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四十一話 突破

迷いもなく探索済みのロープが張られた通路に進む新入り。通路に入るのかと思いきや、通路と通路の間の壁をガードの頭を抱えながら触る。他の壁と特に見た目上は違いがないようだが、何か違うんだろうか。しばらく触り、そのまま通路に入っていく。通路には特に異変もなにもない。


「ここですね」


サノが通路に入ってちょっと歩いた所で足を止める。分岐どころかB8からの螺旋階段がここから見えるくらいに中心部から近い。そしてサノが示した壁も床も天井も、やはり見た限りでは他との違いがわからない。しかしサノだけが確信したように、通路の左側の壁にやはり先ほどと同じように手を当てる。俺もミガディさんも半信半疑で見ているだけだ。


「認証が無事に終わりました。では下に行きます」

は?今ので何か変化あったか?どこから降りる?やはり騙されてないか俺たち?


しかしそんな事はお構いなしに、サノは今度は反対側の壁に向かって歩く。そしてやはりガードの頭を抱えたまま、右手で壁を押すと、壁が押し戸のように向こう側に動き、サノが壁の中に入っていった。


サノが居なくなると、壁が元の位置に戻り、周囲と全く同じような見た目になる。凝視してもつなぎ目が見えない。恐る恐る壁を押すと、意外と簡単に向こう側に動く。サノにもこのフロアにも騙されている気分だ。


「まいったね。これじゃ探してもわからない訳だ。ひどい仕組みだね……まぁいい。ホルガ君、行ってみよう」


「いや、それはいいんですが、目印付けなくて良いんですか?次に来た時、絶対にこの場所見失いますよ」


そうだね、と笑うミガディさんだが、まず中を確認してからという事で壁の中に入っていき、俺もその後に続く。押し戸の向こう側は薄暗くて狭い下向きの階段になっていて、サノがこちらを向いて待っていた。


「一度認証をいれると、一定時間だけこの押し戸のロックが解除されます。しかしその時間が過ぎると、もう一度認証からやり直しです。あと押し戸ですので一方通行、つまりこの中から通路には戻れません。ちなみにこの壁の押し戸って、地球ではネコが通るドアにそっくりなんです」


……何だ最後の情報は。今それ必要か?


「ここは宇宙船の一般乗組員には知らされていない通路なんだね。それにもし知られても大人数がまとまって通れないように、通路を狭くして時間で鍵がかかるようにしている、ってところかな。これじゃあ2年間探しても見つからないわけだ。ねぇホルガ君」


「ええ、ふざけるなですよ。こんな通路、2年どころか20年かかっても見つけられっこ無い。見つけられたのは新入りのお陰ですよ」


「まだ最後の難関があります。気を抜かないで下さい」


これ以上の難関があるのか?という俺の疑問の声に答えず、サノは右に旋回する階段を降り続ける。そして下の階層に付くと、行き止まりの横に小さな入口がある。


「あの曲がった先にあるのはB9フロアの監視室だそうです。ただ他にも、この秘密の通路が一般乗組員に発見されて侵入された場合には、そこで防衛する事も想定されているそうです。この宇宙船の設計者はとても性格が悪いので、セキュリティは何重にも掛けてるんですよ、だからそこの監視室も何かあると思います。まぁとりあえず入ってみましょう」


性格の悪いフロア設計者、という説明に妙に納得しながら狭い入口をくぐり抜けると、そこは最外壁と同じ素材でできた円形状の広い部屋だった。真ん中には丸い大きな柱があり、そこには探し求めていたB10に続くであろう扉があった。あまりに予想外の展開だったが、俺はようやくゴールを見つけた感動と2年に渡る苦労した思いが溢れ出てきた。両手を挙げてついにやったぞと叫んでいたかもしれない。部屋の中に見知った怪物が居なかったらな。



……なんでメデューサがここにいるんだよ!



