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三十六話 B8

場所はすでにB6の広場を歩いていた。


「3年前っていうと、アイトさんと同期なんですか?」


「ああ、ほとんど一緒だな。その頃、第4世代のエーテルボディが本国とやらからたくさん運び込まれたらしく、俺以外にもメイウェズから4人、地球からも3人くらい拉致されたなぁ。狐娘もその中にいた。……かわいそうに、ものすごく怯えていたのを覚えてる。あのクソ…… いや、この言い方はまずいな。マール様に気に入られてはいるが、本人は嬉しくないだろうな……」


B7は、やはり前回来た時と同じように、モノポールの海と対磁極の罠が作動していた。マゼランポイントを介した情報網で、ホルガさんにもこの抜け方は伝わっていたが、とりあえず僕が実際にその方法を実演する。


「このB7は以前、俺の故郷に似た風景で密かにお気に入りだったんだが、すっかり変わっちまったなぁ。このエーテルボディがあれば、ダンジョン探索なんてそれほど難しくないだろうと思ってたんだが、ダンジョン側もどんどん進化してやがる。参っちまうよなぁ……」



扉をくぐると、僕にとって初めてのB8となる。そういえば新しいフロアに入る時は、いつもアイトさんと一緒だったな。あれは今思えば贅沢だったかも。


そんなホルガさんに失礼な事を思いながら、目の前の景色を確かめる。B9突破を目標とした以上、このフロアは単なる通過点でしかないが、それでも初めて見るB8フロアは多分一生忘れられない光景となった。


そこは瓦礫の山だった。コンクリートとも金属とも異なる、見たこともない素材で出来た建物の廃墟が立ち並ぶ街だった。もともとは背の高い建造物が整然と並んでいたんだろうけど、どの建物も見るも無残に破壊され尽くしていた。建物と建物の間の道路も、さまざまな残骸や塵芥で埋め尽くされており、平らなところは何一つ無かった。フロアが無風なせいだろうか、街が破壊された時の空気がそのまま時間の流れから取り残されているように感じる。


「ホルガさん、このフロアは元々こんな廃墟だったんですか?」


教科書でしか見たことがなかった、僕が生まれる前に大都市で起きた大地震の後はこんな状態だったのだろうか。映像でしか見たことがなかった、地球の紛争地域の都市はこんな風景なのだろうか。


「ああ、お前さんはここは初めてか。そうだな。俺が来た時からこんなだったよ。6,7年前にアイギスとの戦闘でこうなったらしい。このダンジョン内で銃火器が使われた最後の場所だそうだ」


そう言いながらホルガさんはスタスタと歩き出す。よく見ると山中の獣道のように、なんども探索者が歩いた足跡が積み重なってできた道らしきものがあった。しばらく進んだ後、周囲よりひときわ高い崩れた建物に、なぜかホルガさんが登っていった。


「サノ、ここに来てみな」


言われた通りに建物の上に登ると、フロア全体が目に入った。山に囲まれた小さな田舎町くらいの大きさがある。しかし見回す限り、あらゆる建物が崩れ去っていた。


「あの壁掛け時計が、B9への扉だ」


指さした先は、はるか遠くに見えるフロア正面の壁の、その真ん中にある確かに壁掛け時計に見える丸い構造物だった。遠すぎて詳細は分からないが、正面の壁近辺だけは被害が少ないように見える。


ダンジョン側の兵器であるアイギスが、このフロアの建物をすべて崩壊させてまで守ろうとした物があの先にあって、そしてここで凄惨な戦いを経験したポータル側が、なおも諦めずに探索を続けている。このB8だけでなく、一つ前のB7もモノポールの海によってすべてがグジャグジャになってしまった。このまま探索が続けば、B6の公園もまた同じ崩壊の未来が待っているんだろうな。


「そしてアイギスによる爪痕が横の壁だ」


フロアの側壁には、この空間を囲うように金属の残骸がジャンクヤードを形成し、壁に向かって長大に積み重なっていた。右の壁も左の壁も、いろんな大きさや形の金属が壁に向かって積み重なってフロアを睥睨している。まるで壁に重力があるように。


