「嫌、放して!」
そう言って暴れる緋衣に、天狗丸は言う。
「そこに居る小僧への嫉妬心を利用しようと考えたが、以外に使えんな」
「適当な事を言わないで下さい!」
そう天狗丸に怒る緋衣に、風丸が話しを続ける。
「他人の事を羨ましがって何が悪い、その気持ちをまったく持たぬ人間など人では無い。お前は自らの意思と俺の協力で、要らぬ運命の意図を引き千切ったのだ。協力してやった対価として、少し付き合ってもらうぞ!」
「どう言う事ですか?」
風丸の言葉を、緋衣は不思議に思い聞き返す。
しかしそれを無視して、風丸は緋衣の目の前に黒水鏡を出現させた。
「黒水鏡よ緋衣の姿を写し出せ。そして緋衣よ、写りし姿こそ自らの心と知れ!」
風丸がそう言うと、緋衣の姿が黒水鏡に写る。
そして黒水鏡に写った緋衣は、緋衣にだけ聞こえる様に語り出す。
「……私は薫が羨ましい。私は危なくても危険でも構わない、自分の目で確かめたい。助けたい気持ちは嘘じゃないけど、それ以上に不思議な事を見てみたい。その為なら……」
「違います、私は……――」
ガコン ガコン ガコン
「おい天狗丸、緋衣を放せ!」
黒水鏡に写った自分の言葉を否定しようとした緋衣の言葉を、緋衣の元にやって来た葉司の言葉が遮った。
同じくやって来た北斗や太耀共々、葉司達の視線は風丸達に向いている。
「動かない敵を放置して此方に来たか……甘いな。来い大竜神!」
鬼丸がそう言うと、大竜神は動き出し、天狗丸達の背後に飛んで移動する。
そして黒水鏡は葉司達の方へ裏返り、黒水鏡に写った緋衣は葉司達に喋り出す。
「貴方達がこの事件の原因なら、私の本心が知られなければ私の行動も許される……」
「その言霊、貰い受けるぞ! オン、ヒラヒラケン、ヒラケンノウソワカ」
ジャラン
天狗丸がそう言って緋衣を放し、呪文を唱えて錫杖を振ると、錫杖の音と共に天狗丸の手の開に目に見える風が集まる。
「我が神通力で捕らえし女童の事の葉よ。現世の者を核に、鎖、楔と成りて我が形代と成らん。オン、ヒラヒラケン、ヒラケンノウソワカ……」
更に天狗丸が続けてそう言うと、天狗丸の手の開に有った目に見える風と共に。緋衣は光りに包まれ消えた。
「おい、緋衣をどこにやりやがった!」
葉司が慌てて天狗丸にそう言うと、大竜神に近付いた鳳皇丸から、通信機能で太耀が葉司に説明をする。
「落ち着け葉司、あの呪文は前に聞いた事が有る……」
(火流羅ガイストが出て来ないという事は……)
そう考えた太耀は、大竜神に視線を移し言う。
「多分、緋衣さんは大竜神の中だ!」
太耀がそう言うと、天狗丸が続ける。
「ご名答。自らの罪を他人の罪で計り、自らを許した所で、真実を知った側が如何思うかは判らぬ。その恐怖、偽った心は歪みモノの怪へと変わり行く。さぁ、お前達はコレを如何対処する?」
錫杖で葉司達を指しながら天狗丸はそう言い、黒水鏡共々風丸、鬼丸、天狗丸は姿を消す。
「ココは……」
大竜神から緋衣の声がする。
「緋衣さん、大丈夫ですか?」
薫が大竜神に向かってそう言うと、緋衣は言い返す。
「……はい。何か暗い空間に居て、目の前の穴みたいな所から薫君達が見えています」
「待ってろ、今僕が捕まっている場所をっうわ!」
太耀が喋っている最中、大竜神は行き成り動き出し鳳皇丸に斬り掛かって来た。
その攻撃を躱す太耀だが、大竜神はその後も執拗に鳳皇丸を狙い攻撃を繰り返す。
攻撃自体は遅いものの、移動速度が上がっており、太耀は鳳皇丸で大竜神を振り切る事が出来ず、躱すのが精一杯。
ガコン ガコン
カキン カコン
葉司と北斗は隙を見て、大竜神に龍蛇丸と狼王丸で体当たり攻撃を行ってみる。
が、効果が有る様には見えない。
「このままじゃ…… そうだ、止まって大竜神」
そう口に出し、緋衣は大竜神を止めようとするが、大竜神は一瞬止まるだけでまた攻撃を繰り返す。
「……無駄よ」
その直後、緋衣の後ろから声がした。
振り返った緋衣が目にしたのは、もう一人の自分。
もう一人の緋衣は言う。
「私は貴女、貴方の心」
一方で、大竜神の攻撃を躱し続けている太耀は焦っていた。
「二人共、早く大竜神の動きを止めてくれ。このままだと日が沈んで、鳳皇丸がきちんと力を使えるか分からなくなる!」
葉司と北斗にそう教える太耀だが、葉司は困った口調で言い返す。
「そんな事言ってもよぉ」
葉司の言う通り、葉司や北斗は緋衣の居場所が分からず、大竜神に下手に攻撃が出来ない。
なので体当たりで大竜神に効果が無い以上、二人にはどうしようもない。
「大竜神を動かしているのは私、貴女が大竜神を動かすには、私を受け入れるしかない」
大竜神の内、もう一人の緋衣が緋衣にそう言うと、緋衣はもう一人の自分に聞く。
「なら、どうすれば良いんです……」
「教えなさい。あの子達に私の内、……私がここに居る為に貴方達を利用したと」
「そんな事はありません。私はあの子達を助けたいと……」
すると外から薫の声がする。
「緋衣さん。貴女の声しかしませんが、他に誰か居るんですか?」