「これは質の悪い冗談だね。まさかメデューサが待っているなんて。そこまでして探索者たちを排除したいのかな?」


武器を構えながら軽口を叩いているミガディさんと違って、俺にはもう余裕がない。何故か今はじっとしているが、いつこっちに襲いかかってくるのか戦々恐々だし、この人数で勝てる相手ではないし、こいつを倒さないとB10に行けないという絶望感と緊張で胸が張り裂けそうになる。


「あ、大丈夫ですよお二人とも。僕がメデューサさんの相手をしますので、どうぞ先にB10に進んで下さい。このフロアで2年間も頑張ってきたお二人こそ、B10を一番最初に見るべきです。ただ気をつけて下さい。B10にとって探索者は正真正銘の招かれざる客です。扉の中から見るだけなら大丈夫でしょうけど、フロアの中には入らないでください。B10への扉を見つけた事とマール様に報告する、それがお二人の仕事です」


「サノくん、君は初めて会った時から突拍子も無い事を言うけど、今回は酷いよ。メデューサを一人で相手するって、本気で言ってるのかい?君を一人で残して行くほど薄情ではないつもりだけどね」


ミガディさんはそう言うけど、俺は正直サノに全部まかせて先に行きたくて仕方なかった。俺は何度もメデューサに負けたが、まさかB10を目前にしてやられるのは悔しくて情けなくて、やるせなかった。負けたらB5からやり直しなんてまっぴらだ。でも、やるしかない。


「メデューサさん、申し訳ありませんが、ちょっとそこをどいてもらえますか? このお二人がB10に行きますので。あ、大丈夫です。フロアの中には入りません。扉から中を見るだけです」


おい、サノ!メデューサに何言ってるんだ!通用するわけ無いだろう!ふざけてんのか!


そう怒鳴ろうとした矢先に、蛇の怪物はスルスルと体をうねらせて、扉までの道を開けた。はぁ???なんだ?このメデューサはサノが作ったニセモノか?というか、こちらを見ながら何もしてこないメデューサ自体、信じられん。いつもだったらこっちを見つけ次第、問答無用に仕掛けてくる敵なのに。何が起きてるんだいったい。


流石に頭がクラクラしてよろけてしまった。ミガディさんも今度ばかりは後ろに仰け反っている。そりゃそうだろ。天敵とも言えるメデューサが黙って待っているどころか、素直にサノの話を聞いてどいてくれたんだ。なんだ、どこでおかしくなったんだ?さっき補給した俺のエーテルチャージには酒でも入ってたのか?それとも騙し討ちでもされるのか?


「メデューサさんに勝てる探索者はいませんよ。そんなメデューサさんが何で騙し討ちするんですか?大丈夫です。見てくるだけなら。さあ、行って下さい」


サノがロイヤルガードの首を持って現れてから今の今まで、俺は夢を見てるのかどうにかなっちまった気がする。しかも最悪な事に、サノはここまで何一つウソは言ってない。


という事はだ、メデューサはここを通してくれるって事だ。もういい。どうせまともに戦ったら負けるんだ。フザけた夢ならB10に行ってやるぜ!


腹をくくった俺は、武器も構えずに堂々とメデューサの前を通って、2年間探し続けていた扉に向かう。メデューサの射程範囲に入った時には、この体にないはずの心臓がバクバクしているように緊張したが、本当に何もされずに扉の前に到達してしまった。


見るだけですよ、中に足を入れてはダメですよと何度も念押しするサノに手を振りながら、扉をくぐる。さっきと同じような下りの螺旋階段を進んでいく。このフロアを探索し始めてからの思い出が次から次へ思い起こされ、涙は出ない体だが、上を向かずには居られなかった。


ふと気づくと、すぐ後ろにミガディさんが居た。狐につままれたような雰囲気だったが、その気持は痛いほど分かるのでつい苦笑してしまった。


「なんだか信じられないね。本当にメデューサが何もせずに通してくれたよ」


「あの新入り、何なんでしょうね?ペテン師か魔法使いか、それとも救世主なのか」


「救世主か…… 案外、そうかもしれないね。さあ、魔法が解けない内にB10を拝んでこようか」


不思議と、螺旋階段を降りていくのが楽しく思えた。

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