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三十四話 反逆への一歩

ポータルに戻った後、サノさんのサポート任務を外され、元の仕事になった。私の従来の仕事はB5からB9を定期的に周回し、フロアや探索者の状況を表と裏の両方から調査する事。ダンジョンの中に入ってしまうと、ポータルからの通信は一切できなくなり、またアイギスによって録画する機械なども持ち込めない。そのためマール様の代わりに私を含めた数人が実地確認をして報告を上げる任務に就いている。


敵と戦ったりフロアの仕掛けを対策する必要が無いため、探索するより安全には違いないけど、出来る限り他の探索者の力になれるように頑張っているつもりだった。でも探索者の人は、私に対して一定の距離を置いているのが分かる。多分、私の後ろにいるマール様を恐れての事なんだろう。自分ではそんなつもりはないのに、私が陰の監視役だと思われているのが嫌でたまらなかった。


そうだ、急いでB7に戻らないと。サノさんがどうなったか確認しなきゃ。私にはモノポールの力は効かないって事は、私ならみんなを助けられるはず。


そう思ってマゼランポイントに転移すると、そこには守備隊の人達の他に、B7で作業をしていたメンバー全員が揃っていた。良かった、みんな脱出できたんだ。


「みなさん!無事に脱出できたんですね!……サノさん、サノさんは居ないんですか?私と一緒にB7に入った、黒と青の迷彩色のボディの人ですが、まだ脱出していないんですか?」


「おう、アイト。お疲れさん。何だかB7でとんでもない事が起きてるらしいな。俺も話を聞いてるが……

あとあの新人はこっちには来てない。ってことはまだ一人で残ってんのか? まぁ、アイツなら何となく大丈夫な気がするんだけどな」


ギゼさんの言葉に愕然とする。まだサノさんはあのフロアに居るなんて……もしかして他の人を脱出させて自分が脱出できなくなっているんじゃ……?


「わかりました、私が急いでB7に向かって確認します。今、B7ではモノポールの海、という罠が働いていて、特殊な土を水のように操って私達を押しつぶそうとしてきます。詳細や対策は後ほどポータルから出てくると思いますが、B7に入るときにはくれぐれも気をつけて下さい。」


わかった、気をつけてな、というギゼさんの言葉を聞き流しながら、全速でB7に向かう。私ならB5もB6もノンストップで抜けられる。サノさん、無事でいて下さい。絶対、死んじゃダメですよ!



「なるほど。今このフロアには4体の死神がいるのか…… 一列に並ぶと力場でフロアの横幅をほとんどカバーできるんだね。設計者、こういう基本計算はしっかりしてるよなー」


最速で戻ったB7では、黒い人型の初めて見る敵らしき存在が4体と、それに向かい合って話しかけているサノさんがいた。サノさんが妙に楽しそうなのは気のせいだろうか?必死でここまで来たのに……


それでもサノさんの無事そうな後ろ姿を見た時、血液のない体なのに体中が熱くなった気がした。思わずサノさんに飛びつきたくなった。なのに。


「あれ?アイトさん、おかえり。早かったね。みんな無事に脱出できてた?こっちは今調査中で目が離せない。ごめんねー」


心配で心配で、必死にここに来たのに、なんでそんなに余裕あるんですか?!私のこの感情、どうしたら良いんですか!もー!


「……サノさん、無事だったんですね。お陰でみなさん、無事に脱出できました。ありがとうございます」


あ、ダメだ。感情が抑えきれない。だめだ、冷静に、心と感情を切り離せ。サノさんに自分のこの感情を悟らせないように……


「いやー、最初は潰されるかと思ったんだけど、慣れると面白いんだよ。ちょっとフロアが散らかっちゃったけど、まぁ無事に通り抜ける方法がわかったから良いよね」


「面白くないです!ホントに心配したんですから!」


だめだ、冷静になれない。もー!


「心配してくれてありがとね。お陰で無事だったよ。ところでサギ女神、何か言ってなかった?」


こっちの気持ちなんて知りもしないで、いつも通りのサノさんに少しムカつくし、ホッとする。


「あの粒子、モノポールって言うんだそうです。それより私、本当に心配───」


「モノポール!存在したんだ!うわー!すごい、そっかあれがモノポール粒子か!へー!」


興奮するサノさんにはもう私の話が聞こえてない。何だかもう、いろいろ疲れちゃった。そんなにすごいの?モノポールって……



「4体いても、連携とってるわけじゃないんだよ。このダンジョン設計者の悪いところだよね」


そう言いながらサノさんが矢を放つと、当たった人型の敵が地面から黒い土を巻き上げ始めた。周囲が真っ黒な霧で埋まり、土が渦となって更に水のようになってうねっている。あれがモノポールの海……小さい頃、校庭に自然発生した大きな竜巻を見て、子供心に自然の恐怖を味わった事を覚えている。それを凝縮したような怖さがあんなものに巻き込まれたら……というかあれがこのフロアのみんなに攻撃していた正体だなんて……


