一、二年生ぐらいの身長の男の子――天池 澪と、身長の高いお下げ髪の女の子――春日 恵は不思議な空間に居た。
二人は互いに自分の家で寝ているはずだったが、二人が今居るのは、通っている玄見小学校五年二組の教室。
いや正確には五年二組の教室でも無い。
何故なら二人は、今自分の部屋で眠っている筈なのだから。
「呼び出してごめんなさい、二人共」
教室に赤髪の美少女――伏見 刻代の声がしたと思ったら、教壇の上に刻代が足を組んで座って居た。
「ねぇ、私はだぁぁぁぁれだ!」
からかう様に刻代がそう言うと、刻代の姿は変わって行く……
その姿は澪には人気者の太耀に、恵には自信に満ちた自分自身に見えた。
刻代は言う。
「私は貴方達のなってみたい自分、そして絶対無理だと思ってる自分の姿」
姿の変わった刻代を見て澪と恵は一歩退くが、刻代は教壇から取び降り二人に一歩近付き、話しを続ける。
「怖がらないで、私は貴方達の味方よ……と言っても無駄でしょうね」
そう言い終わって、刻代は指を鳴らす。
パッチン
すると澪と恵の目の前にそれぞれ、白銅鏡のキーホルダーが現われた。
「そのキーホルダーは胡蝶の夢そのもの、私に協力してくれるなら夢を現実にしてあげる。もし怖いのなら、キーホルダーを取らずに教室から出て行けば良い」
刻代のその言葉に暫く沈黙し、考えた澪と恵はキーホルダーを手に取り夢から目覚めた。
二人は、自分の部屋で目を覚まし、不思議な夢は終わったものだと思った……
しかし手にした白銅鏡のキーホルダーに気付くと、二人はあの夢は終わっていないと理解する。
★★★★
【月曜 玄見小学校 三年一組 昼休み】
「やいババア、悔やしかったら何か言って見ろよ!」
小太郎は同じ組の男の子が、同じ組の女の子を煽っている場面に遭遇する。
女の子の方は泣きそうだ。
ごつん
物凄く加減をし、煽っている男の子の頭をゲンコツで小突いた小太郎は、その男の子に言う。
「女の子泣かしてんじゃねぇよ、バカ」
「いってぇな、何するんだよ!」
そう言い返す男の子を無視して、小太郎は泣きそうな女の子に近付くと話し掛ける。
「お前も、反論ぐらいしろよ」
しかし反論して来たのは、無視された男の子の方。
「何だよ、名前が年寄りくさいって言っただけだろう。格好付けんなよ!」
すると小太郎は男の子の方を向き、やれやれのポーズを取りながら言う。
「気になるんなら、他の言い方が有るだろう?」
そう言われ男の子は、顔を赤くしながら捨て台詞を吐いて逃げて行く。
「違ぁう!」
「……ありがとう小太郎君」
女の子がそう言って来たので、小太郎は女の子の名札を確認する。
(森野 富女か……)
「富女ちゃん。そう思うんなら自分でどうにかしないとダメだろ」
そう言った小太郎に、富女は俯きながら言う。
「ごめんなさい……」
「……ほら、向こうで皆と話そう」
小太郎はそう言いながら、富女に片手を差し出した。
富女はその手を取り、歩き出す。
会話をしている女の子のグループに向かいながら、小小太郎は考える。
(……ついでに、情報収集でもしてみるか)
★★★★
【同時刻 五、六年生の配膳室】
「さて、君達は何をやっているのか説明してもらえるかな?」
葉司と太耀は、龍蛇丸の昼食を用意している場面を、校長の嗣次に見付かってしまい、どうやってこの場を誤魔化すか悩んで居た。
しかしそんな考えが思い付く筈もなく、1分、2分……そして5分程経った頃、嗣次はスセリに念話を送る。
(「スセリ様、そろそろ……」)
そう念話を送った嗣次は、葉司と太耀に言う。
「騙っていても分からん。いくら紫織さんや小太郎の友達と言っても、理由を言わなければ御両親に連絡しなければいけない」
それを聞いた太耀は物凄く焦るが、良い言葉が浮かんで来ない。
