「いやぁ悪いね二人共」
申し訳無さそうな紫織の横には、見ず知らずの、女の子寄りの容姿の整った少年が居た。
歳は多分北斗や恵理花より1つ下。
北斗と恵理花、紫織と少年が居るのは、大体三畳程の茨木理髪店の待ち合いスペース。
真ん中にテーブルが置かれ、テーブルの片側には長椅子が一個、反対側にパイプ椅子が二個設置されており、北斗と恵理花は長椅子に、紫織と少年はパイプ椅子に腰掛けて居た。
「書類ってコレ?」
恵理花はそう言って、持って来たA4サイズの封筒を紫織に渡す。
すると紫織は中身を確認してから言う。
「コレだね、間違いない。まさか別の封筒と間違えちまうとは情けない」
「ねぇ、紫織お婆ちゃん。その子は?」
北斗のその言葉で、紫織は少年の紹介を始める。
「この子は私の知り合いの親戚の子で、金曜からお前達と同じ学校に通う事になってるんだけど……、ちょっと訳有りでね。ほら小太郎、お前さんの手を見せておやり」
小太郎と言われた少年は、紫織にそう言われ少し嫌そうにするが、少し間を置いて両手を北斗と恵理花に見せた。
((!))
小太郎の手を見て二人は驚く。
見せられた両手は、自分達よりかなり白い。
「どうしたのこの手!」
聞いた北斗に、小太郎は怖い顔をして言い返す。
「何だよ、文句有るのかよ!」
そう言われた北斗に、紫織は説明をする。
「この子は去年、雷に打たれた所為で両腕が白く成っちまってね。命が助かっただけでも儲けもんなんだけど、学校で皆にからかわれて引き籠もっちまったんだよ。まぁ夏場は目立つからねぇ」
「ごめん、小太郎君……」
紫織の話しを聞いて、北斗は申し訳なさそうに小太郎に謝った。
すると小太郎も、少し恥かしそうに北斗に言う。
「……こっちも悪かった」
小太郎の言葉が終わると、紫織が説明を続ける。
「この子も今のままじゃ駄目だと思ったらしくてね、新天地なら頑張れるんじゃないかと考えて、親戚に付いて転校して来たんだよ」
「紫織婆ちゃん、恥ずかしいから止めてくれ……」
恥ずかしそうに紫織にそう言った小太郎に、恵理花は笑顔で言う。
「とにかく、よろしくね小太郎君。私は黒沢 恵理花」
恵理花にそう自己紹介された小太郎は、北斗と恵理花に向かって、少しぶっきらぼうに自己紹介を始める。
「……そうだ、まだ自分で自己紹介してなかった。オイラは龍之 小太郎、よろしく」
小太郎の自己紹介を聞き、北斗は不思議に思い紫織に聞く。
「あれ、茨木じゃないの?」
「ここに住む三人は、親戚であって家族じゃないからね。この子はさっきの話しで預かってるだけだし、私の友達の下村 嗣次は、用が出来て同居するだけ。床屋をするのが茨木 清重て言うんだよ」
紫織が北斗と恵理花にそう説明すると、北斗は紫織に返事を返す。
「そうなんだ」
更に小太郎に向かって、北斗は言葉を続ける。
「よろしくね龍之君、ボクは白石 北斗。そう言えば前はどこ住んでたの?」
そう話しかけた北斗に、小太郎は言う。
「長野……」
「実は今年、新潟から転校して来た薫君て言う友達が居るんだ。同じ転校生同士、後で紹介しようか」
小太郎の言葉に北斗がそう言うと、小太郎は北斗に聞き返す。
「そいつは新潟の、どこに住んでたんだ?」
「えっと確か、新潟市だった気が……」
北斗が小太郎にそう教えると、小太郎は少し残念そうな顔をしながら言う。
「何だ、違うのか……」
「違うって何が?」
恵理花がそう聞き返すと、小太郎は答える。
「母ちゃんが新潟で生まれたって聞いたから、場所は違うみたいだと思って」
「小太郎君のお母さんてどんな人。小太郎君見てると美人な気がするけど?」
恵理花にそう言われ、小太郎は少し嬉しそうに答えようとするが……
「そりゃあ、もち……」
しかし北斗と恵理花の視界の外、小太郎と紫織の視界の内に、スセリが突然現われ微笑む。
(!)
それに驚いた小太郎は言う言葉を替える。
「……顔が良いのは父ちゃん似なんだ、もちろん母ちゃんも美人だけど」
その言葉にスセリは、納得した様な顔をしてその場から消えた。
「顔が良いのは否定しないんだねぇ」
小太郎の言葉に呆れてそう言う紫織に、小太郎は言い返す。
「自分の顔で、両親がほめられて悪い気はしないだろ。恵理花姉ちゃん可愛いし、紫織婆ちゃんも昔は綺麗だったって言われたら、悪い気はしないだろう?」
「昔は余計だよ!」
紫織は小太郎にそう文句を返し、その返答に呆れている小太郎に北斗は尋ねる。
「恵理花ちゃんを『姉ちゃん』って言うって事は、龍之君はやっぱり学年下なんだ」
そう北斗が言うと、紫織が北斗達の話しを遮る為に話し出す。
「悪いけど、そろそろ本題に入ろうかね。後で保護者と回るんだけど、この子の事を朝の集団登校の班の子供達に教えなきゃならない。けど間に保護者が入って上手く行く気がしないんだよ。そこでその子供達の家を三人で回って、子供達に説明してくれるかい。北斗の家には私から連絡を入れておくから」
「そう言うのは、葉司君や太耀君の方が得意なんだけどな……」
紫織の説明に北斗が自信無さげにそう答えたので、紫織は考える。
(恵理花を山車に使うのは、私的には嫌なんだけどねぇ……)
「何だい、恵理花と一緒に手伝うのは嫌かい? それなら葉司でも呼んで……――」
紫織がそう行い始めると、北斗はその言葉を途中で遮り言い返す。
「葉司君は今頃、家の手伝いしてるから無理だよ。……分かった、ボクがやる」
(まぁ、恵理花ちゃんと居る時間が増えるから良いか…… 上手く説明出来るかなぁ?)
