十四話 B2
その後、B1フロアの奥に居たネズミ3匹をサクッと片付けて、僕とアイトさんはB2に繋がる扉を通過した。
「次のB2フロアですが、敵で出てくるのは正真正銘のロボットです。天井や床に何台も待ち構えています。ロボットについて、サノさんの事ですからデータは見ていると思いますので、私の経験から説明します。まず、とても頑丈です。正直に言って、私の戦闘能力では壊せませんし、戦闘型ボディの人でも倒すのは難しいです。ですのでこのフロアはいつも戦闘を避けて駆け抜けてます。」
「アイトさん一人なら、問題なくここを抜けられるの?」
「絶対、とは言えませんが、多分大丈夫です。」
「じゃあ、アイトさんに先に行ってもらって、それを参考にしていいかな?」
「はい、そのつもりでしたので、私が最初に突入します。他の皆さんも使っている抜け方を使いますので、参考にして下さい」
「了解しました。アイト教官、お手本をお願い致します!」
「ふふ、わかりました。サノ君、私について来なさい!」
サー、イエッサー。と意気込んでB2フロアの扉をくぐると、そこはさっきより広い空間に、たくさんの防衛ロボットが隙間なく整然と並ぶ、恐ろしい要塞のような光景がまっていた。見渡す限り、ロボット、ロボット、ロボット。あれ?ちょっとこれは想定外だぞ……。
フロアの縦横はさっきのB1より大きいはずなのに、緑色の床に一定の間隔でロボットが何十台も並んでいるので窮屈に感じる。ロボットは3mくらいの球型で、体から伸びた4本のアームには、すべてハルバードのような殺意に満ちたゴツい武器が備わっている。球体は床から50cmほど浮いているように見えたが、よく見ると床と球の間がシャフトで繋がっていた。ロボット自体が移動して襲ってくる事はなさそうだけど、長くて頑丈そうなアームの射程範囲に入ったら、無事では済まないだろうなと簡単に予測できる。
アームやロボット本体の表面は建物と同じように黒光りした材料のようで、いかにも硬そうだ。ポータルで見たデータには、今まで完全に破壊した探索者は居ないって書いてあったけど、実際に姿を見ると納得できる。自分よりでかい金属の球なんて、壊せるとも壊そうとも思わないもん。鉄球クレーンと勝負したくないよね。
しかも1個だけでも威圧される球体ロボットが、横一列に十数個、その奥にも同じようなロボットの列がいくつも並んでいる。うわーと思って視線を上に向けると、天井には頑丈そうなレールが設置されていた。あのレールによじ登って行けば球体ロボットを避けて行けるかなと思ったけど、甘かった。でかい中華包丁みたいな凶器がいくつも付いた、直径1mくらいの円盤がレールを巡回している。多分、敵を見つけたら円盤が回転して凶器を振り回しながら襲ってくるんだろうな。それに周囲を見回してみると、そんな凶器付き円盤が何個もレールを走っている。
このフロアの設計者がここに居たら「オレはここを五体満足で通過させるつもりはない」と言い切りそうだ。シュレッダーとかゴミ破砕機の中をくぐり抜けるレベルの難易度でしょこれ。
いやー、探索者の先輩方を甘く見てたかもしれない。正直、この鬼人ボディでも無傷で通り抜ける方法が今のところ湧いてこない。先輩方はどうやってここを突破してるんだろう、全然想像つかない。
そういえばアイトさんが突破できる方法を教えてくれるって言ってたっけ。さすが忍者。お手本を見せてもらおう。
「うそ……。何これ?」
ん?アイト教官から思いがけない言葉が聞こえたような……
「アイトさん。じゃあさっき言ってた通り、このフロアの突破をお願いします。参考にしますので……」
「いえ、あのですね。違うんです」
ん?何が違うんだ?
「今までこのB2フロアですが、あの球体ロボットが全部で20体くらいしか居なくて、しかも自走式だったんです。それらが陣形を組んで襲ってくるので、いかに隙を見つけて通り抜けるかが重要でした。中にはロボットの攻撃を抜けられない人も居ますが、そういう場合はこちらも多人数で突入してフォローし合う事で、何とか突破できてたんです」
なんだか、すごく嫌な予感がしてきたぞ……
「それが今回、フロアの中がまるっきり違います。今までの数倍ものロボットが待ち構えています。しかもほとんど通り抜ける隙間がないようです。さらに床に固定されているので、誘導も効きません。……天井の円盤ロボットも前からありましたが、あんなにたくさん居ませんでした。レールも円盤ロボットも明らかに増えてます…… 全然、まるっきり、今までと違いすぎます。なんでこんな事に……」
改めてフロアを見回してみれば、球体ロボットの配置は絶妙で、最初の列と次の列は位置が少しズレて立っている。なのでスピードを活かして一列目のロボットの隙間を走り抜けたとしても、すぐに次の列のロボットに真正面からぶつかる事になってしまう。天井のレールも真っ直ぐな所はないので、変則的に動く円盤ロボットを避けるのは至難の業だろうな。
「今更こんな事を言うのは恥ずかしいんですが、正直このフロアを突破できる自信はありません。」
「そっか。そんなに今までと違うんだ」
「はい、こんなに大量のロボットが居るなんて……これじゃあ今後、誰もここを突破できないんじゃ……」
エーテルボディなので顔色は変化しないけど、なんとなくアイトさんの顔が青くなっている気がする。あれ?以前言ってたのってこのフロアの事かな?
「例えば頑丈な装甲車を持ってくれば、突破できるかなぁ。以前アイトさんがダンジョンの中だと装甲車が使えないって言ってたけど、このロボットが理由なの?」
「いえ、装甲車が使えなくなる理由はもっと先のフロアにあります。でもそうですね、装甲車を持ってくれば、ここを突破できるかも……」
「ただロボットの数が多いし隙間が狭いから、簡単には行かないかもね」
彼女も同じ事を思ったようで、ガッカリしているのが分かる。しかしこのダンジョンすごいな。どんどん進化してるって事なのか……。そのうちネズミもパワーアップして金色のスーパーネズミとかになりそうだ……あ、そっか。その手があった。ちょっと確認してみよう。
「じゃあアイトさん、一度戻ろっか」
「はい、そうですね。こんな状況ですから、一度ポータルに戻ってマール様に相談した方が良いと思います」
「ん?違うよ。B1に戻ろう」
え?と声がするが、こっちはなるべく急ぎたい。説明はあとでね。




