【4月10日金曜日 玄見小学校5年2組の教室】
キーン コーン
カーン コーン
「すみません。この組に白石 北斗、五十嵐 葉司、日向 太耀、黒沢 恵理花さんは居ますか?」
休み時間が始まり暫く経ってから、葉司達の組にそう言ってやって決たのは小太郎。
やって来た小太郎に気付いた富司雄が、小太郎に話しかける。
「よっ、小太郎。何か用か?」
小太郎も富司雄に気付き、驚いた様な返事を返す。
「カバの兄ちゃん、この組だったんだ」
「何だ小太郎。カバの知り合いだったのか?」
太耀がそう言って話しに入って来ると、富司雄は太耀に言う。
「登校班が一緒なんだよ」
「それで何の用だ。お前……もしかして組で何か言われたのか?」
葉司が少し心配そうに小太郎にそう言うと、教室の外から女の子の声がする。
「そうじゃないみたいよ、ほら……」
声の主は、隣りの組の赤毛の転校生。
彼女は小太郎の組の少年を一人、逃げられない様に捕まえていた。
「確か伏見 刻代さんでしたっけ?」
薫が刻代にそう聞くと、刻代は少年を放し頷き答える。
「えぇ」
そして放したばかりの少年に、笑顔で続けて言う。
「気になるなら、がんばって話しかけないとね」
「うっさいな。誰だよお前!」
恥かしそうにそう刻代に怒鳴った少年に、刻代は微笑みながら言い返す。
「臨時朝会で校長先生が、小太郎君と一緒に説明したはずよ」
「知るかそんな事」
微笑む刻代を他所に、少年はそう文句を言ってその場から逃げ去った。
「ねぇ小太郎君、どうしたのあの子?」
刻代は小太郎にそう尋ねるが、小太郎は首を横に振る。
小太郎は、あの少年の名前すら知らないのだから答えようが無い。
「お前、以外に大変そうだな」
葉司がそう言うと、小太郎は困った顔で言う。
「オイラは兄ちゃん達が、本当に相手してくれるか確かめに来ただけなんだけど……」
すると刻代が小太郎に続ける。
「私は助かったわ。こうやって別の組の子と話す機会が出来たし……」
そして小太郎に抱き付いた。
(何だこの子……)
小太郎は刻代に、少し不思議な感じを覚えそう思ったが、その感覚をいったん無視し、すこし恥かしそうに刻代に聞く。
「……刻代姉ちゃん、以外に大胆だな?」
「あら、アナタは恥ずかしがらないのね? 私それなりに美人な自覚有ったんだけど」
笑顔で刻代がそう言うと、小太郎は強引に刻代から放れた。
(この反応を見る限り、触れても大丈夫そうね……)
そんな事を考えながら、刻代は小太郎の頭を撫でた。
「やっぱり恥ずかしいんじゃない」
「分かってるんなら止めてくれ!」
怒る小太郎を見ながら、刻代はクスクス笑う。
その後刻代は太耀の方に目を向けると、近付いて行く。
「始めまして日向君、聞いてた通りの顔してるわね。お願いが有るんだけど、友達になってくれない。ほら、顔の良い者同士一緒に居た方が得でしょう?」
そう言った刻代の言葉に、太耀は呆れた顔をして無意識に言う。
「はぁ?」
ざわ ざわ ざわ
突然の言葉に呆れている太耀とは別に、五年二組の生徒にざわめいきが起った。
人付き合いも良いし、学年で一番顔も頭も良い金持ちの男の子に、美人の転校生が行き成り漫画やアニメ、ドラマみたいな事を言ったのだから当たり前ではあるが……
一方小太郎達から逃げ出した少年は、新しい校長先生の下村 嗣次に呼び止められる。
「こら、廊下は走っちゃいかん!!」
「ごめんなさい。…………校長先生、オレの話し聞いてくれる?」
困った顔でそう言い返して来た少年に、嗣次は事情を聞く事を決めた。
★★★★
【5分後 玄見小学校 校長室】
「……と、言う事なんだけど。分かったか?」
そう言った小太郎は、休み時間が半分終わった頃に、嗣次に校内放送で校長室に呼び出され校長室に居た。
目の前には五年二組から逃げ出した少年、風祭 嘉助の姿が在る。
嘉助は小太郎の白い手を見て、日曜日に見た風丸ではないかと疑っていた。
そして、それを校長先生の嗣次に相談したのだ。
嗣次は嘉助に、小太郎が自分の親戚の子で有る事を伝え、更にやって来た小太郎が嘉助に腕が白くなった理由を説明した。
「分かった。それとごめん……」
嘉助が小太郎にそう謝ると、小太郎は 嘉助に向けて左手を差し出す。
「分かってくれたんならいいや。ほら、刻代姉ちゃんには謝った方が良いだろ、行くぞ」
そう言った小太郎に少し躊躇する嘉助だが……
「……うん」
頷いて嘉助が小太郎の手を取ると、小太郎は嗣次に向かってお礼を言う。
