「さて、そろそろ準備でもするか……」
鳳皇丸と天狗丸が戦った日の夜中、23時少し過ぎた頃。
そう言った鬼丸は、風丸、天狗丸と共に商店街の外れにある、空き家の前に居た。
「ここが、紫織殿が申していた家か?」
天狗丸がそう言うと、風丸が続ける。
「気付かれるなよ鬼丸」
「分かっている……」
そう答えた鬼丸の手には、いつの間にか小槌が握られていた。
「テーラ、メタル、アグア、アルボール、イグニス……」
そう言いながら鬼丸は腕を左、上、右、下に動かした後に小槌を真上に放り投げる。
「トニトゥルース」
空を舞う小槌は金色に輝き、落下してくる小槌を掴んだ鬼丸は、小声で叫びながら小槌で空き家を叩く。
「ウィータ」
すると空き家は、光と共に床屋へと変わった。
床屋には茨木理髪店の看板が付いている。
「中々の出来だな」
鬼丸が腰に手を当ててそう言いうが、天狗丸が文句を返す。
「見てくれは良くても、中見は如何かな?」
「甘く見るな。現代の床屋や、民家の内装は確認済みだ。仕事道具や生活用品は紫織の婆さん待ちだがな」
自信満々に、鬼丸はそう天狗丸に言い答えた。
★★★★
【4月8日水曜日の放課後 黒沢家客間】
「そう言えば校長先生、替わるみたいだね。渡辺先生が職員室で言ってたよ」
北斗がそう言い出すと薫が続ける。
「腰が治らないみたいですね」
薫がそう言い終ると、太耀が言う。
「校長先生は心配だけど、昨日はアイツ等が出て来なくて良かったと本気で思う。アラハバキが見付かるまでとは言え、流石に戦いが連日続くのは、勘弁して欲しい」
そう言う太耀に、葉司は思い出した様に聞く。
「そう言やぁ今更だけど、マンガやアニメみたいな光天の守護者ってネーミング何だよ?」
小馬鹿にした様子の葉司に、太耀は反論する。
「馬鹿だなぁ、キャッチコピーはモノを覚えてもらうのに良いんだぞ。お前の店でもやってるだろう、見てないのか?」
太耀に小馬鹿にし返された葉司は、少しムッとして言い返す。
「俺が言ってんのはセンスの方だよ」
「葉司の頭で覚えられたんなら、あのキャッチコピーは正解だな」
自信満々にそう言い返した太耀に、葉司が怒鳴る。
「てめぇ、俺を馬鹿にしてんのか!」
「まぁまぁ、二人共……」
ケンカを始めそうな葉司と太耀にそう言った北斗は、葉司に向かって続け言う。
「それじゃぁ葉司君が、センスの良いキャッチコピーを作って見せれば良いじゃない」
「それは、えぇっと……」
葉司が北斗の言葉に言い返せないで困っていると、今まで様子を窺っていたオモイカネが助け舟を出す。
「困っているなら、私が知織を貸してやろうか?」
「それなら、ボクの方も手伝ってよ」
オモイカネの言葉に北斗の方がそう返し、オモイカネは返事をする。
「良かろう。そう言えば恵理花は如何したのだ、先程から姿が見えないが?」
そう言ったオモイカネに薫は言う。
「多分、夕食の用意だと思います」
「紫織お婆ちゃん、知り合いの人が引っ越して来るから、挨拶に行って居無いんだって」
北斗がそう続けると、オモイカネは不思議そうに言い返す。
「この時期に来るとは、物好きもいるものだ」
「前から決まってたみたいだからしょうがないよ…… ボクちょっと恵理花ちゃんの様子見てくるね」
何か思い付いた様にそう言った北斗は立ち上がり、それを見た北斗も立ち上がりながら言う。
「俺も……」
しかしそんな葉司を、太耀が呼び止める。
「待て葉司、お前が行っても邪魔になるだけだろう。それとも会いに行きたいのか?」
「ぅんな訳あるかよ!」
太耀にからかわれ、葉司は少し顔を赤くしそう言い返すと、再度座る。
北斗はその様子を確認した後、恵理花の居る台所に向た。
(まぁ、僕の肩を持ってくれた礼は、これぐらいか……)
北斗を見送りながらそう思った太耀は、オモイカネに尋ねる。
「オモイカネ。北斗のキャッチコピー、僕も考えるから手伝ってくれ」
一方台所に着いた北斗は、スセリと一緒に居た恵理花を見付け、いったん心を落ち着かせてから恵理花に話しかける。
「恵理花ちゃん、何か手伝おうか?」
「ありがとう北斗君、でも大丈夫。それよりそろそろ帰らなくて大丈夫? 学校からそのまま来たし、もう直ぐ5時だけど……」
恵理花にそう言われ、北斗が壁掛け時計を見ると、確かに針は4時55分ぐらいを指している。
「ボクは大丈夫だけど、三人は帰った方が良いかも。知らせて来るね」
そう言って北斗は客間に退き返した。
「残念ね北斗……」
「何の事、スセリ?」
スセリの言葉に恵理花は疑問を投げ掛けるが、スセリが答える気気配は無い。
……がスセリはある事に気付く。
(……ボクは?)
