夜空には、星が月を飾り付ける様に輝いている。
肌寒い4月の深夜。
澪はキーホルダーを持って、通っている小学校の屋上に居た。
部屋で目が覚めた澪は、現われた刻代にキーホルダーを持って来る様に言われた後、キーホルダーを持てこの場所までワープで連れて来られたのだ。
「澪、キーホルダーを天に翳して」
刻代に言われ澪が翳したキーホルダーの罅は、澪が目を覚まし確認した時には既に直っていた。
「月の鏡よ、生命の光り……業の輝きを写し自らを臣たる器えと変えよ」
そう言った刻代の言葉と、月と星の光りでキーホルダーの形は白銅鏡から、針の無い、楕円の和時計の文字盤へと変化する。
「さぁ澪、貴方の臣器の姿と名前を考えなさい」
刻代がそう言うと、言われた澪は刻代の顔を見て言い返す。
「……それは刻代ちゃんが考えて」
「考えてって、アンタねぇ。それぐらい自分で考え……――」
呆れた顔でそう言い返す刻代に、澪は首を横に振り、刻代の言葉を遮る。
「違う。今思い付かないのも有るけど、そう言うんじゃなくて…… 刻代ちゃんが考えて欲しいんだ」
きちんと言いたい事が伝わっているか不安な澪に、刻代は呆れた顔を止め言葉を返す。
「……分かったわ、それじゃ形だけは決めて頂戴」
「鳥が良い……」
今度は即答した澪に、刻代は右手を差し出して言う。
「それじゃ、そのキーホルダー貸して」
「はい」
澪からキーホルダーを手渡された刻代は少し考える。
(鳥か…… さて、名前を頼まれたが……)
刻代は澪を見て思い付く。
「お出で埜依丸」
そう呼ばれた澪の臣器が、暗闇の中から姿を現わす。
「ヒョー」
澪に近付くと、そう鳴いた虎鶫を模したそのロボットは、全身黄褐色で全長1メートル程。
「よろしくね、埜依丸」
埜依丸に澪がそう挨拶すると、刻代が澪に言う。
「色々な練習は明日からね。1時半ぐらいに向かえに……――」
そこまで刻代が言うと、澪は刻代の言葉を遮る。
「土曜はスイミングとソロバンが有るから無理」
「それじゃ日曜ね。9時半頃に迎えに行って良いかしら?」
「鉄……アニメ見たいんだけど?」
「アンタねぇ…… まぁいいわ、それは私の家で見なさい。それじゃあ最後に、貴方のもう1つの姿は如何する?」
刻代のこの言葉に澪がキョトンとしたので、刻代は説明をする。
「言った筈よ、好きな貴方に変えてあげるって。まぁ正体を隠す意味合いも有るから、顔は変えるか隠さないと駄目だけど」
「どんなのでも良いの?」
そう聞き返した澪に、刻代は自身満々に言い返す。
「ええ。それと服装は、考えが無いならこちらで決めさせてもらう。あと、飛行能力も付く。さぁ考えなさい、自分が自信を持てるだけの偽りの自分を」
(僕は……)
刻代の言葉で澪は考え、そしてその考えを刻代に言う。
「もう少し物覚えを良くしたい。それと僕は友達ときちんと話したい、せめて噛んだり詰まったりしないぐらいには」
その原因が自分に有ると、澪は理解をしながら……
「あら、思ったより欲が薄いわね。なら姿は如何するの?」
そう尋ねる刻代に、澪は真面目な顔で言葉を返す。
「考えてる。服装は任せる」
「なら行くわよ。夢を見守る月光よ、澪の姿を望みの姿に変えよ」
刻代の言葉で澪は光りに包まれ、姿が変わって行く。
光りが消えると、澪はその姿を刻代の前に現わした。
そう、現わしたのだが……
「何その姿?」
驚いている刻代に、澪は尋ねる。
「ねぇ、自分で姿見てみたいんだけど?」
すると澪の目の前に、月明りに照らされた全身鏡が出現した。
鏡に映った澪の姿は、例えるなら和風のアンテークドール。
もしくは冠の無い、派出さを抑えた化粧の無いお稚児さん的なもの。
服装は薄い水色の単と括袴の上に、半透明の黒い水干姿で、水干には蝶を模した刺繍。
足元は、足袋に漆塗りのぽっくり下駄。
