二十九話 最強との顛末
それまで一方的にやられっぱなしだったサノさんが、ワイヤーを使って両腕の蛇を潰した。ここまでの敵を倒してきた武器が一切通用しなかった事にハラハラしながら戦いを見ていたアイトは、ひとまず胸を撫で下ろす。逆にサノさんが、これで優位に立ったのでは?と思ったのもつかの間で、メデューサは突然に全身を光らせ、形態を変化させてしまった。
隠されていた顔が露わになり、両腕も蛇が外れて人間のものになった。纏う雰囲気も明らかに異なる。今まで何度もメデューサを見てきたが、変身する事自体初めて知ったし、変身後も初めて見る姿だった。強力で厄介だった両腕の蛇がなくなったのに、今まで以上の恐怖を感じる。
「いや、メデューサと戦いたくない。でも、仲間がこれ以上やられるのも見たくない……」
アイトは過去にメデューサと何回か戦った事がある。チームを組んでの探索中に4回、対メデューサチームに参加しての1回だ。最初の戦闘は、テンプルナイツと交戦しながら探索をしていた時、その真っ最中にメデューサが空間転移してきて、チームは刹那で壊滅した。アイトは索敵と偵察が担当だったが、空間転移をまったく感知する事が出来ず、倒れたメンバーを抱えてその場を脱出するのが精一杯だった。役割を果たせなかった事に対して深い自責の念に苛まれた。
その後、ボディの感知能力の改良を行い、メデューサの空間転移もほんの数秒程度だが事前に察知する事ができるようになった。しかし探索中に準備なしでのメデューサとの遭遇は、単に逃げる時間を稼げるようになっただけであった。それでも全滅してポータルに帰還するよりマシであったが……
対メデューサに特化した戦闘チームに参加した時は、アイトも索敵だけでなく戦闘要員としての役割を担った。メデューサの登場パターンや発生周期の統計を取り、出現する確率が高くなった所で、ダンジョン内の探索チームをわざと1つにして、メデューサを誘い寄せたのである。作戦は成功し、不意打ちされずに初めて万全の状態でメデューサとの戦闘を開始できた。
しかし不意打ちでなくとも、メデューサは絶対的な強者だった。両腕の蛇に蹂躙され、撒き散らされる様々な毒素に翻弄され、そして蛇独特の体術に嬲られた。何度か攻撃を入れても、メデューサの身体能力は損なわれず、チームはどんどん追い詰められていった。エーテルボディには内臓や神経に作用する毒は効かないが、細胞を分解させたり壊死させるような毒には少なからず影響を受けた。メデューサは様々な毒を試しながら戦い、最初は優勢であった戦いも、最後は撤退の憂き目にあった。アイトはメデューサを上回る速さと機動力を最大限に活かしたが、撒き散らされた毒と何度攻撃しても回復される無尽蔵の体力の前に、またもや役割を果たすことは出来なかった。
相対した戦いに敗北してきたアイトにとって、常に劣勢とはいえメデューサと1対1で今も戦っているサノの姿は信じられないものがあった。そしてサノの乾坤一擲の攻撃で、最大の武器である腕を無効化させたと思ったのに、今まで見たことがない姿となったメデューサ。まだ力を隠し持っていたのか。もういやだ、戦うのも見るのも嫌だ。
でも目を逸らしてはダメ、あのメデューサがどんな力を持っているのか、どんな戦い方をするのか確認しないと、そして万が一の時にはサノさんと一緒に脱出しないと…
そんな決心で見守るアイトだったが、形態が変わったメデューサとサノは、突然お互いの両手同士をがっちり掴み合い始めるのを見て、少し訝しんだ。あれ?さっきまでと全然戦い方が違くない?もしかして私が分かってないだけで、あの二人はもの凄い高度な駆け引きとか技とか仕掛けあってるの?その割には結構長い時間、同じポーズでいるけど……???
あまりの状況変化に意味が分からない状態に陥ったが、しばらくしてサノが吹き飛ばされるのを見て我に返る。助けに入ろうか迷っている内に、メデューサは現れた時と同じように空間を歪ませて、どこかへ消え去ってしまった。
◇
「サノさん、大丈夫ですか?毒とか食らってませんか?死んでませんよね?生きてますよね?」
「エーテルボディがあれば死ぬことは無いんでしょ?大丈夫、生きてるし、毒もない。至って健康」
遠くで見守ってくれてたアイトさんは、メデューサが居なくなった途端、僕のところにすっ飛んできた。優しいなぁ……
「最後の両手の掴み合い、何だったんですか?なんでメデューサは居なくなっちゃんたんですか?」
うわ、説明しづらい所をしっかり見られてるな……困ったな。アイトさんは無意識なんだろうけど、多分あのサギ女神の内偵だからなー。変に疑われたくないし、とりあえず話題を逸らそう。
「いやー、メデューサさん強いね。全然ダメだった。今回は手加減してくれたけど、本気だったら最初の攻撃で潰されてたかな」
「え?そうなんですか?だってサノさん、両手の蛇の頭を縊り殺したじゃないですか?」
「縊り殺すって……物騒な言葉知ってるね。いや、まぁ、腕の蛇だけならいい勝負だったかもしれないけど、あの時は本体は何もしてなかったでしょ。腕と一緒に毒を使ったり、胴体ごと体当たりとかされたら、まぁダメだっただろうね」
これは本音だ。僕は完全に本気モードだったけど、メデューサさんは威力偵察していたと思う。手抜きではないけど、全力ではなかった、そんな感じ。まぁメデューサさんの手の蛇としか戦ってないから、手抜きじゃなくて本体抜きだったんだけどね。