「強磁場で壁に金属が吸い付けられているんですか?」


「ああ、今も磁場は生きていて、磁石にくっつく物を持ち込んだら一発であの瓦礫の山の仲間入りだ。気をつけろ」


古びた金属の膨大な山が、フロアの左右の壁全てに渡って覆い尽くしている。ここは鉄くずに周りを囲まれた、すべてが破壊された街なんだと実感する。もの凄い量の鉄くずは、建物の中にあったのか、それとも探索側が持ち込んだ兵器なのか、もはや識別できない。もし磁力が切れたら、あの金属が津波のようにこのフロア一帯を飲み込むだろう。そんな恐怖が頭をよぎる。


「俺らB9の探索担当は、ほぼ最短距離であの時計台に続く道を行けばいい。上空から攻めてくるカラスや蜂も、どこか適当な廃墟に身を隠せばなんとかなる。倒しても良いが、できるだけ消耗は避けたい。なにせB9に入ったら2ヶ月はこもりっぱなしだからな。このフロアの敵については、常駐班に任せた方がいい。ほら、あそこで戦っているのが常駐だ」


言われた方向を見ると、巨大な牛を相手に戦っている探索者が見える。声や音はほとんど聞こえないが、集団でうまく立ち回っているようだ。


「あいつら常駐班がこのフロアの通り道を守ってくれている。今のうちにここを抜けよう」


B8とB9の間にマゼランポイントが無い以上、どれだけB9へ人材や物資をスムーズに運べるかが重要となる。このB8の常駐班は、入口と出口の間をなんども往復して通り道を維持しつつ、出現する敵を間引く事で、間接的にB9の探索を支援している。時にメデューサも出現するらしいが、その時は無理せず撤退しB8を閉鎖していとの事。こんなことを2年近くも続けているのか……


常駐班の戦闘に加わって体長3mはある巨大な牛とコンパウンドボウで戦いながら、ホルガさんがB8の状況を教えてくれた。


「その矢はこのエリアで使い切っても大丈夫だ。どうせB9の迷路だとほとんど使うことはないからな」


という事だったので、遠慮なく牛の頭部に3発撃ち込むと、その巨体は地面に沈んだ。メデューサさんにはほとんどダメージを負わせることが出来なかったコンパウンドボウだが、このフロアの敵には十二分に威力を発揮している。


廃墟の陰から建物を崩しながら瓦礫を掴んで攻撃してきた巨大なサルも、頭部ど真ん中に矢を命中させると、一発で戦闘不能に陥った。やっぱりメデューサさんだけが異質な存在なんだな……というかメデューサさん、小学生の相撲大会に出場している大相撲力士みたいな存在だよな。勝負にならないし逃げた方がいいわ。



すれ違う常駐班と挨拶を交わしながら、道なき道を進む。上空からハンググライダーに見間違える位に大きいカラスも襲ってきたが、ホルガさんに相談して倒すことにした。隠れてやり過ごす間に、他の敵が集まってくる事もあるしね。


矢を右手でカラスに見えにくいように隠し持って、棒立ちして突進を誘う。僕より大きいカラスがこちらに向かってくるのに合わせて、地面に尻もちをつくように座り込む。そのまま臀部で体を支えながら、両足を上げて足首に固定していたコンパウンドボウに矢をつがえて撃つ。いわゆる曲芸撃ちだけど、ツノのセンサとこの鬼人ボディに蓄えられてきた戦闘技術で、巨大カラスの首に狙った通りに矢が突き刺さる。至近距離で矢を食らったカラスは錐揉みしながら、近くの壊れた建物にぶつかった。


「自分を囮にするとは、面白い撃ち方だな。外した時の事を考えると怖くないのか?」


「矢の他にもう一つ攻撃を用意してますので、そんなに怖くはないですね」


「俺も真似して、足で武器を振れるように練習してみるかな」


「相手の油断を誘うのがコツですよ。でもメデューサさんには通用しないでしょうけど」


違いない、と二人で笑う。じゃあさっさと蛇の怪物が出ないうちに行こうぜ、と足を速めるホルガさんだったが、あいにくその後も巨大牛や巨大サルと何匹も戦う羽目になった。


「常駐班が敵を間引いた上でこの敵の数だから、もし常駐が無くなったらB9に着くまでに相当消耗しますね」


「だろ?あの安全な宇宙にいるクソ女にはそれがわからないんだよ。いつか首根っこを押さえて、B9まで連れてきてやりたいんだがな」


なかなか物騒なことを口に出すホルガさん。ホント、現場に来ないし現場の信頼もない最悪な上司だよな、あのサギ女神。

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