「誘導は簡単だし、力場の発生中はまったく動かなくなるから、仕組みがバレたら罠として役割果たせなくなるよね。いわゆる初見殺しってやつかな。アイトさんの短弓でも多分アイツ反応するよ。やってみる?」


ドリンクバーの飲み物ボタンを同時に押してみたら?程度の軽さでサノさんが説明してくる。もうちょっと緊迫感があってもいいんじゃない?と思うけど、こういう人なんだとだいぶ慣れたので、とりあえず言われた事を試してみる。


短弓で人型の頭部を狙い撃つと、とたんにそれは宙に浮いて、土を巻き上げ始めた。単純だけどもの凄い力が発生している事は見ただけでわかるので、やはり怖い。なのに隣で「現象はブラックホールなんだけど、何となく洗濯機に墨汁を間違って入れたような感じに見えるよねー」とか呟かれると、緊張感が薄れてしまう。


「そういえばマール様は、モノポールを吸い寄せる物体の事を対磁極と言ってました。それを避ければこのフロアを抜けるのは問題ないとも」


「へー、対磁極か、なるほど。……ポータルに戻った時に時間があったら、モノポールの資料をゆっくり読まないとね。あとサギ女神の言う通り、あの対磁極を見失わないようにすれば、二度とこの罠にはかからないと思うよ。効果範囲はっきりしてるから、さっきみたいに遠距離攻撃して、位置が止まっている内に避けて行けばいいんだから」


B2のロボット防衛に続き、あっさりとこのフロアの突破方法を見出してくれるサノさん。本当に感謝だ。正直に言えば、もっと一緒に探索したいのに……


「マール様から、サノさんが無事に帰還した場合、B9の探索チームに入るように、との事です。あと現在、ポータルには第5世代のエーテルボディが準備されてまして、誰が使うかマール様が検討しています。最前線にいるヘリオスチームが第一候補ですが、サノさんも候補に入っています。」


「……第5世代?」


「はい、説明を受けただけですが、メデューサと1対1でも戦えるように開発された最新のボディだそうです。でもサノさん、今の体でもメデューサと1対1で戦いましたよね……もしサノさんがその第5世代に乗り換えたら、メデューサを一人で倒せるんじゃないでしょうか?もちろん魂とボディの相性によっていろいろ問題もありますが……」


「……最新の第5世代……今は誰も使ってない……ポータルにあって乗り手を待っている……」


急にサノさんが黙り込んで考え始めてしまった。え?今の鬼人ボディでもすごい結果を出しているのに、新しい体に興味がある?ちょっと意外……


「アイトさん、B9ってどんな所で、今どんな状況なの?」


「あ、はい。B9はとても広いフロアで、いくつかの長い通路で出来た迷路のようになっています。曲がりくねった迷路ではなく、何本もある真っ直ぐな道なんですが、途中から枝分かれする形で迷路になっています。あと多分なのですが、迷路の壁が動いてしまうようなのです」


「まだ攻略できていない?」


「はい、皆さん非常に苦労されています。地形が動いてしまうので正確な地図が作れない、待ち伏せする敵が多い、そして敵も強くて多い。メデューサも頻繁に邪魔をしてきます。更にB5から遠いため、物資や人の援助が滞りやすいという難関です。本当はB8とB9の間にマゼランポイントがあると良いのですが……」


B9にいる探索者達は、2つめのマゼランポイントをB8の終わりに設置してほしいとマール様に嘆願している。それだけB9に苦労しており、最初に踏み入れてから2年経過してもなお、踏破の見込みが立っていない。


ところが状況や現場の苦労を知らないポータル管理者は「バカねぇ、そんなにB9が大変なら、B9の最後にマゼランポイントを作るべきでしょ。そうすれば次からB9をパスできるじゃない」とあっさり却下してしまった。そして2年経っても未だに進まないB9探索に、マール様は相当イライラしている事を私は知っている。しかし自分が言い出したことを撤回できない性格であるため、誰しもが不幸な状況となっている。


「ふーん、じゃあB9を突破できたら、マール様は相当喜びそうだね」


あれ?サノさんがマール様を名前で呼んでいる。


「じゃあ、マール様に会いに行って、B9探索に入れてもらおうかな」

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