澪と恵と刻代は、刻代の支配する夢の世界に居た。
刻代から貰ったキーホルダーが消えてしまった為、恵は刻代にその事を話している。
「恵。貴女のキーホルダーが消えてしまったのは、貴女が今の自分に自信を持てたからよ」
そう言った刻代に、恵は聞き返す。
「どう言う事」
「アレは他の自分を望む思いの結晶。貴女は自分で変われたと思ったから、消えて無くなったのよ」
刻代にそう言われ、恵は考える。
(……私は本当に変われたの?)
「……ねぇ刻代ちゃん、僕のはどうしてヒビが入ったの?」
今度は澪が刻代にそう尋ね、刻代は言う。
「貴方は一時的に変わる事を否定した所為よ。その後考え直したから壊れなかったけど……」
そこまで言って、刻代は申し訳無さそうに恵に向かって語り出す。
「悪いけど恵、あのキーホルダーが無い以上貴女の夢の話しはこれで終わりよ。記憶を弄らせてもらうわ」
そう言われた恵は驚いて言う。
「記憶を弄るって……」
怖がる様子の恵に、刻代は笑顔で言い返す。
「怖がらなくても良いわよ。貴女の記憶からこの夢や、この夢に関係した私や澪の記憶を消すだけだから」
つまりそれは恵が、今の二人との関係を忘れてしまうと言う事。
恵も澪も少し寂しい気持ちを感じるが、何も言えない……
……いや、前の恵なら言わなかっただろう。
「ねぇ伏見さん、友達になってくれない……」
恵が無意識にそう言うと、刻代は惚けた振りをして言い返す。
「それは難しいわね。もし本当にその気持ちが有るの成ら、恵から学校で話し掛けて来て。記憶は無くても気持ちは残ってる筈だから」
そう言われ、恵は始めて心から刻代と友達に成りたいと思った。
記憶が無くとも、今までの事を無かった事にしない為に。
「……ありがとう。澪君もガンバって、良かったら仲良くしてね」
恵の言葉に澪からの返事は無い。しかし少しだけ頷いた。
そんな二人を見て刻代は話し出す。
「恵、意味は無いかも知れないけど私の正体を教えてあげる。私は夜の支配者、月の神、刻と満ち引きの主。本当の名前はツクヨミって言うのよ」
それを聞いた恵と澪は驚いた。
しかし二人共驚いてはいるが、それと同時に何となく理解もした。
神様なら、こんな不思議な事も可能なのだろうと。
恵は刻代にお礼を言う。
「まだあまり自信は無いけど…… 自信をくれる夢をありがとう月の神様、また明日学校で会いましょう」
「もし明日、話し掛けてくれたなら仲良くしてあげるわ」
刻代がそう返事をすると、恵は澪の方に顔を向ける。
「澪君、また明日ね」
恵がそう挨拶をすると 、澪は俯いたまま返事を返す。
「……うん」
「さようなら恵、また明日」
刻代が恵にそう言うと、恵の身体は光りに包まれ、その光りは無数の蝶の姿へと変わり恵と共に消えて行く。
恵が居なくなった後、俯いている 澪に刻代は言う。
「恵の記憶を弄られるのが嫌なら、文句を言えば良かったじゃない。せっかく仲良く成れたのにって」
しかし澪からの反応は無い。
「本当に、自信が有るのか無いのか分かんない子ねアンタ」
そう言う刻代に澪は尋ねる。
「……ねぇ、何で僕なの?」
「何の話しよ?」
「夕方の事……」
澪にそう言われ、刻代は澪が何を言いたいのか理解した。
刻代は、 澪が自信より好奇心を優先する子供だと確信している。
だからこそ、夕方に好奇心を煽る様な言い方を澪にしたのだ。
「もし貴方が私に協力してくれるなら、最近起こっている事の真実を教えてあげる。貴方はやってみたい? やってみたく無い?」
そう刻代に問われ、澪は答える。
「やってみたい。でも太耀君達とは戦いたくない……」
「なら別の自分になれば良い。貴方はどんな自分になりたい? 太耀の様に友達の前で自分の意見が言えて、立ち回りたい? それとも葉司の様に丈夫な体と体力が欲しい? 私の力で、協力してくれる間は好きな貴方に変えてあげる。自信は現実の行動だけで付くとは限らない、夢から貰える自信もある筈よ」
澪は刻代にそう説明され、不思議そうに聞き返す。
「別の自分?」
「貴方、本当は戦いたくないとは思って無いでしょ」
刻代にそう言われ、澪は戸惑い言う。
「そんな事……」
「断ったら、私は貴方とは別の子を探す。そうしたら貴方は今までの事を忘れ、前の貴方に逆戻り」
そう言って、刻代は澪に責を向けた。
「……嫌だ、そんなのは嫌!」
力強くそう返した澪は思う。
(忘れたくなんかない、僕は……)
一方、刻代は微笑んでいる。
自分の思った通り、事が運んでいる事に。
刻代は微笑んだまま澪の方に振り返ると、優しそうに言う。
「これは貴方の夢。出来る出来無いなんて関係無い、自分の為だけに答えを出しなさい」
澪はそう言われ、暫く俯いて沈黙した後顔を上げると、刻代に言う。
「……やる。僕に協力させて」
「何の話しかしら?」
からかう様に刻代がそう返したので、澪は今度は少し力強く言い返す。
「僕に太耀君達と同じモノをちょうだい!」
「まぁ、30点ぐらいか? コレは御礼よ」
そう言った刻代は、澪の前髪を上げて額にキスをした。
(!)
突然の事に驚き、硬直している澪に刻代は言う。
「少し目を覚ましてもらうわよ」