体そのものはと言うと、身長そのものは変わらないが、髪は長く成り、肩の辺りで結っている垂髪は白銀色で腰まで有り、右目は青く左目は赤い。
更に顔自体も、元々体格に合った少し可愛らしい男の子の顔から、女の子の可愛らしい感じの顔に変わり、澪とは分からない。
「あれ、目の色が違う?」
鏡で自分の顔を確認し、不思議がってそう言った、澪の目の前の鏡が消えると刻代は言う。
「それは私の力の影響よ……って、何所触ってんのよ!」
怪訝そうな顔で刻代がそう怒った理由は、澪が服の上からある物の存在を確認していた為。
「ごめん、でも本当に女の子に変わったのか確認したくて」
性別が変わった事を確認した澪は、そう言うと両手を広げクルっと一回転した後、軽く飛び跳ねてから更に言う。
「確かに僕だ。刻代ちゃん、元に戻るにはどうするの?」
すると刻代は澪にキーホルダーを投げ渡す。
「ぅわっと。暗いんだから止めてよ」
澪はキーホルダーを如何にかキャッチすると、そう文句を言った。
「じゃあ何で、月明りだけで鏡に映った姿が見えたのかしら?」
刻代の言葉に、澪は疑問が沸く。
(確かに、どうして……)
「ふふふ。ほら、キーホルダーの裏が鏡になってる筈だから、それに向かってこれから言う呪文を唱えて。その姿になる時もよ」
そう説明する刻代に、澪は聞き返す。
「呪文?」
「トゥ、エゴゥ、インヴァラスウス、ルクス」
刻代から呪文を聞いた澪は、キーホルダーの裏の鏡を見ながら呪文を言おうとしたが……
「トゥ、エゴゥ、インヴァスス…… トゥ、エゴゥ、インヴァウラ……」
まったく上手く言えない。
(ふふ、きちんと話せるのは日本語だけのようね。にしてもまさか女の子に成るなんて、緋衣を見たからか恵の影響か? 憧れるのが太耀で女の子に姿を変えるなんて、面白い思考してるわねこの子)
そんな事を考えていた刻代に、澪が助けを求める。
「呪文、何だっけ?」
そんな澪に、刻代は微笑んで言い返す。
「落ち着きなさい。私がゆっくり言うから続けて、トゥ、エゴゥ……」
★★★★
「お早う刻代、澪君」
日が登り、時刻は8時20分。
学校に着いた恵は、空き教室に居た刻代と澪を探し出し、朝の挨拶をした。
「お早う恵。どうしたの、貴女の方から話しかけて来る何て珍しい?」
刻代はそう返事を返したが、澪は眠そうにフラフラしている。
「それより 澪君、どうしたの?」
驚いた恵が刻代にそう聞くと、刻代は言う。
「上手く眠れなかったらしいのよ」
「……お早う恵ちゃん」
そう恵に言った澪は、かなりフラフラしていて見ていてとても危ない。
(確かにあんな事が起きたら眠れないわよね、あの子達が平気だったから放っといたけど……)
葉司達の姿を思い浮かべ、澪の様子を確認しながら刻代はそう考えていた。
そして思う。
(……仕方ない、後で溺れられても困るし)
「ほら澪、そんな事じゃスイミングで溺れるわよ。保健室で寝てなさい」
刻代が澪にそう言うと、フラフラしながら澪は言い返す。
「でも、具合いは…… やっぱり何か、気持ち悪い……」
気持ち悪そうな澪に、刻代は心配そうに言う。
「ほら、無理はしない。アンタ元々血圧低そうだし」
「本当に大丈夫、鐘治先生呼んで来ましょうか?」
更に心配そうに恵がそう言うと、刻代は恵にお願いをする。
「いや私が呼んでくるから恵は澪の事見てて、それと二組に連れてってくれる。倒てると危ないし」
言い終わると、刻代は保健室に駆けて行く。
「大丈夫、澪君」
残された恵はそう言い、澪が無言で頷き二人は五年二組に移動した。
澪が余りにフラフラしているので、恵が手を引いて。
恵と澪が五年二組に戻ると、康実と言う少年が二人を見付け囃し立てる。
「朝から仲良いなご両人。ヒュウ、ヒュウ」
「そんなんじゃ……」
小さな声で恵は反論しようとする。