すると配膳室の外の方から、子供達の声が聞こえて来る。
「何だ何だ!」
「うわっ、白い龍だ!」
「コイツ、この前蛇と戦った奴じゃ!」
そして暫くすると、配膳室に龍蛇丸が入って来た。
驚く葉司と太耀の頭に、スセリからの念話が聞こえる。
(「二人共落ち着いて、私に良い考えが有るの」)
念話でスセリが葉司、太耀、そして嗣次にそう言うと、驚いた振りをしている嗣次の前に姿を現わして言う。
「私の名前はスセリ。常世の主、オオクニヌシの本妻です」
すると嗣次は、驚いた振りを続けながら言い返す。
「オオクニヌシと言えば確か、本因幡の兎で有名な昔の神。その様な神様の奥方が、何故うちの学校に?」
「私だけではありません……」
そう言ったスセリは、オモイカネに念話を送る。
(「聞いてオモイカネ。良い考えが有るの、此方に出て来てくれない?」)
(「如何言う状態だ?」)
不思議に思い、オモイカネは念話でそう聞き返し、スセリは念話で今居る場所を言う。
(「五、六年生の配膳室よ」)
(「と言う事はこの騒ぎ、よもや貴女の仕業か?」)
(「緊急自体なの、早く!」)
念話で強くそう言ったスセリの迫力に押され、薫と共に高学年様の図書室に居たオモイカネが嗣次の前に現われる。
嗣次はオモイカネを見て、再度驚いた振りをした。
騒ぎを聞いて五、六年生の子供達が配膳室の周りに、次第に集まって来ている事を確認したスセリは、葉司、太耀、オモイカネに念話で言う。
(「お願い。オモイカネも葉司も太耀も、私に話しを合わせて」)
そう三名に念話で頼んだ後、スセリは嗣次にオモイカネと龍蛇丸の紹介をする振りを始める。
「此方は天津神のオモイカネ様。太陽神アマテラス様の補佐たる神様です。子供達は前に見た事がある子がいると思うけど…… この龍蛇を模した子は姿の通り龍蛇丸と言います。この子は定期的に外から食べ物を摂取しないと力が出せない為、私がこの子供達にこっそり頼んだのです。この子達を怒らないで上げて下さい」
スセリの話しが終わると、嗣次は少し困った振りをしてスセリに言い返す。
「……話しは分かりましたが、一体如何なっているのです。神話に名の出る御高名な御二方が何故?」
「小学校に居るのは龍蛇丸の件で偶然ですが、最近騒ぎを起こしている族の所為で、此方の方も少し大変な事に成っているのです。そこで相談なのですが、皆さんに私達の協力を御願い出来ませんか?」
その言葉を聞いたオモイカネは、驚いてスセリに念話で尋ねる。
(「何を考えているスセリ?」)
(「考えが変わったの、それにこのままじゃ子供達の身動きが取れなくなる可能性も有る。大丈夫よ、私に任せて頂戴」)
スセリはそうオモイカネに念話を返した後、嗣次に言う。
「無理は十分承知しています。ですが龍蛇丸が一時的とは言え此処に居れば、その分子供達は安心出来るかも知れませんよ」
そう言われた嗣次は、少し考えた振りをしスセリの言葉に難色を示す振りをする。
「すみませんが、流石に私の一存では。内容も内容です、少し校長室で私と御話しを……」
「分かりました。オモイカネ様は念の為、龍蛇丸と共に少し此処に居て下さい。それとこの……確か給食とか言う物の余り、龍蛇丸に貰って良いかしら?」
スセリ達がそんな話しをして居る、配膳室の目の前の部屋。
五年一組の教室では、騒ぎを聞いて澪が刻代の元を訪ねていた。
「……ねぇ、何か知ってる?」
刻代の袖を引っ張ってそう聞いた澪に、刻代は少し怒った様に言う。
「服引っ張んないで、名前で呼びなさいよ!」
「……自分より大きい子に、そう言うの苦手」
俯いて小声でそう言い返った澪に、刻代はまた少し怒る。
「もっとハッキリしゃべれないの?」
すると澪は少し間を置いて話し出す。
「ごめん、しゃべるの苦手で…… それに何て呼んで良いのか分かんない。呼び捨てる自信は無いし、自分より大きい子にちゃん付けで呼んでいい気もしないし……」
