(「……と言う事に成りました、スセリ様」)
(「分かりました」)
小学校の昼休みと掃除の時間の間に有る、5分の移動時間。
小太郎は、校長室でスセリとそう念話で話している。
(「そっちの龍蛇丸の食べ物の件、如何なりました?」)
するとスセリは困った口調で念話を返す。
(良い考えは面い付か無い。龍蛇丸の食事は龍蛇丸本来の性質だから、私の力では如何しようも無いし)
昼休みに葉司と恵理花の提案で、龍蛇丸の新しい昼食方法を考える羽目に成ったスセリは悩んでいた。
最初は子供達の提案通り、給食の残り物を配膳室からこっそり貰って、龍蛇丸に与えていた……
子供達も最初は、そんなに難しい事では無いと思った。
しかし葉司達は自分達が思っているより人気が有って、結構な頻度で友達に話しかけられる。
これでは流石にバレる可能性が高いと言う話しになり、代案を考える事と成ったのだが……
家から持って来るにしても、ランドセルの中から取り出したら、怪しい以外の何者でもなく。
こちら側の事情を話す訳にも行かないので、組の子に要ら無い給食を毎日分けて貰う事も出来ない。
下手をしたら先生にバレて、怒られて動きが取れなく成ってしまうかも知れない。
(「御困りの様ですねスセリ様」)
念話を聞いていた嗣次が、途中から話しに入って来て提案をする。
(「私に良い考えが有りますが、聞きますか?」)
嗣次の提案にスセリは聞き返す。
(「何かしら?」)
(「この学校で飼うのです。と言うか、守ってくれるお礼にご飯をあげる事にすれば良い。自分達を守ってくれるモノを、拒む子供も保護者もいないでしょう」)
そう念話で言った嗣次に、スセリは嬉しそうに答える。
(「成る程、校長の貴方が後押しすれば文句も出ないでしょうし。それじゃぁ念を押して、皆の前で龍蛇丸には格好良く戦ってもらいましょうか」)
スセリが念話でそう言うと、小太郎が念話で続けて言う。
(それなら北斗達は、此方で如何にかしましょう)
★★★★
【玄見小学校 放課後】
「人数増やしちゃった私が言うのも何だけど、こんな人数で押しかけて平気」
刻代の言葉に、小太郎は迷惑そうな顔で返事を返す。
「流石に怒られる気がする……」
理由は、小太郎の家に遊びに行く人数が、10人もいるから。
小太郎達は、小学校から神社に向かう坂を降りている。
元々太耀を遊びに誘い、それを太耀がOKした後に、気になっていた子二人も誘った刻代側が4人。
嘉助と仲良く成った小太郎が、嘉助を連れて、親戚の清重が昨日会え無かった、葉司達に会いたがっている事を伝えに来て、皆で茨木理髪店に行く事に成った小太郎側が6人。
最初、小太郎は太耀も誘い、その誘いを断った太耀だったが、その話しを聞いた刻代が、一緒に行ってみたいと言い出して今に至る。
「天池 君も春日さんも付き合わせちゃってごめんなさい」
そう言って刻代が謝った一、二年生ぐらいの身長の男の子――天池 澪と、身長の高いお下げ髪の女の子――春日 恵は首を横に振った。
「……ねぇ伏見さん、聞きたい事が有るんだけど?」
恵が刻代に向かってそう言うと、刻代は聞き返す。
「何かしら?」
「何で私達を誘ったの? 私達あんまり話すの得意じゃ無いし」
恵の言葉に、澪は隣りで頷いていた。
「確かにコイツ等、暗いんだよなぁ」
葉司が恵の言葉に不用意にそう言い返してしまい、後ろを歩いて居た恵理花が怒る。
「こら葉司!」
そして葉司の耳を引っ張った。
「いたたたた」
葉司が痛そうにそう言うと、刻代は恵理花に小さい声で耳打ちをする。
「黒沢さん、五十嵐君の時だけ態度違うけど……」
「そんな事無いわよ……、それと恵理花で良い」
恵理花が恥ずかしそうにそう返すと、刻代は笑顔で言い返す。
「それなら私も刻代で良い」
「それにしても何故、遠回りしているんです?」
そう薫が言うと、太耀と小太郎が答える。
「道案内も兼ねてるからさ」
「オイラが頼んだんだ」
子供達の歩いている坂は、商店街の丁字路に繋がっていて、今居るのはその途中の神社の脇。
茨木理髪店は商店街の端の方に在り、今居る場所から五年生の足で約15分程。
因みに刻代の家は全くの別方向で、恵以外は完全に帰るには遠回りの寄り道である。
「ミオッチは大丈夫?」
北斗が心配して澪にそう言うと、澪は少し小さな声で言う。
「走らないでくれるなら……」
「……話し、戻してもらって良い?」
恵が皆にそう聞くと、刻代が恵に答える。
「だって目立つじゃない、貴方達」
(本当は、貴方達が私を見ていたからなんだけど……)
そう思いながら、刻代は休み時間の事を思い出していた。
恵がケンカに興味を示さず、自分を憧れの瞳で見ていた事を……
澪が周りの子供達に潰されない様、安全なベランダに退避した後、窓越しに自分を目を輝かせて見ていた事を……
「確かに春日さんは別として、澪は変な奴だから組の中じゃ目立つけど」
太耀がそう言うと、北斗が太耀に言う。
「太耀君、意地悪は止めなよ」
そして更に、言葉を続ける。
「まぁミオッチは、葉司君とは別の方向に問題児だけど」
「そうなの?」
刻代がそう北斗に聞き返すと、太耀が葉司に言う。
「ほら、言われてるぞ葉司!」