そんな事を考えてる北斗に、恵理花は申し訳無さそうに話しかける。
「ごめん北斗君」
「気にしないで」
恵理花に北斗がそう返すと、小太郎が言う。
「そんじゃオイラは、住所の書いてあるプリント取って来る」
ドタドタドタ
そう言って小太郎は、靴を脱いで住居スペースへ向かって行った。
そんな小太郎を尻目に、紫織は北斗の自分への言葉に少し驚いて考えている。
(葉司は今は無理ねぇ…… 北斗にしては前向きな事だけど、どう言う心境の変化かねぇ)
一方で二階の自分の部屋へやって来た小太郎の左手に、一枚のプリント用紙が現われる。
(「これで良いのか鬼丸?」)
小太郎がそう鬼丸に念話を送ると、鬼丸が念話でお礼を言う。
(「上出来だ、後はタイミングか…… 悪いが何処でもいい、これから行く家の子供の親も巻き込んでくれ。此方の頼みが本題では有るが」)
念話で鬼丸にそう頼まれた小太郎は、クスクス笑いながら念話で返す。
(「フフフ、まさか貴様に子供の使いを頼まれるとはな。コレでも一応は常世の皇子の一人なのだがなぁ」)
★★★★
「それじゃぁ、最初はカバの家だね」
床屋を出た北斗、恵理花、小太郎は、始めに一番近い北斗達の同級生の家に向かう事を決め、北斗がそう言うと目の前の丁字路を進み始めた。
数歩歩いた後、小太郎は北斗と恵理花に聞く。
「なぁ、カバって誰だ?」
すると恵理花が、近くに有る建物を指差し答える。
「富司雄君て言うんだけど、ちょっと横に大きくて。そこの建物が富司雄君家の事務所兼会社で、あの目の前の家が自宅」
恵理花が最初に指し示した建物には、有限会社 境赤工業と言う看板が掲げられていた。
「有限会社って何?」
小太郎が興味本位で恵理花にそう聞くと、恵理花は少し困った様に答える。
「お祖母ちゃんが言うには、社員が株主の会社らしいんだけど…… 私まだそう言うの詳しく知らないの、ごめんなさい」
謝る恵理花に、小太郎は首を横に振ってから思う。
(と言う事は、普通の家より人は居るか……)
ガラガラ
事務所の二階で勉強をしていた富司雄は、外からの恵理花の声に気付き、窓の外に北斗達を見付けて窓を開け、三人に声をかける。
「何だ、葉司いないのは珍しいな。で、そのチビは誰だ?」
すると北斗が富司雄の方を向き、聞き返す。
「やぁカバ、この子は龍之 小太郎君。事務所の方に居たんだ、何してるの?」
北斗にそう聞き返された富司雄は、少し恥ずかしそうに更に言い返す。
「春休みの宿題の残りだよ、向こうだとゲームするからって……」
「跡取りなんだから確りしないと」
恵理花が富司雄にそう言うと、富司雄は少し情けなさそうに言い返す。
「分かってるよ……」
「カバ、ちょっと話しが有るんだけど?」
そう言って北斗は、小太郎に腕の話しを富司雄にする確認を取ってから、紫織から聞いた小太郎の話しを富司雄に説明した。
富司雄は小太郎の方を見、小太郎の手の色が白っぽい事を確認すると三人に言う。
「分かった。工場の方に鈴木さんが居るけど、呼んで来ようか?」
「鈴木さんって?」
恵理花がそう聞くと、富司雄は答える。
「近くに住んでる拓って言う小学生の父親さ」
「その子ならプリントに載ってるけど保護者の方は、また別に保護者が別に付いて説明するらしいからいいよ。まだ仕事終ってないんでしょう?」
北斗がそう富司雄に言い返すと、それを聞いた小太郎が鬼丸に念話で言う。
(「鬼丸、頃合いだ……」)
そうとは知らない北斗は、富司雄に話しを続けている。
「それじゃ残った宿題、がんばってね」
北斗がそう言い終わり、恵理花、小太郎と共にその場を去ろうとすると突然、恵理花の背後に鬼丸が姿を現し、恵理花を捕まえた。
「久しぶりだな小僧」
突然現われそう言った鬼丸に、北斗、恵理花、富司雄は驚く。
((!))
「と……友達が鬼に、皆助けて!」
富司雄が慌てて、大人達に助けを求めに行ったのを小太郎と鬼丸は確認し、鬼丸は楽しそうに北斗に言う。
「さて…… 貴様はこの状況で、掛かって来る勇気は有るか?」