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三十一話 B7

「次はB7です。ここも木や草が生い茂っていますが、広い空間もたくさんあって、敵もたくさん出てきます。最悪はメデューサも出ます。気を引き締めてお願いします」


敵が一切出てこなかったB6に後ろ髪を引かれつつ、いよいよ激戦区といわれるB7に入る。と、そこは荒れ果てた戦場だった。


え?木も草も吹き飛んでるよ?B6と同じように床面が土になっているのに、あちこちで掘り返したように飛び散っていて、一部は床まで見えてる。え?なに?竜巻でも通過した?それともこれがB7のいつもの姿なの?


「大変です!現在B7で調査を行っているメンバーが戦闘中で、援助出来る方を求めています!」


アイトさんの緊急宣言。まぁここまで戦闘なしだったし、その前はメデューサさんに良いようにやられちゃってたし、もう一度この鬼人ボディの戦闘能力を確かめるいいチャンスだ。


「ごめん、アイトさん。僕の索敵だと敵も味方も捕らえられない。どこに助っ人に行けば指示して!」

「はい、私が先導します。ついてきて下さい」


言うが速いが、アイトさんが光の矢になって疾走って行く。ただ四足走行でない分、ついて行く僕に合わせてスピードを抑えているんだろう。しかし見る限り、木やオブジェらしきものがいろんな所に散らばっていて、どこも荒れ果てている。地面はどこもデコボコで、平らな場所が殆ど無い。台風一過の次の日と言われても納得してしまう光景だ。


「サノさん、もうすぐです。みえますか?」


見えます。けど、敵が見えません。3人のエーテルボディが地面に変な格好で埋まっているだけのようにしか見えない。敵はどこだ?見えない敵?


「何が起きているのかわかりません。でもあの3名は今も動けないと言っています。……待って下さい。何かを伝えようと……上?」


言われて上を見るが、黒い硬質の天井に、ぼんやりと光る照明が一定間隔に設置されているだけしか見えない。鬼人ボディのセンサだと、特に異物や異常は感知できない。何だ?上に何があるんだ?

本当は埋まってる人達のところに行って直接訊きたいところだけど、今も敵の攻撃を受けているらしい彼らに近づくのは危険だ。アイトさんも必死で周囲を探っているようだけど、何も見つからないみたいだ。


「アイトさん、周囲は僕が確認する。アイトさんは天井に何があるか集中して探して」

焦っている彼女を落ち着かせるように、ポンと左手で背中を叩く。突然のスキンシップに驚いたようだけど、はい、という元気のいい返事がする。


「あとこの周囲で、何でも良い、何か違和感があったら教えて。ほんの小さな違和感でもいいから」


あとは彼女の邪魔をしないように、長巻を構えて静かに待つ。アイトさんは全身の毛を漂わせ、蟻の一匹も逃さないような気迫で周囲を探っている。


しかしその間も、地面に埋まっている人たちがどんどん地面にめり込んでいく。ゲートで脱出しようにも、腕すら動かせないようだ。じわじわと時間だけが過ぎる。何も発見できず、目の前の人が地面に沈んでいく様子がアイトさんの焦りに繋がる。これ以上ただ待つのは得策じゃなさそうだ。仕方ない、自分の体で試してみるか。


「アイトさん、僕が今から埋まってる人たちに近付いて、ゲートで脱出させる。僕に何が起きるか、よく見ていてね」

「サノさん、それは危険じゃ……」

「まぁ、何とかなるよ。時間が勿体ない。行くね」


ひらひらと手を振りながら、埋まっている人の所に向かって走る。あれ?特に何も感じないまま一番近かった探索者までたどり着いてしまった。まぁいいや。急いでゲートを作動させてここから脱出させる。行き先はマゼランポイントだ。


よし、二人目と向きを変えた途端、体が急に重くなる。これが敵の攻撃か!しかしまだ体は動く。重くなった足を引きずるように動かし、2人目のゲートを動かす。どんどん体は重くなるが、構わず3人目にも何とか近づき、ゲートで脱出させる。なんとか間に合った。


しかしもう立って居られないほど体が重くなる。僕も手が動くうちにゲートを使った方がいいかな。それともアイトさんが何か発見するまで耐えた方がいいかな。……ん?長巻が重くない。僕の体はこんなに重くなっているのに…… いや、下に向けていた刃先だけが妙に重い。何が違う? いつの間にか刃面に土が付いていたくらいだけど……土?


試しに土を左手で握る。特に変化なし……いや、重くなった。やはり土か? あれ?僕の上半身もいつの間にか土が付着している…… この土は、まさか上から降ってきている?その土が体にだんだん付着して、それが重さを産んでいるのか……?


「アイトさん。土だ。土が付いたところがどんどん重くなってる!あと土が上から降ってきてるかもしれない!」


もう立っているのもキツイくらい、体が地面に付きそうだ。土が取れれば……そうだ!

