三十三話 モノポール粒子
「モノポールね、コレ」
必死でポータルに戻った私が、B7で起きていた現象と持ち帰った土をマール様に報告すると、あっさり答えが返ってきた。でも意味がわからないので、頭を下げてへりくだった。
「モノ、ポール? 申し訳ありません、マール様。モノポールとは何なのか私にはわかりません。教えていただけますと助かります……」
「ああ、地球には無いのね。モノポールって磁石の単独極、分かる?N極かS極だけの単体って事」
「はい、何となくわかりました。でもなぜモノポールでB7フロアが荒れ果てたり、探索者が動けなくなったりするのかがわかりません」
「モノポールの粒子を水のように操ってるのよ。1つ1つは目に見えない位の大きさだけど、もの凄い密度があるから、集めればそれだけで相当な重さになるわ。対になる磁極を加えれば、さらに見かけ上の重さが倍増する。本国ではモノポールの海って言ってたかしら……。なるほど、このモノポールを浴びせて更に床から対磁極を使って引っ張れば、エーテルボディでも動けなくなるわ。それどころか磁極に近ければボディが圧壊するかもしれない。厄介ね」
原理は完全にはわからなかったが、サノさんのいう通り、土に似たモノポールが原因だった。ならサノさんに託されたもう一つの事を尋ねる。
「あの、私にはそのモノポールが反応しなかったんですけど、それは……」
「アンタのボディ、索敵センサに光電磁気の相転移を使ってるもの。だから索敵中はモノポールも電気も弾くのよ。アンタならモノポールの海も中心近くでなければ動けるかもね。そうね、それを応用すればシールドにはなるかもしれない。」
「!じゃあ、それを急いで用意して頂けますでしょうか!」
「なんで?」
え? ……何を言っているの、この人。今のままじゃあ、B7に居るみんなを助けられない。そのモノポールを何とかしないとダメなのに、何を……
「あのね、バカな貴方にも説明してあげる。たしかにこのモノポールの海を使った罠は厄介だけど、モノポールを有効的に使える範囲ってそれほど広くないのよ。分かる?フロア全部にモノポールの海が広がってるんだろうけど、対磁極を使ってモノポールを自在に動かせる範囲は狭いって事。だからどこかにある対磁極を避ければいいだけ。簡単じゃない」
避けるって簡単に言うけど、どうやって避ければいいの?なぜそれを考えてくれないの?簡単っていうなら、貴方がまずお手本を見せてよ!実際にダンジョンに入って、私達がどれだけ大変な目に遭っているか、自分の体で確かめてよ!
そう叫びたい。でも出来ない。それをやって文字通り消された先輩を見てしまったから。人間の体を人質に取られてるから。いつだってこの人は安全なこの場所から一歩も動こうとしない。私達をなじるだけ。助けるどころか労る言葉すら掛けてくれない。
だめだ、冷静に、心と感情を切り離せ。マールに自分の反発感情を悟らせないように、マールの忠実な部下だと思わせるように……
「わかりました。それでは、今そのモノポールの攻撃を受けている人はどうやって助ければ……」
「助ける必要なんてあるの?主力はB9に居るんでしょ?B7なんて放っておいても困んないわ。そこを通る時にモノポールに気を付ければ良いだけだし」
「でも、サノさんが今B7に残っています。モノポール攻撃を受けた人を助けるために……」
「ふーん。大変ねサノも。……でもサノはモノポールに捕まってるわけじゃないんでしょ。なら自分だけはゲートで脱出できるんじゃない? そうね、もしサノが無事にB7から帰ってきたら、戦闘力だけじゃなく判断力も合格にしてあげてもいいわね。メデューサと単独で戦ってリタイアしなかったんだから、今回も頑張ってほしいわね。あははっ」
下卑た笑いをするマールに対し、アイトは何も言えなくなった。なぜ、この人は……
「アイト、アンタはもうサノのサポートしなくていいわよ。次の新人が来るまで、諜報活動に戻りなさい。サノがここで死んだらその程度ってことだし、生き延びたらB9の探索チームに入れて最前線で働かせるわ。そこの結果で第5世代のエーテルボディに入れる魂を判断しましょ。うん、我ながらグッドアイデア!」
表面上ではマールの発言に迎合し、その場を後にした。サノさん、無事でありますように……
◇
いやー、慣れると面白いね。あの死神。
しばらく観察していたら引力を開放したようで、液体のように集まっていた膨大な量の粒子はすごい勢いで地面に零れ落ちて広がった。少し経つと土と一体化してしまい、すでに土と粒子の見分けが付かない。もし地面にターゲットが居たら斥力を発生させて、床に押し潰すんだな。近くに居たらまず逃げられないし、なるほど良く出来てる。このフロアに居た先輩方は床への斥力だけで良かったな。あの死神の引力に巻き込まれていたら完全に終わってた。
お、力場の原点である死神がこっちに向かってきた。僕のことを認識しているようだけど、ネズミやムカデみたいな自分で考える自律タイプなのか、防衛ロボットのようにパターンを実行するだけの依存タイプなのか調べたいな。あと引力と斥力を生じている間は動けないで確定かな。力場の作用半径はだいたい分かったし、移動速度はこっちの走る速度と大差ない。あー、ノートと測長器ほしいな。力場についていろいろ測ってメモしたい。
しかしあの死神、どうしようかな。近づくのは流石に危険すぎるけど、距離を取れば探索に影響なさそうだから、壊す必要はないよね……。でもせっかくだから、力場の次に、死神の性能を試してみますか。
そう思った僕は死神から走って逃げながらコンパウンドボウを組み立てる。地面がデコボコなので走るのも組み立てるのも結構大変だった。やっと比較的平らな場所になったので、とりあえず死神に向かって矢を射る。あれ?当たったぞ?自律型だったら避けるよな……
攻撃を受けた途端、死神はまた宙に浮き始め、そして周囲の土を巻き上げ始める。でも死神と僕の今の距離ならば引力の影響はほぼない。念のために死神からもっと離れれば、観察し放題だ。地面が再び波打ち、空間が浮き上がった黒い粒子で汚染され、粒子に巻き込まれて中心部に引き寄せられた物体が圧壊している。お、今度は引力の開放が早い。僕が作用範囲に居ない事が分かっているようだ。ザザーッと砂浜に打ち寄せた波のように、一度は死神の周囲に引き寄せられていた粒子が、地面に広がり落ちる。
引力が消えたことを確認し、もう一度死神の顔を狙って矢を射ると、やはり避けようとしないので命中する。するとまた宙に浮いて引力を使い、そして開放する。これは依存タイプっぽいな…… いろいろ試せそうだ。ふふふ。
その後も矢を当てると必ず引力を発生させる死神の反応を確かめること数回、いつの間にか2体目の死神が近づいてきていた。
お、実験対象が増えた。どうせなら引力の合成とか確認できないかな。と思っていたら、死神同士、一定距離以内に近づかないようだった。ああ、この死神はロボットと同じ、お互いの力場が干渉しないような安全設定されてるな。でもアホだな。作用範囲が円だから、2体いると絶対に力場が届かない死角ができちゃうよね。そこに僕が居たら2体とも攻撃が届かなくなるよ……




