか。核の在る場所の風景が判れば、どんな力で出来ているのか分かるんだけど……)
「ねぇスセリ、あの重機は結界の外に出した方が良いんじゃないの?」
北斗にそう促され、スセリは鎮守の結界を解きながら言葉を返す。
「確かにそうね。危ないし、所有者の前で壊してしまっても悪いわ」
「あの重機は移動出来ないの?」
虚蝶が不思議そうにスセリにそう聞いたので、スセリは虚蝶に尋ねる。
「移動出来ないって、如何言う事かしら?」
「ほら、さっきの人達をワープさせたみたいに?」
「あぁ、転送や転移が出来ないかって事? 私の力が働くのは、魂が有るモノだけよ」
「へぇぇぇえ、そうなんだ」
そう言って虚蝶はスセリの言葉に納得し、そんな虚蝶に太耀が言う。
「ほら虚蝶、僕等で2機ずつ運ぶぞ。狼王丸はこう言うの向いて無さそうだし」
太耀にそう言われ、埜依丸は重機の真上に飛んで行く。
そして……
「ねぇ、これどうやって運ぶの?」
そう聞いて来た虚蝶に、太耀は言い返す。
「それぐらい、自分で考えたらどうだ?」
すると虚蝶は少し考え、太耀に更に聞き返す。
「壊しちゃ悪いし。お兄ちゃんなら、良い考えが有るんじゃないかと思ったんだけど……」
「……分かった。良いか、見てろよ」
太耀は虚蝶にそう言ってから、鳳皇丸に命令を出す。
「鳳皇丸、ここに在るブルドーザを河川敷から出すぞ。窓ガラスを割らない様に気を付けて、ゆっくり持ち上げろ」
すると鳳皇丸は太耀の言う通り、ブルドーザの車体を爪で掴み、ゆっくりと飛翔した。
「よし鳳皇丸、今度は通路にゆっくり降ろせ」
ドッコン
ブルドーザを降ろした鳳皇丸はその後、太耀の命令で埜依丸の目の前に飛んで行く。
「こんな感じでやれば良い。後お兄ちゃんは止めてくれ、何かムズかゆい」
太耀がそう言い終わると、恵理花が埜依丸に近付いて来て、スセリが虚蝶に言う。
「それなら虚蝶。声がキチンと聞き取れる範囲に人が居る場合、子供達の名前は呼ばないでくれる?」
「……神様の名前も?」
虚蝶がスセリにそう聞くと、スセリは恵理花の首を横に振り言い返す。
「この子達の正体がバレなければ、良いわ」
スセリにそう言われ、虚蝶は心の中で太耀達の呼び名を確認する。
(……て事は、太耀君達は臣器の名前。恵理花ちゃんはスセリって呼べば良いって事かな?)
「分かった。それとお手本ありがとう鳳皇丸」
そう虚蝶が太耀に向かってお礼を言うと、下の方から、北斗が虚蝶に向かって大きな声で言う。
「ねぇ、もし呼かったら。狼王丸の力で、通信用の鏡作ってあげようか?」