「お前だって、大概だろうが!」
そして葉司と太耀の口ゲンカが始まる。
そんな二人に皆の目が向いている中、 澪だけは膨れっ面で太耀を軽く睨んでいた。
★★★★
「澪、ランドセル背負ったまま試食を食べるんじゃない。みっともない!」
刻代がトイレに行きたがったので、葉司達は坂の終点に在る、スーパーに立ち寄って居た。
澪が試食を食べている事に気付き、太耀がそう注意をすると、 澪は嫌そうな顔をして反論を言う。
「せっかく来たんだし少しぐらい良いじゃん。後で話しをして、おっ母が買うかもしれないし」
「そう言う問題じゃ……」
澪と太耀の口ゲンカを見ていた北斗に、トイレから戻って来た刻代は聞く。
「ランドセルありがとう北斗君。それと、あの二人仲悪いの?」
「お帰り伏見さん。太耀君のアレは、葉司君のヤツと一緒」
「何それ?」
不思議そうにそう言った刻代は、北斗に預かって貰っていたランドセルを受け取り、辺りを見回す。
(見る限り、店自体には働いている人も含め、思ったより人が居無い。……とは言え小学校は終わっているのだから、騒ぎを起こせば、それなりの子供は集まるはず。さあ如何する風の坊や)
刻代が小太郎に目を向けそう思っている時、小太郎は如何しようか悩んでいた。
(思ったより人が少ない…… いや、それならコチラから動けば良いか)
やる事を思い付いた小太郎は、念話でミシャグジに言う。
(「ミシャグジ、俺の居る場所は分かるな」)
(「はい」)
(「なら少し離れた場所から、俺達の所に道路を沿って来い。子供が下校中のはずだ、怪我はさせるなよ」)
★★★★
「本当に手伝わなくて良いのか?」
そう言った鬼丸とそう言われたミシャグジは、家の近くに在る川の上空に居た。
ミシャグジは首を横に振り、鬼丸に言う。
「妖怪風情の姿を変えられなくて、神などやっていられると思うか?」
「やはり貴様、神の類だったのか。では何故奴の腕の代わりなどやっている?」
鬼丸の言葉を聞きながら、ミシャグジは円月輪のような物を何所からか取り出し、それを握り締めながら言う。
「敗者にそれを聞くか、大江山の赤鬼」
「……悪かった。まぁ頑張るが良い」
そう言って、鬼丸はその場から消える。
ミシャグジが円月輪を一振りすると、消えない風が巻き起こり、その中に持っていた風蛇を放り込む。
すると風蛇は次第に大きく成り、25メートル程の大きさに変わると、ミシャグジは風蛇の頭に乗って言う。
「行くぞ風蛇!」
★★★★
ヒューン
ヒューン
「ねぇ皆、外の天気おかしくない?」
恵がそう言うと、スーパーの中に居る葉司達は外に目を向ける。
スーパーの外では風が吹き荒んでいた。
「こう言うの、春一番て言うんだっけ?」
葉司がそう言うと、薫が否定しようとする。
「春一番と言うのはですね……――」
しかし……
「大変だ、大蛇が出たぞ!」
説明しようとしている薫の声は、外から聞こえて聞た男性の声に遮られた。
「おい、大蛇ってもしかして……」
そう言った葉司に、子供達の注目が集まる。
そして恵以外の子供達は、急いで外に大蛇を確認しに行く。
ブオーン
外は凄い風。
車は大丈夫だが、近くには植木鉢が転がっている。
そんな中子供達が目にしたのは、風丸の姿をしたミシャグジと風蛇。
風蛇の動きが止まると風も止まり、ミシャグジは葉司達に向かって喋り出す。
「大変そうだなガキ共」
ミシャグジがそう言うと、小太郎からミシャグジに念話の指令が来る。
(「ミシャグジ。最初の計画通り、嘉助を攫って河原に逃げろ。後はお前の好きにするが良い」)
小太郎からそう指令を受けたミシャグジは、 嘉助の後ろにワープした。
「悪いが、お前は餌になってもらうぞ」
そしてそう言ったミシャグジは、 嘉助を抱え風蛇の頭上に戻り、嘉助は叫ぶ。
「た…… 助けてぇぇぇぇ!」
嘉助が叫び終わるのを待ち、ミシャグジは笑みを湛えながら言う。
「待っているぞ…… フフフ、フハハハハハ」
大笑いをしながら、ミシャグジは嘉助を連れたまま風蛇と共に河原に移動を始めた。
「待ちやがれ!」
葉司がそう言いミシャグジを追って行くと、北斗、太耀、恵理花、薫も風蛇を追おうとする。
しかし北斗と太耀は腕を捉まれ、引き止められた。
引き止めた相手は、小太郎と刻代。
「待って葉司君!」
北斗の声に葉司、恵理花、薫も足を止める。
「ごめんなさい、でも怖くて動けないの。暫く近くに居て……」
「ごめんオイラも……」
刻代と小太郎は俯いてそう言うと、その場を動こうとしない。
「葉司君。仕方ありません、私達だけで行きましょう。何も出来ないかも知れませんが、嘉助君が心配です」
薫の言葉で、葉司、恵理花、薫は二人を置いて走り出す。
(刻代のお蔭で、手間は省けたか……)
小太郎がそんな事を考えている一方、刻代は小太郎を見て思う。
(ククリ様の力の所為で、詳しい内容は知らないが、これで良かったみたいだな…… それより恵は外に出て来ない。と言う事は、不安な心は有るが縋る勇気が無いと言う事か。澪は……)
刻代はそう思いながら、辺りを見回し気付く。
(居ない? ……一緒に外に出た事は確認している。と言う事は、私達を放って、勝手に葉司達に付いてったと言う事か……)