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十三話 決意

「じゃあ、2回目のダンジョン探索、行きましょう」


 アイトさんが元気な声で僕を誘ってくれるが、それがカラ元気だと僕は思う。ポータルに連れ帰ったカツモトさんはいまだに治療室に入っており、回復の兆しがないとサギ女神から報告があったのだ。


「ここで治療できなかった場合、カツモトは本国に送って最先端治療を受けさせるから心配ないわ。あなた達はダンジョン探索を進めなさい。特にそこの新人はなかなか有望なようだから、アイトはしばらくサポートを続けなさい」


 出発前に、私はいかにも心配してますよ的な顔でアイトさんを慰めていたサギ女神。僕はわかる、あの顔は絶対に演技だ。という事は言っている事もウソだろう。サギ師の言う「心配ない」ほど心配な事はない。ただこのポータル内ではサギ女神に従うことしかできない。仕方ない、今はダンジョン探索に行くしかないか。



 せっかくの軌道エレベーターも、こんな状況なので心が弾まない。アイトさんは終始無口のまま、ダンジョンの建物に着いてしまった。そしてやはり無言で建物の壁を登り、ダンジョンに入る。入口に飛び込む際、ウケを狙ってわざと転ぼうかなとか思ったけど、多分うまく行かないだろうと思って自重する。最初に入ったときに薄暗く感じたゼロ階が、今はもっと暗く感じる。


「今まで、治療室に入れられた人で、戻ってきた人は居ないんです」


 俯いたまま、アイトさんが斜めの床に腰掛けながら、ぽつぽつと喋りだす。


「マール様は治療室に入れた後、しばらくすると『ここでは治療できないから、本国に送ったわ。これで大丈夫よ』って言うんです。でもその後、本国から再びポータルに戻ってきた人はいませんでした」


「治療に時間がかかるとか、そもそもポータルから本国に行くまで時間がかかるとか、そういう理由もあるかも」


 心にもない事を言って慰める。でも多分、アイトさんもサギ女神のウソにそれとなく気付いているんだろう。だからこんなに落ち込んでいるんだ。


「そうですね…治療には時間がかかるんですよね、きっと」


「本国に送られた人の人体は、あの氷の壁の中に残ってるのかな?」


「いえ、いつの間にか、あの壁の中からも居なくなってます。マール様は治療のために本国に一緒に送ったと仰ってました……」


「そっか、じゃあ本国で回復して、人間の体に魂が戻って、元の世界に戻ってるのかもしれないね」


「ええ、そうですね。そうだと思います……」


 まぁもし本当に治療が成功したなら、サギ女神はそう言うよね。僕らを安心させるために。ウソでも本国に送って治療が成功して元の世界に戻したって言えばいいのに。あのサギ女神、ホント底が浅いんだよね……



「じゃあ、気を取り直して、B1に入ろっか。実は前回、倒したネズミの上に顔料を撒いておいたんだ。それがどうなったかまず確認したい」


「え?顔料?それで何かわかるんですか?」


「うん、死んだネズミがどこに行くか調べたかったんだ」


 B1フロアに進む。まず前回動かしたコンテナを見ると、僕が動かした場所にすべてあった。次に奥に進み、僕がネズミと戦った場所に行くと、そこに死骸はなく、床だけがあった。僕がネズミに撒いた赤い顔料は、死骸のあった場所から床にあいていた小さな穴へと続いていた。


「そういえばネズミの死体はいつの間にか無くなってます。誰かが掃除してるんでしょうか?」


「ほら、ここ。床に小さな穴が開いてる。顔料はここに流れてるから、死んだネズミはここから片付けられてるみたい」


「え?こんな小さな穴がネズミを飲み込んでるんですか?」


「死んだネズミはしばらくすると粉とか液体とかに分解されて、この床が吸い込んでるのかも」


 床にあいた穴は他にもたくさん見つかった。他の死骸にも同じように顔料を撒いておいたけど、みんな死骸のあった場所からいずれかの穴に顔料が繋がっていた。


「地球よりテクノロジーが進みすぎていて流石に詳しくはわからないけど、このフロアは常に清潔にするための仕組みがあって、今も動いているようだね。」


「それで死んだネズミがいつの間にか無くなってたんですね。あ、前回床を調べてたのって、これを確かめるためですか?」


「うん、それもある。このフロアの床はホコリが全然落ちてないし、何より水平だったから」


「水平?平らって事ですよね?平らで何か問題があるんですか?」


「うん。おかしいよね。だってこの建物、斜めに建ってるのに、この部屋の床は平らなんだよ。」


「え?」


「ゼロ階層の床は斜めだった。建物が傾いているから、床も傾いてる。でもこのフロアは床が平らだ。そしてもう一点。建物の直径よりこのフロアの奥行きの方が明らかに長い。って事は、このフロア、星の重力とは違う方向に重力が働いている」


 僕の説明を聞いて、アイトさんも理解したようだ。


「だからどうした、って訳じゃないんだけど、この建物はもの凄い技術力で作られていて、今も稼働している。ダンジョン探索ってサギ女神は言ってたけど、僕はそんな軽い内容じゃないと感じてる」


 あのサギ女神が本当にデート商法と同じ連中だったとしたら、僕たち探索隊なんて自分の欲を叶えるための道具だろう。そして僕たちのの命や人生なんて、道端の石ころより価値も興味もないはずだ。


 そもそもエーテルボディ自体が、ものすごい発明だ。人間の魂を使った、不眠不休で決して死なない、何度でも蘇る超人兵士。地球では覚醒剤や筋肉増強剤が軍事目的で開発されたように、このエーテルボディも戦争のために開発されたものだろう。そんな最先端の軍用兵器を、なぜダンジョン探索に使うのか?それだけ価値のあるものがここにあって、それをあのサギ女神は求めてる。


 ただこのダンジョンは、どうやらサギ女神と敵対しているように思える。50体のエーテルボディを動員しても、まだ半分しか探索できていないのだ。何かおかしい。


 なにがレジャー気分でダンジョン探索を!だ。あのサギ女神め、必ず本性を暴いてやる。

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