僕は必死で右腕を上に持ち上げる。ブロウガンを放って装填されていた針を抜き、何も入っていない空砲を自分の顔に向けて撃つ。ブロウガンは圧縮ガスの吹き出し口なので、結構な威力の空気砲なのだ。実際、自分の顔に向けて撃ったけど、近くで撃ったため、ちょっと想像以上に圧縮空気が強くて、顔が上に仰け反ってしまった。人間の体だったらむち打ちになってたな。


しかし効果はてきめんで、頭部に付着していた土を吹き飛ばすことが出来た。なるべく距離を離して、腕、胴体、足に圧縮空気を当てていくと、狙い通りに土の粉が飛ばされ、だんだんと重さが無くなっていく。この近辺に居るとまた土が付着するだろうから、何とかこの場を離れる。


「サノさん、無事で良かったです!でもごめんなさい。まだこの異常の原因がわからないんです。土とおっしゃいましたが、このフロアは地面が土で識別ができませんし、上から降ってくるといっても、天井以外に何もないんです」


僕になるべく近づかないように忠告し、僕は圧縮空気を当てて体に付いた土を除去していく。あと場所を移動しても体に感じる重さは変わらない。となるとこの土が付くのは、特定の場所ではなく、フロア全体になりそうだ。あちこちで木が埋まっているのも、それが理由なんだろうな…… あれ?なんでアイトさんに土が付かない?


そうなのだ、今気付いたけど、彼女は体に土がついていない。必死になって体中の体毛を広げ、周囲を調査している彼女はきれいなままなのだ。


もしかして……と、足元の土を一掴みして、アイトさんの足元に向かって投げてみる。土埃が広がるが、彼女の周囲だけ粉塵が弾かれたように動く。なるほど。


僕は重たい手を持ち上げ、手を開いてアイトさんに近づけると、磁石の同極同士を近づけたように、パラパラと土が吹き飛んでいく。どうやら索敵中のアイトさんが放っているものと土が反発しあっているようだ。磁石?砂鉄……ではないな。なんだろう、この土。いや、土に似た粉体か。


「え?何をしてるんですかサノさん。」

「体に付くと重くなる土、なぜかアイトさんと反発してる。ほら」


僕が腕をアイトさんのそばに持っていくと、パラパラと表面についた土が弾かれて地面に落ちていく。


「アイトさん、正体はわからないけど、このフロアに居るといつの間にか土が体に付いて、体が急に重くなる。だけどアイトさんには土が付かないし、弾くことが出来る。アイトさんは一旦ポータルに土を持って帰って、サギ女神にこの事を伝えて対策を考えて欲しい。僕は他の人を助けに行く」

「もしそうならサノさんがポータルに戻って、私がみんなを助けたほうが……」

「いや、アイトさんの表面に何か対策があるから、それを調査した方が早いし、対策がわかってからここに戻るのも君のほうが早い。僕はブロウガンがあるからなんとかなる。頼む、急いで」


かなり悩んでいるアイトさんだけど、最後は意を決したようにうなずく。


「わかりました。急いで戻ってきます。サノさんも絶対に無理しないで下さい。絶対ですよ」

「僕は無理しないよ。安全第一だもん」

「メデューサの時、無茶してたじゃないですか」


う、それを言われるとつらい。僕を軽く睨んでたアイトさんだったけど、すぐに相好を崩す。


「じゃあポータルに戻ります。皆さんの事、お願いします」


ゲートで戻ったアイトさんを見送ると、急いで他の人を探しに行く。たしかこのフロアにはまだ8人残ってると彼女が言っていた。脱出できている人がいるといいけど。



圧縮空気を掛けながら、周囲を探す。どこもかしこも地面はえぐれ、木が吹き飛び、建物が崩れている。あの謎の力でこうなったのだろうか?そういえばまだこのフロアにきてから敵を見ていない。このB7はテンプルナイツを中心に、あらゆる場所に敵と遭遇するという話だった。それにこのフロアに来た時、アイトさんは「メンバーが戦闘中」と言っていたはず。こりゃ、いろいろ気をつけないとなー。



いた!4人がやはり地面に埋まっている。周囲には敵らしきものはなし。上には……天井と明かりだけ。さっきと同じか……


「助けに来た。動けるか?喋れるか?」


大声で問いかけるが、返事も動きも無い。4人とも地面に体の大半が埋まっている。行くしか無いか。


一番近い小柄で水色のボディに近寄り、備えられているゲートを取り出しながら今持っている情報を伝える。


「土だ。体に土が付着すると、今の状態みたいに体が重くなって潰される。脱出したら、土が付かないように対策して」


返事がないので理解してもらえたかわからないけど、ゲートを起動し、ここから脱出させる。残る3人にも同様の事を伝えながら、ゲートを使ってマゼランポイントに戻す。アイトさんと今の4人の情報で、何か対策ができるといいんだけど。


体にまた付着しだした土を圧縮空気で吹き飛ばしながら、残る4人を探しに行こうとした時だった。周囲を照らしていた明かりが弱まっていき、今までこちらを潰そうとしてきた圧力が唐突に無くなった。


なんだ?と周囲を見回すと、さっきまで誰も居なかったはずなのに、人らしき気配がする。


え?まさかもうアイトさんがもう対策品をもって来てくれた……?すごい早いな!

そう思って気配のする方を向くと、そこには真っ黒に煤けた、何かが立っていた。

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