【昼休み 五年二組の教室】
太耀の周りには刻代を始め、休み時間に問題を起こした女の子達が集まっている。
「太耀君、休み時間は迷惑かけてごめんなさい」
「「ごめんなさい」」
女の子達が謝ると、太耀は言う。
「仲直りは出来た?」
あの後、刻代は鐘治先生に付き添われ、三時間目と四時間目五分休みに、一組、二組共に謝って回っていた。
「分かんないけど、太耀君にだけは皆で謝ろうって」
謝りに来た女の子の一人がそう言うと、その様子を見ていた葵が言う。
「確かに顔が良いは余計よね」
「葵さんも、一事余計ですけどね」
葵にそう返す薫に、葵は少し怒った口調で言い返す。
「何よ!」
薫は少しビク付いた後、視線を刻代に代えて言う。
「まぁ髪の事もありますし、転校して来た見としては気持ちは分かりますが」
「それにしても凄かったわね、刻代ちゃんの口ゲンカ」
学年の中で二番目に小さい女の子、美玖里 結花がそう言うと、刻代は恥ずかしそうにした。
「それじゃ私は行くわ。髪の事は私が悪かったけど。私はアンタみたいな子は嫌い」
謝りに来た、一組の女の子の一人がそう言って一組に戻って行くと、他の一組の女の子は刻代に、各々ゴメンのポーズを取って二組を出て行く。
「君達は?」
太耀にそう聞かれ、二組の女の子達は少し考える。
「仲良くはなれないと思う、嫌いじゃないけど」
二組の女の子の一人がそう言うと、他の女の子達も頷く。
その時……
「あっ、居た居た。刻代姉ちゃん」
教室の外から少年の声がしたので、刻代は声の方を向くと嘉助に気付き、近寄る。
(この子の方から来てくれたのは良いが、風の坊やの姿は無いか……)
そう思いながら、刻代は嘉助の名札を確認しながら言う。
「どうしたの…… 嘉助君?」
「オレ、休み時間の事謝ろうと思って。……ゴメン」
そう言って頭を下げた嘉助に、刻代は聞く。
「だからあの時、教室の近くに居たんだ。小太郎君は?」
「校長先生に用事が有るって言ってたけど」
嘉助がそう言うと刻代は考える。
(と、言う事は何か起こす気か?)
「そう言えば休み時間に、小太郎君を隠れて見てたのは何で?」
刻代にそう聞かれ、嘉助は恥ずかしそうに言う。
「オレ、小太郎が日曜日に現れた、風丸って奴じゃないかと思ってたんだ。腕が白いし」
嘉助の話しを聞いて、太耀は嘉助に向けて答える。
「それは無い。僕も昨日小太郎の家で会ってそう考えたけど、身元を証明する知り合いがいる」
「オレも校長先生の親戚だって聞いて、休み時間に謝った」
太耀と嘉助の会話を聞き、刻代は何故小太郎がこの場に居無いか理解する。
(成る程、そう言う事か。確かにあの腕は目立つ。 ……だとしたら事は学校が終わった後か。少し利用させて貰うぞ)
★★★★
「なぁ恵理花、コレ別の方法考えた方が良いんじゃねぇか?」
「確かに敵がいつ来るか分かんないからって、毎日やってたらその内誰かにバレるわよね。……でも家から持って来ても、何かの拍子にバレそうで怖いし、大体持って来る入れ物が無いし」
そんな会話をしている、葉司と恵理花が居るのは家庭科室。
正確には家庭科準備室。
葉司と恵理花の近くで、小型の龍蛇丸はご飯を食べている。
メニューは、水で軽く解したソフト麺春雨サラダ和え。
そして水。
「かと言ってコイツだけこの姿にしてないと、もし室内に居た時大変そうなんだよなぁ。いつも二、三人で居る訳じゃねぇし」
葉司がそう言うと、スセリが葉司の前に現われて申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい、私が物に触れられれば良いんだけど」
「別に今の所は嫌な訳じゃねぇから、謝る必要はねぇよ。自分がアニメやマンガみたいな事をやる事になるとは思わなかったけど」
スセリにそうフォローを入れる葉司に、恵理花が聞く。
「取り合えず何か代案考えた方が良いわよね。……それより葉司、伏見さんの事どう思う?」
「どうしたんだよ行き成り?」
葉司は言葉の意味を理解出来ずそう言い返し、恵理花は少し恥ずかしそうに更に言う。
「えっと……あの子綺麗だし、女も子として男の子はどう思ってるのかなって?」
「分っかんねぇ。可愛いのは確かだけど、太耀でアレだぜ。俺達じゃ手に負えねぇのは確かだな」
呆れた様子でそう言う葉司に、恵理花はクスクス笑ってから言葉を返す。
「確かに凄かったわね。でも転校前に色々あったみたいだし、私は気持ち分かる気がする」
「そんなもんか?」
葉司と恵理花の会話を聞きながら、スセリは思う。
(あの刻代と言う女の子、何がしたかったのかしら? 太耀と仲良く成りたかった様にも見えなくは無かったけど、髪の毛を馬鹿にされた時以外、行動全てに心を感じ無い気がする……)
