それは龍蛇丸の騒ぎの有った月曜日の放課後の事。
薫は了に会い、これからは龍蛇丸が昼休みに自分達の小学校に来る事を教え、それを緋衣にも伝える様お願いする。
多分何か理由がないと、緋衣が自分の話しに応じてくれないと感じた薫は、緋衣と話す機会を作る為に龍蛇丸の騒ぎを利用した。
了も薫の考えている事を何となく理解していたので、その龍蛇丸の事が緋衣に伝えられる。
「へぇ、そうなんですか。兄妹と言っても妹の部屋に勝手に入らない、ほら帰った帰った!」
自分の部屋にやって来て、龍蛇丸の事を話した了を緋衣はそう言って追い返す。
了を追い返した後、緋衣は窓の外を確認する。
当たり前だが、其所に龍蛇丸の姿は無い。
前日の日曜日。緋衣が帰った後で、薫が臣器達に頼んで緋衣の前に現われようとした。
しかしククリの力の所為で、緋衣はまったく臣器に気付かない。
ククリの力は対像者が、自らの行動でどうにかするしかない。
(お昼に向こうの学校に着くにはまず、自転車を学校に隠しておいて、昼休みに学校を抜け出して、途中のスーパーまで自転車で行って駐車場に止め、坂道は走っていけば、掃除の時間中には私の体力でも……)
緋衣はバレたら怒られるリスクを承知で、そんな計画を立てる。
しかし火曜日も水曜日も、その計画を実行する事は無かった。
道中に両親の知り合いに出くわす可能性と、それの所為で両親に迷惑が掛かる事を天秤に掛けて行動に移せなかったのだ。
かと言って、放課後に玄見小学校に行っても意味が無いし、日曜日の事が有って薫にも恥ずかしくて聞き辛い。
他に良い安も受かばず、傍から見ても少し様子のおかしい緋衣を見ていたククリは決意する。
★★★★
【水曜 玄見小学校 放課後】
(「……と、言う訳なんだけどお願い出来る?」)
龍蛇丸の騒ぎの有った週の水曜日。
その日の放課後、ククリは念話で嗣次とツクヨミに念話で相談をしていた。
(「珍しく叔母様から連絡が来たと思えば、面白い事を考えましたね」)
ツクヨミがククリにそう念話で返すと、嗣次も念話で続ける。
(「小太郎から話しは聞いていたが、こんな作戦を考えるとは…… 私は構いませんが、本当に良ろしいのですか?」)
(「これに付いては私が責任を取ります、結果は彼女次第ですが……」)
ククリが念話でそう言ったので、嗣次が念話で返事を返す。
(「分かりました。では、私の方からスセリ様達に連絡しましょう」)
(「お願いします」)
ククリのその念話を最後に、三神は念話を切る。
(……丁度良い。こっちは自分でやらないと無理そうだし、劇の方は鏡を使わ無いで、あの子に劇の代役を頼んでみるか。さて、両方如何転ぶか?)
