二十七話 最強への挑戦
アイトはその場を離れながら、必死に願う。
「サノさん、無理しないで。逃げて下さい」
メデューサはあまりに強く、第4世代のエーテルボディも単騎ではまったく歯が立たなかった。チームを組み、そのうちの何人かを犠牲にする戦法にてようやく撤退に追い込む事はできた。しかしメデューサの真の恐怖は、突然エリアに転移してくることだった。
予めメデューサに備えてチームを組んでいれば対応は可能だが、前触れも法則性もなく、メデューサはいろんなところから唐突に乱入してくる。他の敵と戦っている最中でさえ割り込んできて、時には敵味方の関係なく攻撃を仕掛けてくる。そのため探索は常にメデューサの登場を意識しながら、常に襲われる恐怖と隣り合わせとなった。
ただメデューサが今まで現れたフロアはすべてB7以降であった。今回、B5に乱入してきたのは初の事態であり、今後の探索には大きな修正が必要となってしまった。B2の一転したロボット防衛陣といい、このダンジョンはまだ私達を苦しめたいのだろうか……
最初に放たれた矢は体と左目に当たっているのにダメージは見られず、得意武器の長巻を破壊され、小柄もブロウガンも防がれている。遠くからメデューサとサノとの戦いを見守るアイトであったが、どう見てもサノに勝機があるとは思えなかった。
無理して1対1で戦う必要もない。早く逃げて欲しい。「一人でメデューサと戦った勇敢というか無謀な魂も居たわね」マールが笑いながら語っていた事を思い出した。
◇
僕は小太刀を右手に構え、左手を添えて、正眼に構える。三回目のメデューサの飛び込みに対し、自分の左手を右蛇に噛みつかせ、その間にもう一匹の蛇の口腔を狙って小太刀で突きを放った。犠牲にした左手は噛まれて上腕が少し折れ曲がったが、本命の小太刀は狙い通り蛇の上あごに突き刺さった。これでメデューサの両腕は封じた。間髪入れず髪の刺毛でメデューサの残る右目を狙う……が、髪の毛が届く前に、蛇の腕が暴れまわり、吹き飛ばされてしまった。
だめだ、どうしてもメデューサの腕が長すぎて本体への攻撃が一歩遅れてしまう。腕の蛇も2匹同時だと分が悪すぎる。ムカデの時と同じように、なんとか1匹ずつ相手にしないと……
起き上がりながらリペアキットを自分の左腕に使う。小太刀はメデューサの左手の蛇に刺さったままだったが、右手の蛇が器用にそれを抜き取ってしまった。胴体と左目にはコンパウンドボウの矢がいまだに刺さったままだけど、その状態でもメデューサはここまで動けるのか。こりゃ厄介だと思っていると、またメデューサは体を縮ませる。やれやれ、これで4度目か。僕は小柄を右手に構えた。
またさっきと同じメデューサの飛び込みが来る。僕は小柄をメデューサの顔面に向けて放つが、右腕の蛇に簡単に掴まれてしまう。そして左腕の蛇は口を大きく開けて僕の胴体に噛みつこうとしてきた。
僕は間近に迫る蛇の開いた口に右足で前蹴りを放った。蹴りは蛇の口中の上あご裏に当たったが、蛇は構わずに口を閉じ、僕の右足は膝まで完全に喰われてしまった。そしてそのまま僕の足を咥えた蛇が首をあげると、僕の体は空中に持ち上がってしまった。すごい膂力だ。空中で身動きが取れなくなった僕に向かって、先ほど小柄を防いだ右腕の蛇が、もうその小柄をすてて、鎌首をもたげて近づいてくる。ふう、やっと1対1の状況になった。
右腕の蛇は僕の体に噛みつこうと迫ってくる。僕はメデューサから見えないようにこっそり左手で作っていたワイヤーの大きな輪っかを縄跳びのように前に投げて、右蛇の頭がその輪を通るようにした。蛇は僕の肩に噛みつくが、その間に僕も両腕でワイヤーを引き絞り、蛇の首元を絞めつける。さらに力を込めて首元を絞めていくと、蛇の噛む力が弱まった。ここが勝負!
「うがぁ!」と両腕に限界の力を込めると、蛇の頭がぶった切れた。ワイヤーを握ってた指にもダメージがあったが、これで右腕の蛇は使えまい。蛇は顎を動かすせいか、首元だけは柔らかいのだ。飼ってたネコと蛇のバトルを見学しておいて良かった。ネコ大好き。
そのまま僕は飲まれた右足の刺毛を伸ばす。刺毛は蛇の頭部を貫通し、右足を咥えていた力が弱まる。脚を力任せに引き抜き、そのまま両足で挟んで蛇の首元を絞める。柔道の胴絞ってやつだ。弱点の首元を攻められて力が抜けたのか、空中に持ち上げられていた僕は胴絞の姿勢のまま地面に落下した。僕はあえて受け身を取らず、蛇の頭にワイヤーを巻き付けて、もう一度引き絞った。地面の上で、両足とワイヤーの両方で絞められた左腕の蛇も、とうとう首元から切断された。蛇の噛みつきと無理な姿勢での胴絞で、僕の右足も限界が来ていたが、なんとか立ち上がる。息切れしないこの体はホント便利だ。リペアキットを右足にも使いながら、ワイヤーを手繰り寄せて鎖鎌を掴む。
この攻防で両腕の蛇の頭を失ったメデューサは、それでも表情を変えず体をユラユラと揺らせており、右目もまだこちらを睨んだままだ。でも腕の蛇は力を失ったように床に横たわっている。
「もうその腕、使えないだろうから。ここで痛み分けって事で、撤退しない?」
僕がそう提案すると、メデューサは動きをピタリと止めた。ん?素直にこっちの言う事を聞いてくれるのかな?
そんな訳がなかった。




