二十話 蝙蝠
さて、チャージも済ませ、いよいよB4の攻略を開始。花崗岩色の通路に立ち、宮殿の入口階段を降りると、そこは砂場だった。砂?砂場?
宮殿内部はコンクリート建築のような、外壁と同じ材質で飾り気のない壁で仕切られていて、床に砂がどっさりと敷き詰められている。そして壁や天井の一部に四角い小さな窓がたくさん開いていて、そこから砂が補充されるようにサラサラとこぼれ落ちている。砂は粒が大きめで、床の砂場はある程度押し固まっているのか、足を取られるほどではないが。ただ見渡す限り、この宮殿の一階は、すべて床が砂場になっているようだった。
「思い出しました。サノさん、砂の中に、こちらの足に絡んでくる罠があります。気をつけて下さい。」アイトさんはいつも建物の外を行くので、宮殿内に入るのは久しぶりのようだ。
「足に絡んでくるだけ?直接危険はないの?」
「はい、この建物の罠はそれだけです。でも敵が居ると足を取られて危険です」
そもそも床全体が砂なのでちょっと歩きにくい。アイトさんが屋根の上を進むのも納得だよな。
「サノさん、敵が近づいてます。コウモリです。数は……20匹!」
アイトさんの忠告を受けて長巻を軽く構える。僕もツノに集中して、自分の認識感覚を広げる。このツノ集中はまだ意識しないとうまく発動しないけど、生存率を上げるためにも無意識で常に出来るようにしたい。
ツノに集中すると、通路左奥の曲がった先から、たくさんの物体がこちらに近づいてくるのを感じる。敵の体は今まで遭遇した中では一番小さいようで、羽をバタつかせているのか振動音が聞き取れる。そして軽快に砂の上を走ってくる気配がする…… ん?コウモリが走ってくる?
実際に通路の角からこちらに向かってきたのは、見た目は体長1mくらいのコウモリの集団だったが、足があってそれを使って走ってきた。思い出した、エリマキトカゲだ。動画で見たエリマキトカゲの走り方にそっくりだ。じゃあバタバタ動かしているあの羽は……武器か。
コウモリは砂の上をなかなかの速さで走ってきた。しかも軍隊のようにきっちりと隊列を組んで。コウモリが?隊列は5行4列で、砂の上なのに少しの乱れもなく、さらに建物の幅に合わせて隊列を組んでいるようで、壁との隙間もない。ちょっと感心してしまった。そして僕に狙いを定めると、みんな一斉に羽をこちら側に伸ばして笹穂槍のような形にして突っ込んでくる。なんかこのダンジョンの敵、突っ込んでくるのばっかりだな。
長巻を左手に持ち替え、5匹が横に並んで突進してくるコウモリを待ち構える。長巻の方がコウモリの羽より長いから、こちらの攻撃の方が最初に当たる。けど振り終えた後の二振りめより、2列目のコウモリ羽の方が届くのが早い。砂で動きを鈍らせつつ、数を頼りにした戦い方か、なるほど。
まず狙い通り、射程に入った一番前のコウモリの列に長巻を真横に薙ぎ、5匹まとめて上下に真っ二つにする。眼の前にはもう2列めのコウモリだ。一列目の死骸が体にぶつかるが、それに惑わされず、右手のブロウガンを至近に迫った2列め真ん中のコウモリにぶっ放す。胴に針をまともに喰らったコウモリは錐揉みしながら吹き飛んだ。2列目の他のコウモリは自分の左右を通り過ぎる。よし、狙い通り自分の正面だけ空間ができた。
長巻を構え直して肘を曲げ、中央3列目の真正面のコウモリに向かって腰だめで突進する。いわゆるドスを構えたヤクザの体当たり攻撃だ。狙ったコウモリを長巻が貫き、そのままその刺さったコウモリを盾にしながら、前へ押し出し、4列目のコウモリも刃を通す。コウモリの串刺し一丁上がりだ。規則正しすぎる隊列なので、思いの外うまくいった。左右をすれ違った3列目と4列目のコウモリの羽が多少掠ったが気にしない。
4列目のコウモリを躱したのを横目で確認すると、腕を一気に伸ばして、刺さったコウモリを振り飛ばす。そして体を180度回転させて、すれ違ったコウモリに対して改めて構えようとした瞬間、砂の中から飛び出した紐状のものに軸足を取られた。転倒は免れたけど、完全に姿勢を崩してしまった。
これがアイトさんが言っていた罠か!やはり知っているだけではダメだ、実際に体験しないと対応が遅れる。くそ、コウモリと同時攻撃してくるとは……こりゃコウモリの攻撃貰っちゃうか?と身構えたが、コウモリがいない。あれ?
一旦通り過ぎて離れていったコウモリ隊列は、引き返す様子は一切なく、走るスピードを変えずにそのまま通り過ぎていった。……あれ?戻ってこないの?……もしかしてアイツら、一方通行なのか?Uターン出来ないのか?だったら無理に倒さずとも、適当にやり過ごすだけで良かったのか……。
「はい、コウモリは突進した後は戻ってこないので、逃げてやり過ごすのも有効です。中には砂の中に埋まって躱す人もいます。コウモリに踏まれますけど。宮殿の屋根ルートでコウモリに遭遇しても、隠れる場所が多いので怖くないです。逆に外壁と建物の間で遭遇すると、隠れるところが少ない上に狭くて行列も長くなるので大変ですが」
そう言う彼女さんは天井と壁の間に手足を掛けて、実際に安全にコウモリの行列をやり過ごしていた。あー、それが正解だったかな。
「コウモリは宮殿のあちこちを周回してますので、倒しておくのも無駄ではないと思います。」暖かいフォロー、ありがとう。