聞き易いとは言えない声だが、 澪がそう言ったので刻代は呆れた顔をして澪に言う。
「それじゃ名前で呼びなさい。良いわね、良ばないと怒るわよ!」
「からかってないよね?」
澪が不安そうにそう返したので、刻代は聞き返す。
「何でそんな事しなきゃいけないのよ」
「ごめん。……刻代……ちゃん」
そう言った澪を見ながら、刻代は考える。
(この子は自信が有るのか無いのか分からん……いや、自分が普通と違うと理解していて、普通の男の子としての自信が無いのか? 本当に自信が無かったら、あんな夢を見た後で私を訪ねて来たり、金曜みたいな口ゲンカを太耀とする筈が無い。恵の方は訪ねて来ない所を見ると、勇気が無いのか私を怖がって……と、それも無いな。あのキーホルダーを自分の意思で手にしたのだから。まぁ2、3日様子を見てみるか)
★★★★
【木曜 玄見小学校 昼休み】
澪と恵は、誰も言ない図工室で話しをしていた……
いや正確には、澪が一方的に話しを聞いている。
理由は水曜日に決まった、新入生歓迎会で葉司達でやる事になった劇。
元々金曜日に新入生歓迎会をやる予定では有った。
しかし月曜の龍蛇丸の件や、玄見小学校で龍蛇丸のご飯を用意する事が来まると、昼休みに子供達が龍蛇丸を見に集まる言と成り、それを見た嗣次が龍蛇丸達の事を劇にして、子供達にもっと知ってもらおうと葉司達に頼んだのだ。
葉司達が選ばれたのは、その場に居た小太郎も頼んだから。
更に後から刻代も仲間に入れて欲しいと言う事に成り、水曜の放課後の時点では、澪も恵も関係無い事のはずだった……
……のだが、ここで問題が起きる。
恵は澪とは違い、あの夢の後一度も刻代に自ら接触を図る様子が無く、刻代自信も用事で劇を自分でやる事が出来なくなったので、様子を窺う事も含め、刻代は強引に自分から恵に劇の代役を頼みに言った。
そして恵は、自分の意思で代役を受けた。
そう……自分の意思で受けたのだ。
恵は理由として、夢の件が有っても刻代自信に恐怖を抱く事は無く、憧れの思いが強い事。
そして澪が火曜日に刻代と話しているのを見た事を理由に挙げた。
因みに刻代を避けていた理由は、自分を変えられる自信を持てなかった事が理由。
しかし自分より内気な澪でも行動を起こせたのだからと、恵も行動を起こす事を決めた……
しかし一日経つと勇気より不安が増し、自信の無い恵は不安で如何しようも無くなっていた。
どんなに頑張ろうと思っても、対峙する恐怖の怖さは変わらない。
劇自体は、天狗丸に扮して天狗丸の名前を名乗り、鳳皇丸に扮した太耀に退治される振りをすれば良いだけであるが、新入生歓迎会は生徒と先生が全員参加。
つまり玄見小学校の場合、子供だけで役35人の二組×6で役420人。
その生徒数の前で劇をすると言う事に後で気が付き、恵は自分で頑張ろうと決めた手前刻代に代役の返上を言えず、他の子供に押し付ける事も出来ない。
澪が刻代から劇の代役の話しを聞き、心配に成って勇気を持って恵に話しかけ、今の現状に成っていた。
不安な気持ちを澪に話している恵は、澪が助けてくれるとは思ってはいない。
元々澪が自分よりそう言う事が苦手なのは理解しているし、これは自分でどうにかしないといけないとも思っている。
ただ、同じ秘密を共有している澪が話し掛けてくれた事、そして話しを聞いてくれる事は少しでは有るが嬉しく、不安も少しは和らいでいた。
一方の澪は『それなら僕が代わってあげる』と言えない自分を情けなく思い、悩んでいる。
自分が人一倍、そう言う事が苦手だと理解しているから尚更。
そして澪は有る事を思い付く。
話しは変わり……
では、この事の起こりである劇の代役を何故、刻代が恵に頼んだかと言うと……