ツクヨミ――刻代はそう思いながら、恵に会いに行く事にした。
★★★★
【木曜 場所不明】
「起きてくれ、少女よ……」
大人の男性の声で目を覚ました緋衣は、目の前に光り輝く犬がいる事に気付く。
「うわっ!」
緋衣は声を上げて驚き、辺りを見回す。
(どこです、ここは……)
そう考え、確か自分の部屋に居たはずと思い出した緋衣だが、今居る所は明らかに世界が違った。
「驚かせてすまない、人間の少女よ。私の名前は守護者フォルテス星人、星神アラハバキが復活したので地球にやって来た」
光り輝くフォルテス星人がそう言うと、緋衣は動揺しながら言う。
「こっ、これは夢でしょうか? マンガやアニメみたいな事が起こるなんて……」
そんな緋衣にフォルテス星人は言葉を続ける。
「落ち着きなさい少女よ。天狗や鬼や大蛇が現われている時点で、そんな事を言っている方がおかしい」
「そんな事言っても、私は見た事ありません!」
緋衣がそう言い返すと、フォルテス星人は頷き言葉を返す。
「すまない。私と君の祖父、円との契約を忘れていた」
その言葉を聞いた緋衣は、不思議に思いフォルテス星人に聞く。
「どう言う事です?」
「アラハバキが復活した時、君が危険に首を突っ込まない様に力が働いているのだ。円が私に頼んでいた事をすっかり忘れていた」
「忘れてって…… お祖父様とお知り合いなのですか?」
「だからこそ君の元にやって来たのだ、これを見て欲しい」
そう言ってフォルテス星人の背後に映し出されたのは、葉司、北斗、太耀の姿。
太耀との面織は無いが、葉司、北斗は薫の友達として会っていたので緋衣は無言で驚く。
「この子達はアラハバキに騙され、利用されているのだ」
フォルテス星人の言葉に、更に驚いた緋衣は聞き返す。
「説明してもらえますか?」
するとフォルテス星人は、神妙な顔をして説明を始める。
「分かった。再度言うが、この子達はアラハバキに利用されている。子供達がロボットモドキに乗ってアラハバキの部下達と戦っているのだが、このまま戦い続けると、最終的には現実が怪異……妖怪や神々の世界に浸食されてしまうのだ。完全にそうなったら経済社会が破綻してしまう」
緋衣はその言葉を聞いて思う。
(あの子達が…… だったら尚更)
そして、少し力強く言う。
「だったら、アラハバキを早くどうにかしないと!」
しかしフォルテス星人は困った顔で、緋衣に言葉を返す。
「分かっている、準備がもう直ぐ整うのでアラハバキに戦いを挑む予定だ。しかし問題が1つ有る……」
「何です?」
そう言った緋衣に、フォルテス星人は教える。
「子供達を人質に取られる可能性が有る。だから私は君に会いに来たのだ、君に子供達の説得を頼みたい」
その言葉を聞き、緋衣は不思議に思う。
(どうして私が? いや、考えるより聞いた方が早い)
そう思った緋衣は、フォルテス星人に聞く。
「どうして私なのですか?」
「アラハバキの居場所は特定出来ているのだが、子供達に対処すると、アラハバキに私の存在がバレて逃げられる可能性がある。それに彼等の近くには円の孫が居る。友達の様だし、君が円の孫を説得すれば彼の協力を得られるかも知れん」
そう言ったフォルテス星人に緋衣は言う。
「それだったら薫に……」
「彼は利用されている子供達に近過ぎて、もし何かの弾みでアラハバキに伝わってしまっても困る。奴は円と私の関係を知らん」
「……分かりました」
説明を聞き、納得し頷いた緋衣だが、不意にある事に気付きフォルテス星人に尋ねる。
「貴方は、私が危険に首を突っ込まない様力を使っていると言いましたが、薫や私の兄妹はどうなっているんです?」
「皆、一応私の力が働いている。円の孫……薫は間接的な為、私の力が機能していない様だが」
「それじゃあ何で、私を選んだんです。妹はともかく、兄の了でも良かったはずです!」
「それは君が、そう望んだからだ」
フォルテス星人の言葉に、緋衣は自分の気持ちを再確認し俯く。
(そう、私は……)
緋衣が俯き、その様子を確認したフォルテス星人は、暫くの沈黙の後緋衣に言う。
