日曜日の朝方、テレビでは胸にFXと付いた青いロボットが戦っている。
「おい緋衣、薫の奴朝刊に出てるぞ」
小学六年生の巻機山 了は、丸眼鏡を掛けたオカッパ頭の双子の妹、 緋衣にそう言った。
すると緋衣は、素っ気無い態度で言葉を返す。
「だから何です」
そして不機嫌そうな顔をしてリビングを出て行った。
そんな様子を見ていた、三つ歳が下のロングヘアの妹、百合香が不思議そうに言う。
「最近緋衣お姉ちゃん。機嫌悪いけど、どうしたんだろう?」
「英一とケンカでもしてんじゃねぇ?」
了がそう百合香に答え、兄妹達が心配している中、緋衣は自分の部屋で科学雑誌を呼んでいた。
そして思う。
(また薫の方…… 何で私は不思議な事件に遭遇しないの。私だってお祖父様が言っていた、アラハバキの仲間達に会いたいのに)
薫と緋衣の祖父円は、生前二人に大変好かれていた。
そして薫と緋衣はとても仲が良かった。
それは兄の了が、緋衣に朝刊の記事を教えた事でも分かる。
……だからこそ緋衣は悔やしい。
自分が蚊帳の外に居る事が……
実際緋衣は円により、調停の女神ククリの力で、不思議な事件に出くわさない様にされていた。
それは円の緋衣に対しての優しさで有ったが、緋衣の性格と気持ちを理解してのモノではなかった。
(もし本当に神様が居るのなら、私にお祖父様が探していたモノと……)
鬼や天狗が事件を起こしているなら、神様も居るかもしれない。
そう考えた緋衣は、そう神様に願おうとした……
が、途中でそれは違う気がして首を横に振る。
(違う…… こう言う事は、自分で動かないと!)
そう自分に言い聞かせて決意を固めると、少し考え緋衣は自分の部屋を飛び出し両親に聞く。
物凄く恥ずかしそうに。
「父さん、母さん。宮本さんのラーメン屋さんがオープンしたらしいので、お昼に食べに行ってみたいのですが?」
誰も居なくなった緋衣の部屋で、ククリは佇んで居る。
遠くで聞こえる、緋衣の声を聞きながらククリは思う。
(縁は自ら作り結び換えるモノ。もし貴女が行動するのであれば、私は貴女の手助けをしても構わない。円が結んだ赤い意図、貴女に切れるかしら……)
★★★★
(こんなつもりじゃ、なかったんだけど……)
緋衣は薫の家に居た。
そう。ラーメン屋ではなく家の方に居るのだ。
最初、直接薫に鬼や天狗の事を聞くのが恥ずかしいからと、遠巻きにまず、理由として薫の家のラーメン屋に行ってみたいと両親に話しをし、両親がそれならと兄妹で行く様に促して、兄妹でラーメン屋まで来たのは緋衣の計画通り。
いくら親戚で仲が良いと言っても、六年生にもなってオカルト話しを、真面目に男の子や大人に聞く勇気が緋衣には無い。
緋衣は薫の家がやるラーメン屋に行けば、了が薫か薫の両親に朝刊の話しをするだろうと考えていた。
しかしラーメン屋に入った緋衣は、薫や薫の両親に挨拶して直ぐ、店内に居た子供達に話し掛けられ、計画が狂う。
その子供と言うのが、葉司、北斗、小太郎。
北斗と葉司は薫に誘われて、小太郎は清重と昼食を食べに訪れていて、最初北斗が緋衣に挨拶をし、次に小太郎がナンパに近い状態で百合香に話し掛けると、それを見ていた了と葉司が話しに加わり、お昼で他にお客さんが居たのも有って、薫の父親にラーメンを食べた後、子供達は家の方に行く様促され現状に至る。
ここに来る途中、緋衣達は小太郎から腕の事を聞かされ、小太郎の腕を不思議がる言は無いのだが……
了は少し不機嫌そうな顔で、百合香と話しをしている小太郎に言う。
「小太郎、お前初対面の癖に妹に馴れ馴れしい」
「了。自分がモテ無いからって、ヤキモチは恥ずかしいから止めて下さい」
そう緋衣に怒られた了は、続けて葉司に煽られる。
「やぁぁぁい、怒られてやんの」
「何だとこの野郎、歳下の癖に生意気だぞ!」
了が葉司にそう文句を言うと、緋衣と薫がほぼ同時に了に行う。
「そう思うなら、年長者らしい振る舞いをしたらどうです?」
