二十四話 詐欺師の本性
自室にいたマールは、アイトを呼んでポータルからの報告書を確認していた。この部屋ではマールは詐欺師の顔を脱いで、本性をさらけ出す。部屋に入れる人間は、数少ないお気に入りだけであり、アイトはその一人であった。
サノという地球から連れてきた新人は、前例のない高い定着度と同期率で魂とエーテルボディとの一体化を成功させた。そして最初の探索で暴走した第4世代のベテランと遭遇し、これを無力化。2回目の探索でB4まで踏破し、マゼランポイントに到達。その際にテンプルナイツと初の交戦、6体撃退。すべて、過去に事例のない突出した成績である。
アイト自身が思い出してみても、今まで指導した新人がマゼランポイントにたどり着くまで、複数回のリタイアと10回以上の挑戦を重ねるのが普通だった。エーテルボディが第4世代になってからの最短記録は5回目の挑戦だったが、それでもリタイアは3回経験している。マゼランポイントに到達するまでリタイア回数がゼロというだけでも、前例のない異常な成績だ。
「アイト、あの新人は2回目の探索でマゼランポイントに到達したけど、その際にアンタは特別な手助けとか戦闘介入とかした?」
「いえ、私が行ったサポートは、フロアや出現する敵について簡単な説明をしただけです。戦闘はすべてサノさん一人で行っています。敵の接近を伝えたり、B3フロアで明かりを作ったりしましたが、それはサノさん以外の人にも同様にしてきた事です」
アイトは何人も新人のサポートをしてきたが、みな例外なく、B2でロボットに潰され、B3でムカデの脚に巻き込まれ、B4で何度も戦闘不能になった。もちろん自分も初めての探索の時は、B1のネズミにすら苦戦した。B4を踏破するまで、自分も含めてルーキー時代に何度やられた事か……。
エーテルボディの潜在能力は高いが、それを理解し使いこなさないとB4踏破はまず不可能だった。B4をクリアしてやっとルーキー卒業であるが、少なくとも数ヶ月は掛かる。しかしサノは目覚めた時からすでにエーテルボディと馴染んでおり、ダンジョンでは敵にやられる所か、すでに熟練者相当の戦い方をしている。
「ふーん、あの新人、相当期待できるわね。もしかして鬼人ボディのお陰かしらね」
「え?どういう事ですか?」
普段はマールに問われた時だけ口を開いていたが、サノの異常さ、異能さが気になっていたアイトはつい自分から質問をしてしまった。
マールはプライベートの時に、エーテルボディの人間からの発言を殊のほか嫌う。自分以外の人間を見下しているからだ。それを理解しているからこそ、アイトは問われない限り自分から言葉を発するのを控えていた。しかし気になることを聞いて、つい自分から発言をしてしまったアイトは叱責されると身構えた。
幸いにもマールは気分を害した様子はなかった。どうやら鬼人ボディの事を誰かに話したくて仕方なかったようだ。
「あの鬼人ボディはいわく付きなの。私の前にポータル責任者やってた男の魂が入ってた事もあるし、一人でメデューサと戦った勇敢というか無謀な魂も居たわね。そして笑えるのが、あの鬼人に入った魂って、一年たたずにどこかへ行っちゃうの。跡形もなくね。鬼に食べられちゃうのかしら。うふふふふふ!」
前のポータル管理者が入ってた?魂が消えてしまう?なぜこの管理者は笑いながらそんな事を言うの?え?サノさん、一年以内に消えちゃうの?
あまりに唐突でとんでもない事を聞いてしまい、アイトは何も言葉を告げなくなってしまう。
「あの新人も魂がどこかに消える前に、こき使わないと勿体ないわよね……いや、でも待って。これだけ優秀な魂なら、一年で終わりにする方がもっと勿体ないか……? 消える前に他のエーテルボディに入れ替えて、もっと長くこき使った方が得かしらね……」
思いがけないサノの延命のチャンスに、アイトは再び禁を破ってマールに告げる。
「サノさんはすごく優秀で、戦闘だけでなく探索でもすごい結果を出しています。今までの新人の中で、圧倒的にすごいです。サノさんがいれば、探索はきっと、今よりずっと早く進むと思います」
焦って喋ったので、子供のようにすごいという単語を連発してしまう。しかもまたマール様に許可なく発言してしまって、恥ずかしいし、それ以上に怖い。
でも、サノさんには消えてほしくない。あんなに頼れる人がいなくなるなんて……終わりが見えない地獄のような探索生活の中で、私には一筋の光明に見えたのだから……
エーテルボディの人間から続けての許可なき発言に、流石に癇に障ったマールだが、言われた内容は確かにその通りだった。
「アイト、これ以降の勝手な発言は懲罰の対象よ、気をつけなさい。でも確かにあの新人は極めて優秀のように思える。B5以降もあの新人が優秀な結果を残せるのなら、第五世代のボディに入れる魂の第一候補になるわ。アイト、あの新人のサポートを続けなさい。ヘリオスチームとあの新人、どちらを使うか判断するため、B5に入った後の新人について情報をまとめ、定期的に報告すること。いいわね」
「かしこまりました。サポートを継続し、その実力を確かめます」
これでサノさんが生き延びるチャンスが増えた!それにまた一緒にサノさんと探索ができる!頭を下げながら、喜びの感情が高まってくる。
この時まで自覚していなかったが、サノとの探索はアイトにとっても楽しい時間となっていた。サノが見せてくれる、新しい気付き、思いもつかなかった発想、そして精密機械のような戦闘術は、どれもアイトにとって目が覚める新鮮なものだった。
ポータルに捕まってから3年、何度も死にそうな目にあい、何度も死にたくもなったのに、死ねない呪いを掛けられてしまった。マールに懇願しても、人間に戻るどころか、ダンジョンという地獄に戻される日々。そこに現れたサノの存在は、まさにアイトには蜘蛛の糸のように感じた。お願いしますサノさん、どうか、私を救って下さい・・・・・・
「ダメです。絶対にダメ。諦めて下さい!」
マゼランポイントに登録を済ませた事で、僕は直接ダンジョンのB4エリアに転送できるようになった。それはいいんだけど、マゼランポイントは転送室から向かう事になる。そう、軌道エレベーターを使わないのだ。僕は2回しか軌道エレベーターに乗っていないし、その2回とも地表に降りるだけだったので、地表から昇るエレベータにまだ乗れていない。だからアイトさんに軌道エレベーターに乗って往復したいとお願いしているのに、ダメの一点張り。なんで?いいじゃん。
「軌道エレベーターは使うのに許可申請が大変なんです。1回ごとにいろんな情報と使用目的を書くんです。それに何て書けばいいんですか?景色が見たいからエレベータで往復したい、なんて書けません。私が怒られちゃいます。諦めて下さい!」
「そこを何とかうまく誤魔化してさ……」
「ダメです。絶対にダメ。諦めて下さい!」