「準備が整うのは金曜日の朝だ、それまでに協力するかどうか決めてくれ」
「私が断ったらどうするんです?」
そう聞いた緋衣に、フォルテス星人は答える。
「子供達の安全が前提だ、私が子供達を説得する。アラハバキには逃げられてしまうが…… だが安心して欲しい、君達は私の力でいつもの安全な生活に戻るだけだ」
「いつもの……」
そう呟いた緋衣は今、自分が考えているのか迷っているのか分からなくなった。
(出来る気がしません。でもこれを断ったら、今と何も変わらない…… 私は怖い、ですが自分でこの事件を確認したい。私は……)
暫く自問自答を繰り返した緋衣は、勇気を出してフォルテス星人に言う。
「分かりました、協力します」
「ありがとう少女よ。それでは早速で悪いが、ロボットモドキに対抗するモノを考えてはくれないか? もしもの為に君を守るモノが必要だ」
そう言われて緋衣は困った。
そしてその理由を、口に出してフォルテス星人に伝える。
「と言われても私はそのロボットモドキを知りませんし、困りましたね……」
しかし緋衣は話している最中、妙案を思い突き言い直す
「……いや良い考えが有ります。でも、まず元の場所に戻らないと!」
フォルテス星人はその言葉を聞いて言う。
「なら皆が寝静まった時にまた来よう。目を覚ますが良い……」
そう言ってフォルテス星人が姿を消すと、緋衣は光りに包まれ、気が付くと自分の部屋の机で寝むっていた。
(夢? ……いいえ、深夜になれば分かる事)
「とにかく、やってみましょうか」
そう言って意気込み、緋衣は掛け時計に目を向ける。
(6時ぐらい、夕食は大体半頃なので問題は無いでしょう。……了にはバカにされそうですが)
そう思った緋衣は、足早にリビングに向かいテレビを点ける。
そしてチャンネルを選び番組を変えると、カメラを持ったお下げ髪の女の子が、緑髪の男性に発進基地を教えているアニメがやっていた。
その一連の様子を、その場に居合わせて見ていた了がからかう。
「何だよ緋衣。慌ててテレビを点けたかと思ったら、そんなガキっぽいモノ見んのかよ?」
すると、そう言われた緋衣が小バカにした様に了に言い返す。
「良いじゃないですか、ご飯まで時間は有りますし。子供向けをガキとバカにするのは、子供の証拠ですよ」
緋衣の言葉を聞いた了は、一瞬ムッとしたが、少し呆れた顔をしてソファーに座り一緒にテレビを見始めた。
テレビを見ながら、緋衣は夕食の後の行動を考える。
(後は小さい子用に待合室に置いて有る、てれびくんやテレビマガジン辺りでしょうか……)
★★★★
【約5時間前 玄見小学校】
恵から話しを聞いた澪は、恵と別れて直ぐ空き教室で劇の小道具を作っている、太耀達の元へと向かい様子を窺っていた。
正確には太耀か刻代に話しかけたいのだが、話しかけられず固まっている。
空き教室に居るのは太耀、刻代、北斗、恵理花、嘉助の五人。
「おい、何か様か?」
校長室から戻って来た葉司に、背後から声をかけられ澪は無言で驚く。
(!)
「うっうん。た……刻代ちゃんに用事が」
澪が少しオドオドしてそう葉司に言い返すと、葉司と 澪の声で二人に気が付いた太耀達が、二人に目を向けた。
そして太耀は澪をわざと無視し、葉司に話しかける。
「葉司。薫と小太郎は?」
澪も太耀の言葉の真意を理解したかの様に、太耀の言葉を意に関せず刻代に近付いて行く。
「薫は後でダンボール持って来る。小太郎は校長先生と話しが有るってさ」
葉司の太耀への説明が終わるのを確認して、刻代は 澪に言う。
「今、凄く忙しいんだけど。用事は何、澪?」
「……さっき恵ちゃんから聞いたんだけど、劇の代役の事どうにかならない?」
澪のこの言葉に嘉助以外の子供達は驚き、視線を澪と刻代に向ける。
元々刻代は、恵に代役頼んだ事を葉司達に話していなかった為、葉司達には話しの内容が分からず、気になった事も有るが、嘉助以外の五人は学年内で身長の所為で目立ち、内気で有名な澪と恵が二人で会話をした事、澪が恵の為に行動しているで有ろう事を不思議に思い。