「校長先生、嘉助の事ありがとう。オイラ達用が有るから行くよ」
「嘉助君、小太郎と仲良くしてくれ」
小太郎の言葉に対し、嗣次は嘉助に向かってそう言い、小太郎は恥ずかしそうに嗣次に言い返す。
「うっさいな! ……校長先生、失礼しました」
ドアを開け、小太郎は嘉助の手を引いて校長室を慌てて出て行く。
「失礼しました」
嘉助は手を引かれながら嗣次にそう挨拶し、その様子を笑顔で見送る嗣次の元に、小太郎から念話が来る。
(「天狗丸、この件で後で話しが有る」)
(「分かっている。昼休みでも訪ねて来るが良い」)
(「分かった。ククリ伯母様とスセリ様にも……――」)
小急ぎで階段を駆け上がっていた小太郎は、一緒に階段を駆け上がっていた嘉助が足を止めたので、小太郎は念話を止めて嘉助に聞く。
「どうした?」
「恥ずかしい……」
そう言って嘉助は繋いでいた手を振り解いたので、小太郎は考える。
(確かに子供とは言え、この歳でコレは恥ずかしいだけか……)
「悪い、おじさんに友達って言われたのが恥ずかしくて」
小太郎が申し訳なさそうにそう言ったので、嘉助は力なく言い返す。
「今度から気を付けろよ」
「ゴメン」
そう謝った小太郎は、嗣次に念話を途中で中断した事を念話で謝りながら、嘉助と改めて小急ぎで五年二組に向かう。
すると五年生の大多数が二組に集まっていた。
「やっぱり酷く成ってんな」
呆れた顔でそう言った小太郎に、嘉助は聞く。
「何の騒ぎだコレ?」
同時刻の五年二組。
太耀と刻代は五年生の女子の3分の1に取り囲まれて、身動きの取れない状態に成っていた。
最初は刻代の言葉で、組の女子3分の1に取り囲まれ口論が始まっただけだったが、時間が経つにつれ一組にも事の次第が伝わり、一組の女子3分の1も加わわり今に至る。
因みに他の五年生達は、戦々恐々と好奇心を胸に、この騒ぎを見守っていた。
「ねぇ伏見さん、何度も言うわよ。転校して来て友達が欲しいのは分かるけど、一方的に友達になっては、日向君に迷惑だとは思わない?」
「「そうよ、そうよ」」
女子達の刻代を責める言葉を、太耀が止める術は無い。
いや、最初は止めようとはしたのだが。
しかし女子達の迫力に負けて、黙り込んでしまっている。
現状では、刻代が一人で取り囲んでいる女子達を相手に、立ち回っていた。
キーン コーン
カーン コーン
休み時間の終わりを告げる、チャイムを聞いた刻代は思う。
(……そろそろ収集した言が良いか? 使えそうなのは其所の席に居る背の高いおさげの女の子、それとベランダに逃げて私を見ている小さな男の子)
「聞いてるの? 大体なによその赤い髪。不良みたいな色しちゃって」
ある女子がそう言うと、刻代は一瞬その女子を睨む。
その眼力に、睨まれた少女は一瞬たじろぐが、次の瞬間刻代は泣きながら俯きしゃがむ。
「ちょっと、言い過ぎよ!」
その様子を近くで見ていた葵が、髪の色を悪く言った女子を怒ると、黙っていた太耀も続ける。
「確かに言い過ぎだ。彼女の行動に問題は有ったけど、ソレとコレは話しは別」
太耀の言葉を聞いて刻代は、わざと俯いたまま嗚咽の声で言う。
「ごめんなさい。お願いだから髪の事は悪く言わないで……」
そして沈黙した。
すると周りの女子達があたふたし始める。
ざわ ざわ ざわ
「こら、アナタ達。授業はもう始まっているのよ!」
そんな時、教室の外から鐘治先生の怒鳴り声が聞こえて来た。
北斗と薫が途中から不味いと思い、渡辺先生を呼びに行ったが、状況を確認した渡辺先生は、男の自分が口を出すと問題が拗れると思い、女性の鐘治先生に助けを求めたのだ。
「ごめんなさい先生。……私が悪いの」
俯きながらそう言った刻代に、鐘治先生は尋ねる。
「理由は隣りの空き教室で聞くけど良い。他にこの件に関わっている子は?」
鐘治先生は、他の生徒にそう尋ねるが名乗り出る者は有らず、それを泣き顔を上げて確認した刻代は、涙を拭いて鐘治先生に嘘を付く。
「私だけよ、ごめんなさい……」
「……分かった。ほら、皆道を空けて」
事を何となく察した鐘治先生は、そう言って刻代と共に教室を出て行く。
教室を出た刻代は小太郎と嘉助を見付けるが、二人から呼び掛けられる事な無い。
(さっきの放送といい、一緒に居ると言う事は何か有ったみたいね。コレが済んだら探りでも入れてみるか?)
刻代はそう考えながら、鐘治先生に付いて隣りの空き教室に向かった。