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四十二話 舞台準備

B10に向かった二人を見守った後、メデューサさんにお礼を言う。


「ありがとう、メデューサさん。あ、それとこのガードさんの首、どうしたらいいかな? ここまで案内して貰ってすごく助かった。元に戻してもらえると良いんだけど……」


メデューサさんが左腕の蛇を伸ばして、僕が両手で持った首を持っていった。どうやらダンジョン側で何とかしてくれそうだ。良かった。


「ガードさんに首を斬っちゃってごめんって伝えておいてね。そしてお待たせしました。やっと準備が整いました」


メデューサさんの雰囲気が変わり、首を持っていないもう一方の腕の蛇を伸ばし、僕に巻きつけてくる。いよいよ本番だ。蛇の額あたりに自分の手のひらを押し付け、僕の作戦を伝える。ちょっと時間がかかってしまうが、できる限り綿密に計画を伝達し、そして最後にお願いをする。


「ゲートでポータルに転送した時が最終決戦です。もちろん最善を尽くすつもりですが、最悪の事態として僕が再起不能になる事もありえます。その時はメデューサさんに後を託すしかありません。その時はよろしくお願いします」


答えは返ってこない。けれど蛇を通して意志は伝わってくる。もうすぐB10に向かった2人が戻ってくるだろう。伝えたい事はすべて伝えたし、いよいよだ。賽は投げられた。


メデューサさんの腕の蛇が、僕の左手に噛み付き、肘の先から噛み千切られる。また脱出ゲートをいくつか入れた小さなバックパックも腕の蛇に渡しておく。ついでにメデューサさんの毒を軽く浴びる。ふむ、コレくらいで良いかな。


「じゃあ、準備ができたら”それ”に合図します。お互いに幸運を」


別れの挨拶を交わすと、メデューサさんは転移して居なくなった。ようやくここまで来た。さあ、最後の仕上げだ。



「おい、サノ!お前まさかメデューサとやり合ったのか!……って思わせたいような見た目だな」


「あれ、わかっちゃいます?結構ヒドイ格好になったと思うんですけど」


「本気でメデューサとやりあえば振動や音が聞こえるはずだし、どうもやられ方がわざとらしいんだよな。何度もメデューサとやり合ってると、わかるもんだ」


「そうですか…… でもマール様には気付かれませんよね?」


「あの人は戦うどころか、現場にすら来ないから、見破るのは無理だろうな……。って、どういう意味だそれ」


「それよりB10はどうでしたか?僕はまだ見るつもりは有りませんが、どんなところかは教えてほしいです」


「ああ…… お前さんが言っていた上級って意味が分かったわ。床から壁、天井まで何もかもが違う。多分B10は裏口なんだろうが、それでも世界が違う。お前さんに忠告されるまでもなく、俺達には不似合いな場所だった」


なんだろう、ホルガさんが雰囲気を出している。B10に何があったんだろうか。


「サノじゃなく、一緒にB10を見たミカディさんにこそ聞きたいんですが…… この宇宙船、もう従業員も乗客も生きていないんじゃないんですか?」


「……多分、この宇宙船は何かの事故で、この星に墜落したんだろう。その時はまだ生存者はいたと思う。救難信号が出ていた記録があるからね。でも20年ほど前に最後の信号が出て、その後は途絶えてるんだ」


「ただ宇宙船の機能だけはまだ生きていて、俺たち探索者を今も排除しようとしてるって事か……」


そう言ったきり、ホルガさんもミカディさんも黙ってしまった。本当はもう少しここに居たい気がするけど、僕にはやることがある。


「二人にお願いがあります。まずマール様に報告するにあたり、B10を見た事は黙っていて下さい。そして今回の探索で僕ら3人がB10への扉がある隠し部屋を見つけたが、その部屋にメデューサが現れ、戦ったが勝ち目が無かったため撤退した、という事にして下さい。良いでしょうか?」


「それは良いけど、なぜそんな事をするんだい?」


「僕が第5世代のエーテルボディの使用者に選ばれたいからです。B9の出口を見つけた目ざとい僕に最新のエーテルボディを使わせれば、B10やそれ以降のフロア探索も確実に早まるとマール様は考えるはずです」


「……それはわかる。でも君の本心が分からない。なぜそんな回りくどい事をするんだい?」


「……マール様のためです」


自分で発言して、ここまで心がこもらないとは思わなかった。ヘタな嘘をついた僕は、今どんな顔をしているんだろう。そして僕同様に、サギ女神の信者ではなさそうな二人にも、そんな僕の白々しい気持ちが伝わったんだろう。ホルガさんは明らかに苦笑いをし、ミカディさんは呆れたような顔をしている。


「サノくんの嘘はわかりやすいね。ところで君はマール様にこれからも尽くすのかな?」


「ミガディさんがマール様に忠誠を誓う方であれば、はいと答えます」


わずかな沈黙後、あっはっはっはと笑い声が響く。愉快で仕方ないという感じだ。ミカディさんもこんな風に笑うんだな。


「面白いね、サノくん。私は本当の体を人質に取られて、家族にも会えず、今もこうして終わりが見えないダンジョン探索という、宇宙船の盗掘に勤しんでいる。もしこの宇宙船が当時の最新で最高性能であれば、上級客室や船のメインルームのあるこの先は宝の山だろうね。でもそれを見つけても私のモノにはならないし、セキュリティは段違いに厳しくなるだろう。いつ終わるか分からない地獄のような日々を押し付けてくるあの悪魔に、私が忠誠を誓っているように見えるのかい?」


ああ、この人も同じだ。あのサギ女神によって不幸になった人だ。顔は笑っているけど、強く握りしめた手に憎しみと悲しみが見える。


「ミガディさんがあのサギ女神に思う所があるならば、僕の行動を黙って見てもらえると助かります」


僕が突然、ポータル管理者の事をサギ女神と表現した事に二人は少しびっくりしたようだが、言い得て妙な表現だと納得してくれたらしい。そしてほんの少しだけ考えていた様子だったが、すぐに快諾してくれた。


「君が隠し扉を見つけてくれた時、私は君に光明を見たよ。この監獄のような場所で、私は君に希望を見つけた。裏切られたら見る目がなかったと思って、また盗掘作業に励むよ。だからどうすれば良いか、指示して欲しい」


「ポータルに帰還後、僕は治療を受けますので、お二人は僕を置いてまたこのフロアの探索に戻って下さい。ただ、この隠し部屋に入らないで下さい。多分ロイヤルガードの許可がないので、押し戸が開かないと思いますが」


「私はガード諸君と面識がないから、許可を貰えそうにないな。じゃあこの隠し部屋を探すふりをしているだけで良いのかな?」


「はい、あのサギ女神はヘリオスチームも同行させると思います。それも大切な要素です」


「ああ、彼女のお気に入りをこっちに引き付けておく必要があるんだね。わかった、喜んで協力しよう。僕たちは偶然、隠し通路を見つけた。でもメデューサに遭遇し、サノくんの奮闘により何とか脱出できた。サノくんは治療のためポータルに残るけど、代わりにヘリオスチームと一緒に、もう一度隠し部屋の探索とメデューサに挑戦する。ホルガ君もそれでいいね」


大きく頷くホルガさんを見て、いよいよ舞台と役者が揃いつつある事を感じた。さあ、これからが最後の幕引きだ。

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