第42話 消火活動はちゃんとやりましょう③
「お母さん! お母さん!」
「う、うーん」
俺たちは美香さんを連れて美香さんが入院している病院の直ぐそばの公園に来ていた。
ダンジョンを攻略後、俺たちは急いで倉庫街から脱出した。
ダンジョン内で結構な時間を使ってしまったため、俺たちが脱出した直後に警察や消防の人が到着していたからだ。
本当に危なかった。
ダンジョンに潜っていた俺たちは大丈夫だとしても、あの場で倒れていた美香さんは見つかってしまうからな。
竜也に攫われたとして処理されるだろうし、竜也の犯罪の証拠の一つになるはずなので、おいてきた方が良かったのかもしれない。
だが、警察に発見されれば美香さんは長い間警察に拘束されてしまうことになっただろう。
精神的に参っている美香さんにはそれでもかなりの負担だ。
朱莉がダンジョンを攻略したから精神は回復しているかもしれないが、確証は持てない。
いろいろと考えた結果、連れてくることにした。
間一髪脱出した俺たちはとりあえず、美香さんが入院していた病院の近くの公園のベンチで美香さんを起こすことにした。
俺たちはバイトが終わってから一度朱莉の家により、何もなかったので病院に向かっていると、途中にあるこの場所で倒れている美香さんを見つけたという筋書きだ。
何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通すつもりでいる。
本当は俺たちの顔を見るとパニックになってしまうかもしれないので、眠ったまま病院に預けるほうがいいのだろう。
だが、朱莉が期待した眼差しをしていたので、起こしてみることになった。
パニックに陥れば、美香さんには悪いが『体術・手刀』で眠ってもらうしかないだろう。
魔法に近いNINJUTUの一種なので、後遺症も残らないみたいだし。
大丈夫であることは竜也の仲間の魔法使いで実証済みだ。
五回も首トンしたあと頬を叩いて起こしてしまったことは申し訳ないと思っている。
「う、うーん。朱莉。朝ごはんなら自分で作りなさい。もう子供じゃないんだから。もう少しだけ寝かせて」
「!! お母さん!」
とりあえず、パニックにならなかったことに俺はほっと胸を撫で下ろした。
むしろ、あまりに間の抜けたセリフにずっこけそうになってしまった。
俺の前ではしっかりしたお母さんという印象だったが、家族である朱莉の前ではこんな一面も見せるんだな。
美香さんはゆっくりと目を覚ます。
そして、ボーッとした瞳で朱莉のことを見て、そのあと、俺と京子の方にも視線を向ける。
その瞳から、恐怖のようなものは感じられない。
「……あらあら。ごめんなさい。ちょっと寝ちゃってたみたいね。でも、いい夢を見ていたのよ? どんな夢だったかは思い出せないけど、私のために朱莉がすごく頑張ってくれたの」
「!! お母さん!」
昔と代わりない様子の美香さんを見て、朱莉は感極まって美香さんに抱きつく。
「お母さん! お゛か゛あ゛さ゛ーん゛!!」
「え? 朱莉!? 本当にどうしたの? あら? 私どうして泣いてるのかしら?」
普段は大人ぶっている朱莉が小さい子供のように泣いている。
美香さんは何が起こっているかわからず、オロオロとしている。
その頬にはなぜか涙が伝っていた。
「大丈夫だったみたいだな」
「そうですね。あかりちゃん。よかった。よかったね」
俺と京子は胸を撫で下ろしながら抱き合う二人を眺め続けた。
***
「美香さん。問題なさそうで良かったな」
「そうですね。面倒なことにもならなかったみたいですし」
あのあと、美香さんを連れて病院に戻った。
美香さんを探し回っていた刑事さんとお医者さんは直ぐに飛んできて、美香さんの無事を喜んでくれた。
近くの公園で見つけたというと、刑事さんは不思議そうな顔をしていた。
その場所は当然探したそうだ。
お医者さんは患者さんが脱走して公園に行ってしまうことは年に一度はあるらしく、「またあそこでしたか」という割とドライな返答だったが。
だが、美香さんと話をしているうちにお医者さんはどんどん目の色が変わっていった。
美香さんがありえないくらいの回復を見せていたからだ。
美香さんの回復を見たお医者さんは奇跡だと言い出して、即刻、検査をたくさん行なった。
美香さんもいろいろな検査に快く応じていた。
俺としても反対するつもりはなかった。
美香さんは少しの間とはいえ、竜也たちに攫われていたのだ。
何をされたかわからない。
検査はしておいたほうがいいと思う。
検査の結果、美香さんは肉体的にも精神的にも健康体であるとわかった。
ここ最近の記憶が一部飛んでいるが、辛い記憶を忘却してしまうということは健康な人でもたまにあることらしいので、そこまで問題ではないらしい。
確かに、嫌な客の顔とか仕事が終わると思い出せなかったりするもんな。
直ぐに退院しても問題ないそうだが、念の為、一ヶ月ほど入院することになった。
前例がないことなので、この後にリバウンドのようなことが起こるかもしれない。
その場合、病院内にいた方が対処がしやすいからだ。
朱莉が一人になってしまうが、事件は解決したようだし、そちらは大丈夫だろうということになった。
病棟も一般病棟に移り、面会もほぼ制限無しになったそうだ。
今も、朱莉は美香さんのところに残っている。
「竜也たちは捕まったみたいですし、これで元通りの生活に戻れそうでよかったです」
「そうだな」
美香さんの検査をしている途中で、刑事さんのところに電話かかかってきて、斉藤さん一人を残して他の刑事さんたちは飛んでいってしまった。
どうやら、竜也が捕まったという連絡が入ったらしい。
雨も降っていないのに本拠地に雷が落ちたらしく、竜也たち含め、主要メンバーは軒並み倒れていたそうだ。
竜也たちの本拠地は全くマークしていなかった場所で、最初、ただのチンピラグループだと思い、普通の病院に搬送しようとしていたそうだが、倉庫内から竜也たちの犯罪の証拠がゴロゴロ見つかって、それで竜也だと判断されたらしい。
まさに青天の霹靂だ。
どうしてこんなことになったんだろうなー?
本当に不思議だなー。
それにしてもあの火事消しといてよかった。
危うく証拠物件が燃えてしまうところだったぞ。
なんにせよ、これで竜也も捕まったしこの騒動も終わりだろう。