そんなスセリを他所に、客間に戻って来た北斗を見て、太耀は言う。
「早かったな?」
「そんな事より帰らなくて良いの、もう直ぐ5時だよ?」
北斗のその言葉を聞いた葉司は慌てる。
「まじぃ、父ちゃんの手伝いする約束!」
葉司はそう言って立ち上がると、いそいで玄関へ向かう。
ガラガラガラ
靴を履き、玄関の引き戸を開けた葉司は、その場で台所に居る恵理花に向かって叫ぶ。
「恵理花、俺家の手伝い有るから帰るわ!」
「気を付けてね」
葉司の挨拶に、台所からそう恵理花の返事が帰って来た。
ガラガラガラ
ゴーン
ゴーン
ゴーン
ゴーン
ゴーン
葉司が帰って暫くすると、掛け時計の音が鳴る。
その音が鳴り止むと、太耀が北斗と薫に言う。
「僕達もそろそろ御暇するか、北斗はどうする?」
太耀にそう聞かれた北斗は、少し悩んでから言い返す。
「ボクはもう少し残ってるよ……」
「それじゃ、帰るぞ薫」
そう薫に言った太耀は、更に薫にこっそり耳打ちをする。
「これぐらい偏った応援をしてやらないと、北斗に勝ち目は無いからな」
耳打ちされた方の薫は少し考えた後、言葉の意味を理解し思う。
(……そう言う事ですか)
「そうですね、そろそろ帰りましょうか」
薫がそう言って太耀と薫が部屋を出て行くと、オモイカネが部屋を去る際に北斗に助言をする。
「北斗。狼王丸のキャッチコピーとやらは、スセリにでも聞くが良い……」
(「これで、家に残る理由は出来ただろうか?」)
オモイカネは念話で北斗にそう続け、北斗は念話でお礼を言う。
(「ありがとうオモイカネ」)
北斗が念話でそう返し暫くして、玄関から太耀と薫が台所の恵理花に挨拶を言い、恵理花が返事を返す。
「「お邪魔しました」」
「どういたしまして」
ガラガラガラ
ガラガラガラ
玄関の引き戸の音が止んでから、北斗は台所の恵理花の元に向かう。
「ちょっとスセリ、聞きたい事があって……」
台所に着いた北斗がスセリにそう聞くと、恵理花がそれを無視して北斗に尋ねる。
「北斗君、帰ってなかったの?」
「コレだけ聞いたら帰るよ」
再度台所へ北斗がやって来てそう言ったのを見て、スセリは二人に構わずクスクス笑う。
「どうしたのスセリ?」
「スセリ?」
笑っているスセリに、恵理花と北斗が不思議そうにそう聞くと、スセリは笑うのを止め二人に答える。
「ごめんなさい二人共。北斗貴方、以外にちゃっかりしてるわね。それで、私に聞きたい事って何?」
「狼王丸のキャッチコピーの事なんだけど……」
北斗のキャッチコピーの言葉に、スセリは頭を傾げ北斗に聞き返す。
「何それ?」
「太耀君が言った、光天の守護者みたいなやつ。皆が臣器覚え易くなるらしいから、皆で考えようって」
そう北斗に説明され、スセリは納得して言い返す。
「あぁ、二つ名や字みたいな奴ね」
「オモイカネが、スセリに聞いたらどうかって。それと字って何?」
「愛……あだ名みたいなモノかしら?」
スセリはそう北斗に返しながら、オモイカネに付いて思う。
(オモイカネも、年甲斐もないお茶目をするわね……)
そう思い終わったスセリは、北斗に相談された通り狼王丸のキャッチコピーを考える。
「それじゃあ、赤雷の艮毘獣とか如何かしら。艮は山の事、金属は山の力と言われ、毘は手助けや整える。しゃくは赤の事で雷は金属を打つ鎚……金鎚の事。ほら、雷っていかずちって言うでしょ。」
北斗にそう説明するスセリに、恵理花は自分の疑問を聞く。
「でも狼王丸って黒くない?」
「それは、その内分かると思うわ」
恵理花にそう返したスセリは少し悩む。
(それも含めて、北斗一人でどんな感じか確かめたいわね……)
そんな事を考えているスセリに、念話で鬼丸の声が届く。
(「それなら俺が相手をしてやろう!」)
(「何時から鬼は、女の心を覗く悪趣味が出来たのかしら。……それより如何したの?」)
(「婆さんのお使いだ、鬼は女の心そのものだと言うのに何を言っている。それより余り此方に集中するな」)
(「そうね……」)
鬼丸に促され、スセリは北斗の方に意識を移す。
北斗はスセリの考えたキャッチコピーを、採用するかどうか悩んでいた。
「如何、気に入った? 因みに赤い色は生命力や行動力を意味しているわ、私達出雲の神とは余り相性は良くないんだけど」
スセリのその言葉を聞いた北斗は思う。
(行動の力かぁ……)
北斗は少し考えてから頷く。
「ありがとうスセリ、この言葉使ってみるよ。でもこの言葉って分かり易いかなぁ?」
そう言った北斗にスセリは答える。
「分かり辛くて、却って覚えてくれるんじゃないかしら?」
「まぁ、そう言う事にしておくよ。恵理花ちゃんも、晩ご飯の準備の邪魔しちゃってごめんね。それじゃあボク帰るから」
恵理花にそう言って、北斗は台所を後にした。
北斗を一時的に見送りながら、スセリは鬼丸に念話で言う。
(「鬼丸、さっきの話し」)
(「分かっている、少し待っていろ……」)
鬼丸がそう念話で返し暫くすると……
ジリリリリリリン
ジリリリリリリン
黒沢家の電話が鳴った。
「はい、黒沢です……――」
ガラガラガラ
ガラガラガラ
靴を履きながら、電話に恵理花が出た事を確認した北斗は、電話の邪魔にならない様に黙って家の外に出た。
その後北斗が暫く家路を歩いていると、後ろから恵理花に呼び止められる。
「待って北斗君。お祖母ちゃんが手伝って欲しい事があるって!」