刻代にも澪と恵の行動は予想外だったらしく、刻代は少し考える。
(……恵から聞いたと言う事は、私が教えた後に恵がこの子に話したのか? 澪が如何にかしてくれるとは思えないが、仲間意識でも目生えたか…… それとも自分で聞いたのか、この子もこの子で話し下手で内向きの癖に、変に行動力が有る…… 面白い)
皆に見えない様に微笑んだ刻代は、申し訳なさそうな顔を作り太耀達に言う。
「ごめん皆。私から頼んで悪いんだけど、私明日学校来れなくなっちゃったの。だから代わりを春日さんに頼んだんだけど」
「そう言う事か。でも伏見さん、そう言うのは早めに言ってくれないと」
太耀がそう刻代に言い返すと、刻代は話しを続ける。
「ごめんなさい、でも私も春日さんを思っての事なの。前にもっと自信を持ちたいって言ってたから、春日さんから皆に言ってもらった方が良いかなと思って黙ってたし、頼んだんだけど……」
すると葉司が、呆れた様子で言う。
「だからって、自分が休む事も黙ってる事はないだろう!」
「今日の朝、急に決まったからどうしようか悩んだんだけど、ほら人間追い詰められた方が力が出るって言うじゃない? 私はそれで今ここに居るんだし。渡辺先生には説明しては有るけど」
半分ふざけた感じでそう言った刻代に、恵理花は諭す。
「刻代。皆貴女みたいな子だと思わない方が良いと思うわ」
更に北斗も続けて言う。
「そうだよ。……でもどうしようか、話しを聞いてミオッチが来たって事はムリそうなんだよね?」
「別のヤツ探すか?」
葉司がそう言うと、嘉助が答える。
「オレがやっても良いけど?」
「待って! 春日さんは受けてくれたんだし、私は春日さんに任せたい」
しかし刻代がそう言って嘉助を止め、太耀が言う。
「彼女自身が言いに来た訳じゃないし、僕も彼女に任せた方が良いと思う。いざとなったら僕がフォローする」
「でも……」
恵に任せようとする太耀の言葉に、澪が力なく反対すると、それに対して太耀は澪を馬鹿にした様に言い返す。
「だったら、自分が代わりをやったらどうだ澪?」
言われた澪はムッとして太耀を睨むが、反論はしない。
(それが出来たら、最初から……)
そう心の中で言った澪を尻目に、葉司が太耀に向かって言う。
「春日よりしゃべらないミオッチが、出来る訳ないだろう!」
すると恵理花も続ける。
「だいたい天狗丸の衣装、澪君には大き過ぎて使えないわよ。作り直してる時間は無いし」
「分かってる。僕の言いたいのは、格好付けたいなら、自分が代わりにやるぐらいの事は言えって言ってるんだよ」
太耀に図星を付かれ、澪は反射的に怒って言い返す。
「何だよ、自分がそうだからって他の人も出来ると思うなバカ!」
「馬鹿にバカと言われても、何とも思わないぞ」
そう言い返した太耀の言葉を発端に、太耀と澪が口ゲンカを始めた。
★★★★
【木曜 深夜 夢の世界】
「これがロボットモドキに対抗する手段です!」
そう言って緋衣がフォルテス星人に見せたのは、眠る前に手に持っている事で、夢の世界に持ち込んだてれびくんとテレビマガジンの、特撮ヒーローのロボットの載ったページ。
「コレは一体?」
そう言って本当に不思議がるフォルテス星人に、緋衣は言う。
「近代兵器に付いて私は詳しくありませんし、使える気もしません。なので子供向けの特撮ロボットをお願いします。考えろとおっしゃったのだから出来ますよね」
緋衣にそう言われたフォルテス星人は、少し困った口調で答える。
「特……無論だ。……君の考えた通りのモノを用意しよう」
「ありがとう御座います。申し訳ありませんが、一つ御願いを聞いて頂けますか?」
そう少し申し訳なさそうに尋ねた緋衣に、フォルテス星人は内心少し困って言う。
「何だ少女よ?」
「念の為、薫君やその友達以外には姿を見せたくないのですが?」
恥ずかしそうにそう答えた緋衣を見て、フォルテス星人は安心し頷くと言う。
「了解した。それは此方で何とかしよう、それより戦いの日が決まった。悪いが明日の夕方5時に君の通う小学校に来て来れ、君を護るモノをそこで渡す」