「そう思うなら、年長者らしい振る舞いをしたらどうでしょう?」
それを聞いた了は、意気消沈し二人に聞く。
「俺、そんなにガキっぽいか?」
そう言った了の様子を見た北斗が、話しを代える為に了に言う。
「まぁ、小太郎君の気持ちも考えてあげてよ了君。小太郎君はきっと友達作ろうと一生懸命なんだし、やっぱり可愛い子とは仲良く成りたいでしょ?」
北斗の言葉を聞いた葉司は、少し呆れた口調で北斗に尋ねる。
「お前たまに、恥ずかしい事平気で言うよな……」
「そうかなぁ?」
自分でそんな自覚の無い北斗が葉司にそう言い返すと、了が北斗に少し怒った様に言う。
「そうかなぁ、じゃねぇよ!」
可愛いと言われた百合香の顔は少し赤い。
(……こうやって話しているのも楽しいですが、このままでは私の聞きたい情報が話題に有がらない)
そう思った緋衣は少し考えてから、自分で話しを切き出す覚悟を決める。
(恥ずかしいですが、やはり自分から聞かないとダメでしょうね……)
「……そう言えば薫君、今朝の朝刊に金曜日の事が乗ってましたね。月曜には学校で天狗に襲われたと聞きましたが?」
そう恥ずかしさを出来るだけ隠して言った緋衣の言葉に、葉司が言い返す。
「龍蛇丸の事、記事に成ってたんだ?」
「あの時は嘉助が攫われたし、大変だったんだぜ緋衣姉ちゃん」
小太郎も緋衣にそう返すと、その言葉を聞いて緋衣は驚き小太郎に聞く。
「もっ、もしかして小太郎君。アノ現場に居たんですか?」
「何バカ言ってんだ。学校が襲われたんだから、見てるに決まってんじゃん」
緋衣に了がそう言うと、緋衣が呆れた様子で少し力強く言い返す。
「バカは了です。小太郎君は金曜日に転校して来たって、さっき説明されたでしょう。それと玄見小学校に出たのは天狗と鳥型、朝刊に書いて有ったのは両方龍もしくは蛇型!」
その様子を見ていた百合香は緋衣に言う。
「元気戻ったみたいね、お姉ちゃん」
「何の事ですか?」
薫が百合香の言葉を不思議に思いそう聞くと、了が少し小バカにした様に答える。
「コイツ、先週の日様からイマイチ機嫌悪くてさ。彼氏とケンカでもしたんじゃないかって話してたんだけど……」
「緋衣さん、彼氏いらしたんですか?」
緋衣に薫がそう聞くが、そんな薫を無視して緋衣は了を怒る。
「了アンタね、こういう話しは慎むものですよ。貴方だって忍さんの事言われたくないでしょう!」
「あいつは、そう言うんじゃねぇ!」
そう言い返した了の顔は、恥ずかしいのか緋衣の言葉のカウンターを受け少し赤い。
口ゲンカを始めた従兄姉を見ながら薫は言う。
「小学生でも高学年にもなると、彼氏彼女が居るものなのでしょうか?」
「葉司兄ちゃん、北斗兄ちゃんの場合は恵理花姉ちゃんか?」
からかう目的でそう言った小太郎に、葉司と北斗は少し顔を赤くして反論する。
「あいつは幼馴染み……」
「そう、友達だよ友達……」
そう答えた葉司と北斗だが、それを聞いていた小太郎の顔が何故か少しムカついて、葉司は小太郎に言い返す。
「そう言うお前はどうなんだ、小太郎!」
葉司にそうからかい返された小太郎は、自身満々に満面の笑みで言う。
「いるよ、こっちに来たから離れてるけど彼女。トメって言うんだ」
(まぁ、妻なんだがな……)
小太郎は心の中でそう続け、小太郎の言葉に、自分にはそう言う相手がい無い事を少し気に病む薫と百合香。
そんな小太郎、薫、百合香を他所に、緋衣はフッと我に返り思う。
(不味い。このままではせっかくのチャンスなのに、話しがそれてしまいます……)
「そうだ小太郎君。天狗や鬼に、何か呪われそうな事しませんでしたか?」
口ゲンカ中の了を放り出し、そう突拍子もない事を小太郎に聞いた緋衣に、子供達の視線が集まる。
「緋衣姉ちゃん、どうしたんだよ急に?」
小太郎が不思議そうに緋衣にそう聞くと、緋衣は恥ずかしそうに言う。
「騒ぎを起こしている化け物達のボス、アラハバキに心当たりが有るんです。実はお祖父様から、名前を聞いた事が有るのです……」
((!))