スセリは恵理花に尋ねる。
「恵理花、あの刻代って子をどう思う?」
「どうしたのスセリ?」
「少し引っ掛かる事が有ってね……」
スセリの言葉に、葉司が反応して聞き返す。
「もしかして敵か?」
しかしスセリは首を横に振り、葉司に言う。
「それは無いと思うわ。……ただの女の勘よ」
(そう、本来この出来事に敵はいない。西洋の神々や大陸の神仙には話しは通してあるし、まして天津神を封印している今、私達に敵対する様な神が居る筈は……)
そう考えているスセリを他所に、葉司達の会話を壁の向こうで聞いているモノが居た。
(流石にやり過ぎたか…… でも私の正体には気付いてない様だな。早めに神籬を決めないと駄目か)
その正体は伏見 刻代。
刻代はそう思いながら、その場から姿を消した。
★★★★
【午後1時20分頃 茨木理髪店 茶の間】
「それじゃあ、今回の作戦はこんなもんか?」
小太郎がそう言うと嗣次が頷き、芸能人に居そうな面持ちの茨木 清重も納得する。
「それより小太郎、その子以外に友達は出来たか?」
清重が小太郎にそう聞くと、小太郎はクスクス笑い言う。
「思った以上に、今の子供の世界は大変らしい。アイツ等の組で面白い騒ぎが有ったぞ」
「それなら俺もそっちにすれば良かった。紫織婆さんに貰ったFRIDAYや週間文春で、情報収集するのも飽きて来たんでな」
飽き飽きした顔をする清重に、嗣次は続ける。
「そんな減らず口が叩けるのなら、この店が開店した時の客の対応、問題ないのだろうな」
「当たり前だ。誰に向かって言っている」
自信満々に清重がそう答えると、小太郎が嗣次に言う。
「さて、そろそろ掃除の時間だ。嗣次、先に学校に戻ってくれ」
そう言われ、嗣次は頷くと返事を返す。
「では……」
そして嗣次が部屋から姿を消すと、小太郎は半透明の緑色の比礼を何所からか出現させ、掴むと清重に言う。
「清重、小槌で家具と茶菓子を個定しておけ」
小太郎にそう言われた清重の左手には、知らぬ間に小槌が握られていた。
カコン
清重が部屋を小槌で軽く叩くと、部屋全体が少し光る。
「碧子蛇よ、風を巻き起こせ!」
更に、ちゃぶ台の上に乗った小太郎が、そう言って比礼を振ると室内で風が吹き荒んだ。
「一二三語れば風よ吹け。四を四として心現れよ。五六七、汝人の子に在らず。事の八をもって九に現れ十。 振る部、魂揺らに振る部」
そう言いながら小太郎は体を動かす。
まるで龍や蛇が舞っているかの様に。
すると風が集まって行き、30センチ程の牡鹿の様な角の生えた、緑色と桜色の斑柄の蛇に変わる。
小太郎は宙に浮くと、緑色と桜色の斑柄の蛇に命令をする。
「妖怪風蛇よ、俺が命令するまで待機していろ。良いな」
「ダァ」
風蛇がそう返事をすると、小太郎は清重に言う。
「此奴を使う。合図したら巨大化してくれ」
「分かった」
清重がそう返事を返すと、小太郎は考える。
(後は俺の偽者か……)
「水の鏡、黒水鏡。風産みの剣、草薙の木剣よ」
小太郎がそう言うと、黒曜石の様に輝く鏡と、龍蛇を模した様な木剣が目の前に現れた。
「鏡よ。我が偽りの敵としての姿、剣に写せ」
更に小太郎がそう言うと、草薙の木剣が風丸の姿に変わって行く。
(!)
それを見て清重は驚き、小太郎に尋ねる。
「貴様は何をしている?」
「鬼の貴様でも驚くなら、見せた甲斐があったか」
そう言い終わった小太郎は右手を水平に上げ、その掌からビー玉大の光体が出現し、偽りの風丸に宿った。
「起きろミシャグジ」
すると虚ろな瞳だった、偽りの風丸の瞳に光りが宿り、小太郎に跪く。
「話しは聞いていたな」
小太郎の言葉に、ミシャグジは続ける。
「承知しています。ですが良いのですか、魂が抜けたら腕の制御が……」
「気にするな、それに付いては別の制御方法を取っている。ほら……」
白い腕を動かして見せた小太郎は、ミシャグジに続けて言う。
「お前も偶には人前で暴れたら如何だ、加減はしてもらわないと困るが」
「では私に、その風蛇を頂けませんか?」
ミシャグジの言葉に、小太郎は少し考えてから返事をする。
「……良いだろう。ただし本来の目的は忘れるな」
「有り難う御座います」
そう言ったミシャグジを少しの間、小太郎は無言で暫く見詰め、清重に向かって残念そうに言う。
「だっそうだ。清重、悪いがお前の出番は無い」
「なら俺は、人として見学するとしよう」
残念そうな清重を他所に、小太郎は呟く。
「さて、そろそろ戻らないと本当に不味いな。じゃあ放課後に」
そう言って小太郎は姿を消し、学校に戻って行った。