太耀はそれに気が付き助け様とするが、恵は言葉をいったん止め、少し考えてから少し声を張って、再度言い返す。
「澪君の具合いが悪いの、からかわないで!」
その言葉に組の子供達が少し驚き、恵の方に目を向ける。
「大丈夫か、澪」
太耀が康実に軽くチョークスリーパーを掛けながらそう言うと、澪は大欠伸をした後に言う。
「……大丈夫、眠い……だけ……だから」
「何だ、夜更かししただけか…… 体調管理が出来ないなんて、まるで幼稚園児や保育園児みたいだな」
呆れた様にそう言った太耀だが、明らかにフラフラしている澪を確認して続ける。
「このままじゃ授業受けてもダメだろう、保健室にでも行って来たらどうだ?」
「もう刻代が、鐘治先生を呼びに行ってるわ。この状態だと階段から落ちそうだし、渡辺先生にも説明しないと」
恵が言い終わると、太耀は康実へのチョークスリーパーを外してから澪に聞く。
「だいたいお前、何でそんな状況で学校来たんだ」
すると澪は、フラフラしながら太耀の質問に答える。
「……昨日、……約束したから……」
しかしその声は小さく、誰にも届かない。
そこまで言って澪は、その場に座り込んでしまった。
★★★★
【翌日 日曜日午前10時頃 黒沢家 】
葉司、北斗、太耀、恵理花、薫、緋衣は黒沢家に集まっていた。
理由は、緋衣が薫経由で皆に謝りたいと言った事と、黒沢家以外だと他の家族に、話しを聞かれる可能性が有った為。
「……私は貴方達を助けたかったのも有ありますが、自分で不思議な事を確認したかったんです。お祖父様が私を危険から遠避けていると聞かされ、手伝えば自分で確認出来ると…… そして薫君に貴方達の話しを聞いた時、私は考えたのです。今までの事が貴方達の所為なら、間違った私の行動も、本心を隠していれば許されると…… でも、もしバレたらとも考えていました……」
緋衣が俯き加減でそう説明すると、突然オモイカネがその場に現われて言う。
「成る程、その心を天狗丸は使って大竜神を動かしていたのか。騙された子、迷惑を掛けた子には成りたくないと……」
「本当にごめんなさい!」
緋衣はそう言って頭を下げると、葉司が緋衣に言い返す。
「何だ、そんな事気にしてたのかよ緋衣。だいたい、助けたいって気持ちも有ったんなら良いじゃねぇか」
葉司がそう言うと緋衣は頭を上げ、何所からか現われたスセリが話しを続ける。
「それに貴女、薫の立場も考えたんでしょう。貴女の行動は褒められたモノでは無いけれど、頭を下げるモノでもない筈よ」
「ありがとう御座います。それにしても私が臣器達に会えなかったのは、結局何だったのでしょう?」
お礼を言った後に緋衣が不思議そうにそう言ったので、スセリは緋衣に少し本当の事を教える事にした。
「それは多分、円が私の知っている神様に何処かで……、もしかしたら死後の世界で頼んだからかも知れないわね」
スセリがそう言うと、北斗がスセリに尋ねる。
「そんな神様が居るんだ?」
するとスセリはクスクス笑い、葉司と北斗に向かって言う。
「縁の……、運命の赤い糸の神様と言った方が分かり易いかしら。葉司と北斗には必要かしらね?」
そう言われた葉司と北斗は、一度恵理花にこっそり目を向けた後少し照れた。
「まぁ自らが行動しないと行けないし、変わった神様だからそう簡単に力は貸してはくれないけど」
スセリがそう言い終わると、緋衣が申し訳無さそうに葉司達に聞く。
「……すみませんが、臣器達は何処に?」
「アイツ等なら偵察中だけど?」
太耀がそう答えると、緋衣は言う。
「もし宜しければ、私に紹介して頂けませんか?」
そう言った緋衣の言葉に、スセリは微笑んで続ける。
「あら、それなら少し呼び戻しましょうか。中庭に外から見えない様に結界を張ってあげるから」
こうして子供達は中庭に移動する事となり、子供達は玄関経由で中庭に移動した。
薫が見た緋衣は、目を輝かせている。