それを聞き、小太郎も含めた他の子供は驚いた。
「……やっぱり緋衣さんは聞いてましたか」
薫がそう返したので、了と百合香は更に驚き二人に尋ねる。
「俺、そんな話し知らねぇぞ!」
「私も……」
了と百合香の疑問に、薫は言う。
「私達が、お祖父様と仲良かったからだと思います。私の場合は、譲り受けた遺品の手帳で知ったんですが……」
「私は直接お祖父様から聞きました。いつ聞いたかは覚えてませんが……」
緋衣はそう言いながら不思議に思う。
(そう言えば私はいつ、アラハバキの名前を聞いたんでしたっけ?)
悩む緋衣を見ながら、小太郎も悩んでいる。
(如何言う事だ。アラハバキは天津星神と言う名でしか伝わっていない筈……
と言うか、円がアラハバキの名を出すとは思えんが?)
するとククリから小太郎に念話が来る。
(「この件に関しては私が知っています。詳細は話せませんが、問題は有りません」)
(「近くで見ているのですか?」)
小太郎は念話でそう返すが、ククリからの返事は無い。
(……返事はして下さらないか)
「オイラが呪われてるなら、雷様だろうな」
小太郎はククリからの返事をいったん諦め、緋衣にそう言った。
すると薫が緋衣に言う。
「小太郎君は関係有りませんよ。手帳にこの土地に封印されたと記して有りましたから、引っ越して来た小太郎君に理由が有るはずありません。どうしてそんな事を聞くんですか緋衣さん?」
「お祖父様から聞いた名前が、関係してるらしいから興味が有るだけです。それなのに月曜日の件は別として、3回共その場に居ないなんて」
緋衣はつい本音の一端を口にした。
すると了が悪意無く緋衣の本心を言い当てる。
「もしかしてお前、薫だけその場に居たのが悔やしいのかよ?」
了に図星を付かれ怒った緋衣は、無意識に気持ちに任せ、了の足を思い切り踏ん付け言う。
「そうですよ、悪いですか!」
蹲っている了を他所に、緋衣は我に返り今の行動を取り繕おうとする。
「……えっと、今のは忘れてください。今のは了の言葉に反応しただけですから!」
しかしそう喋っている間に、緋衣の恥ずかしさは増して行く。
冷静でない時、冷静な行動など取れるはずがない。
「そうだ、私用事を思い出しました…… 私はこれで!」
緋衣は逃げる様にして、薫の家から出て行く。
それを見て薫は言う。
「緋衣さん、どうしたのでしょう?」
「多分お姉ちゃん、ヤキモチがバレて恥ずかしかったんだと思う」
薫に百合香がそう返し、北斗が続ける。
「何か、その気持ち分かる気がする」
「そう言うものですか?」
薫がそう北斗に聞き返している頃、小太郎はククリから再度念話を受けていた。
(「ねぇ、タケミナカタ。如何にかしてあげられないかしら緋衣」)
ククリの念話に、小太郎が念話で返す。
(「やはり見てるんですね叔母様。オモイカネが近くに居るんですから、気を付けて下さい」)
(「私を誰だと思っているの?」)
(「そうでした。それより如何したのですか、あの娘に肩入れするなんて? 確か円との契約が有りましたよね?」)
(「私は行動する者の味方。円の子供心の分かって無さも有るけど」)
ククリが念話でそう言うと小太郎は、自分に葉司達の目が向いていない事を確認した上で、クスクス笑ってからククリに念話を返す。
(「分かりました、緋衣の事はこちらで如何にかしましょう。結果は本人次第ですが」)
(「ありがとう。私好きよ、貴方のそう言う女性に若干甘い所」)
(「父の影響でしょうね……」)