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十話 誘拐

「ネズミ退治、お疲れ様でした。私から見て楽勝のようでしたけど、いかがでしたか?」


 足音を立てずにいつの間にかアイトさんが僕の側に立っている。ほんと忍者みたいだ。アイトさんのボディは直接戦闘に向いてないらしいけど、暗殺なら逆に最適だと思う。だって彼女がもし敵だったら怖いもん。


「うん、この鬼人ボディ、すごく使いやすいね。パワーもテクニックも申し分なしだ。あ、もうネズミは居ないかな?」


「はい、今の所、このフロアに敵は居ないようです」


「そっか。ところでアイトさん、ネズミっていつもこんな感じなの?」


「ええ、だいたい数匹で行動して、こちらがテリトリーに入ると飛び掛かってきます」


「いや、そうじゃなくて、ネズミっていつも全く同じ個体なのかって事」


「……え?同じ個体?どういう意味ですか?」


「うん。この6匹のネズミ、まったく同じ体長と体重で、まったく同じ攻撃パターンだった。そして個体差が無いみたいなんだけど」


「え?え?ちょっと待って下さい……私の能力で調べてみます…… 6匹ともまったく同じ爪と牙の形をしてる。手の長さも全部一緒。今まで気づきませんでした……。サノさん、なんで同じ個体ってわかったんですか?あと個体差がない理由もお気付きなんですか?」


 そっか、索敵に優れたアイトさんでも、ネズミが全部同じ個体だって事に気付いていなかったのか……他に気付いた人がいれば、アイトさんも情報共有しているだろうから、今まで誰もネズミの個体差は気にしてなかったのかな……


「うーん、このフロアだけだと、全然情報が足りないんだ。もう少し情報が集まったら説明する、でいいかな?」


「はい、それで構いません。でもそういえば今まで子供のネズミとか見たことありませんでした。みんな同じ個体だったんでしょうか?」


「断言はできないけど、多分みんな同じ個体だと思う。それが一番効率良いし」


「効率、ですか。サノさんすごいですね。3年間もここに来ていて、全然気づきませんでしたから……鈍感なのかな、私」


 なんか少し落ち込んだ感じのアイトさん。それもまた庇護欲をそそる……って、違う違う、アイトさんには笑顔で居てもらいたい。


「いや、個体差に気付いたのは、僕は最初から『ネズミは同一個体かもしれない』って仮説を立ててたからだよ。その予測が当たったってだけ。そうじゃなかったら気付かなくて当然だと思う」


「え?初めから同一個体かもって思ってたんですか?サノさん、何者なんですか?名探偵コ●ンみたい」


「惜しいねワトソンくん。僕は名探偵ホー●ズなんだ」


「それを言うならハド●ン夫人じゃなくて?」


「お、詳しいねアイトさん」


「父と一緒に録画していた犬のものを見てましたから」


「あー、あれ。すごいよね。登場人物が全部犬だもん。何食べたらそんな愉快な設定思いつくのか知りたいよね」


「父が言うには、イタリアからの要望だそうですよ」


「じゃあスタッフがイタリアワインで酔っ払ってたのかな」


「そうですよきっと。でも犬のハ●ソン夫人、可愛かったです」


 やっと笑顔になったアイトさん。よし、ダメ押しだ。


「アイトさんも可愛いよ」


「ありがとうございます。ところでなぜ同一個体って思ってたんですか?」


 手強い。んー、仮説段階だけど説明しようかな。でも推察が間違ってたら恥ずかしいしなー、としばし逡巡する。ついでにネズミの死骸を確認しに行く。


 とその時、アイトさんの表情が変わる。狐面の耳がピンと立って、髪の毛も少し逆立っているようだ。


「待って下さい!フロアに誰か居ます。さっきまで何も気配が無かったのに……きゃあっ!」


 あまりに早い影に、アイトさんが攫われる。僕はアイトさんと少し離れてたため、対処が後手に回ってしまった。誘拐犯とアイトさんを追いかけながら大声で叫ぶ。


「アイトさん、体毛使って!防御!」


「は、はい!」すでに何メートルも引き離されてしまったが、アイトさんに声が届いたようで、どうやら僕の意図は無事に伝わったようだ。よし、じゃあ捕まえますか。ショートコント「横飛びバンジー」。


 右手に掴んでいた鎖鎌を両手でガッチリ握り直し、行く先にあったでっかい重そうなコンテナに足を掛けて踏ん張る。鎖鎌に付いていたワイヤーはすぐにピンと限界まで伸び、その瞬間「フギャ!」という猫が踏まれたような声(多分アイトさん)と何かが転ぶ音が聞こえた。


 コンテナから足を外して再び誘拐犯を追いかける。長巻は背中に掛け、鎖鎌は口に咥え、手を床について四足疾走。我ながらすっげぇ早い。背中からすっ転んでいたらしい誘拐犯はすぐに体勢を直して、床に投げ出されたアイトさんをもう一度捕まえようとしていたようだが、それよりこちらの方が早い。さっきのネズミと同じようなポーズで誘拐犯に飛び掛かった。



「ガッ!」

 誘拐犯は一旦立ち止まって、僕のネズミアタックをしゃがんで躱す。冷静なやつだ。でも残念、僕はネズミじゃないので、両脛の刺毛を伸ばして隙だらけになった誘拐犯の背中を容赦なく突き刺す。なかなか背中の装甲は硬いようで、ほとんどの刺毛は表皮あたりで止められてしまったが、相手の体勢を崩すには十分効果はあったようだ。


 僕は両手両足で床に着地すると、その低い姿勢のまま誘拐犯に体当たりして、そばにあったコンテナに向かって突き飛ばした。そしてすかさず長巻を右手に掴み、刺突の要領で誘拐犯の右腹部をコンテナごと突き刺す。


 刃の根元近くまで深々と貫き通され、小さな悲鳴を上げる誘拐犯。手応えは十分にあったが、しかしダメージはほとんどない様で、腹部を貫通する長巻を両手で掴んで抜こうともがき始めた。なんか猫が前足で暴れるセミを押さえつけているような構図だ。そういえばセミ捕まえるのが上手な猫を飼ってたっけ。

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