緋衣は自分以外に、もう一人の自分の声が聞こえない事を理解し、少し考えてから薫に言い返す。
「いいえ、多分私は一人です」
「あの子は、貴方に本当の事を話してくれたのに……」
もう一人の自分にそう言われ、緋衣は怒る。
「うるさい!」
「嫌われたくないなら、都合の悪い部分は隠せば良いの?」
呆れた様にもう一人の自分にそう諭され、緋衣は強い口調で言い返す。
「悪い? 人はそう言うモノ、それにあの子達を助けたかった気持ちは嘘じゃない!」
「ねぇ、緋衣さん。どうしたの?」
今度は外から、恵理花の声が耳に入る。
「何でもありません、貴女には関係無い事なので放っておいて!」
少し怒った口調の緋衣の返事に、恵理花は少しムッとし言い返す。
「何よ、人が心配してるのに。もしかして、何か隠してるんじゃ無いでしょうね!」
恵理花のこの言葉に、緋衣は反射敵に恵理花の方を向き文句を言う。
「関係無いから、関係無いって言ってるでしょう!」
元々緋衣は、自分との会話で口調が少し荒ぶっていた。
そして緋衣の現状が分からない恵理花は、少し前に口ゲンカをしていた事も有り、緋衣の言葉を不快に感じたのだ。
更に緋衣も、対峙したもう一人の自分に煽られイラついていた為、売り言葉に買い言葉に成ってしまったので有る。
しかし緋衣の意識が、一時的とは言え完全に恵理花の方に向いた為、大竜神は攻撃を止め恵理花の方を向いた。
その隙を突いて、太耀が鳳皇丸に命令をする。
「今だ鳳皇丸、大竜神に真実を照らす光りを。真実を照らす光りよ、大竜神の真実の姿を暴き出せ!」
鳳皇丸の真実を照らす光りが、太陽から大竜神を照らす。
すると大竜神の胴体の部分に、緋衣の人影か現われた。
「二人共、胴体だ! 恵理花が危なく無い様他の部分を破壊するぞ」
太耀がそう言うと、北斗が狼王丸で思い切り、大竜神の足に艮比良の刀で斬り掛かる。
ガギン
……が、刃が通らない。
ミシミシ
ガゴン ガゴン
その結果、北斗は攻撃を中断。
狼王丸は後ろに数歩飛び退き、北斗は言う。
「でもどうやって? 多分ボク等の力じゃ大竜神の破壊は出来ないよ!」
北斗の言葉の後、大竜神は再度動き出し臣器達に攻撃を始めた。
大竜神は、今度は三器をランダムに選んで攻撃を仕掛けて来る為、葉司達は一器が攻撃された時に、他の二器が隙を突いて攻撃をするパターンを繰り返すが……
攻撃は通らない。
「動鱗剣!」
「ソーラーカッター!」
ドガッシャン
しかし動鱗剣は弾かれ、鳳皇丸は弾き飛ばされた。
「うわっぁぁ!」
「チクショウ、どうすれば良いんだ……」
太耀が反動の揺れで叫び、葉司がそう言って悔やしがると、何所からかオモイカネの声が聞こえて来る。
「それなら君達も、合体すれば良い」
更にオモイカネは言う。
「話しは聞いていた、如何やら封印は解けた様だな」
そう言って薫の目に前に現われたオモイカネは、葉司達に向かって続ける……
とても力強く。
「緋衣が言っていただろう。そう言うイメージが有るなら合体すれば力は増す。我々はそう言う存在だ!」
ツクヨミの封印を破り、オモイカネが手帳から出て来た事に驚いていたスセリだが、オモイカネのその言葉を聞き、更に驚いて……と言うか呆れて反射的に言い返す。
「オモイカネ、何を世迷い事を。臣器にそんな力は……」
「臣器は業と森羅の結晶、やってやれない事はない筈だ。それに世とは刻に由り変わるモノ、他に手が無いなら試してみるしかあるまい!」
オモイカネにそう言い返され、スセリは頭を抱える。
(また勝手な事を……)
そしてククリとツクヨミに念話を送るが反応は無い。
スセリがそんな事をしている時、葉司と太耀がオモイカネに文句を言い返す。
「合体ったって、どうすりゃ良いんだよ?」
「大体、この状況で合体なんて出来るのか?」
「それは自分達で考えてくれ!」
そう言い返したオモイカネに、北斗は文句を言う。
「そんな、学校の先生みたいな事言われても……」
「北斗君の言葉には賛同しますが、皆さんお願いですから真面目にやって下さい」
今までの会話を聞いて緋衣がそう文句を言うと、オモイカネが緋衣に問い掛ける。
「それなら君も協力してくれ、何を隠している?」
「私は……」
そう呟いた緋衣に、もう一人の自分が言う。
「ほら。貴女が嫌われたくないと言う思いが、皆に迷惑を掛けている」
もう一人の自分にそう言われ、緋衣はもう一度自分と向かい合う。
「分かっています、でも……」
しかし大声でそう言った後、俯いて黙り込んでしまった。
その声を聞いたスセリは考える。
(……仕方ない。このままでは日が沈んで御両親に余り心配を掛けてもいけない。もう少し私も臨機応変に動いてみましょうか……)
「緋衣、貴女は何でこんな事をしようと思ったの?」
スセリがそう言うが、緋衣からの返事は無い。
(反応は無いか、それなら……)
そんな事を考えながら、スセリは葉司達五人に念話を送る。
(「悪いけど皆、私に話しを合わせてくれるかしら」)